【SNS投稿和訳】ウクライナ戦域:2024.09.02時点の戦況分析(Jomini of the West氏)
Jomini of the Westというアカウント名でTwitter(現在のX)に、ご自身制作のウクライナ戦況評価分析付き戦況地図を公開されている方がいます。専門家にもXでフォローされている方ですが、2023年の春以降、ウクライナ戦況地図の発表をしなくなっていました。
ですが、本日(2024年9月4日)、同氏が久しぶりにウクライナ戦況分析地図をXで発表していました(上記リンク先から始まる連続投稿)。投稿本文には、各地図記載の「作戦行動予想」の項目を中心とした内容が書かれており、その連続投稿を日本語に翻訳したものが、このnote記事になります。
なお、以下の翻訳記事中で用いた地図はJomini of the West氏がX投稿に添付した地図を転載しています。また、[ ]内記述は、訳者による補足になります。
日本語訳
ウクライナ軍事作戦戦域[TVD]、921日目[2024年9月2日]:
9月2日時点において、ロシア連邦軍は戦略的主導権を保持したうえで、ウクライナTVD全体でロシア側に良好な作戦的モメンタムも維持している。ウクライナ軍はクルスク占領地域を広げる努力を続けており、一方、ロシア地上軍はウクライナ軍部隊をコレネヴォ[Korenevo]から押し出そうと試みている。[ロシア軍]北部作戦部隊集団の攻勢行動は、規模の減少があるとはいえ、ハルキウ地方において、かなりの数のウクライナ軍部隊を拘束することが、依然としてできている。ドンバス地方において、[ロシア軍]第90親衛戦車師団・第27親衛自動車化狙撃師団・第201自動車化狙撃師団の各隷下部隊は、ポクロウシク[Pokrovsk]へ向かう進撃を遂行している。そのなかで第201自動車化狙撃師団は現在、[ウクライナ軍]タウリア作戦戦略部隊集団の作戦上の側面を脅かしている。その側面とは、M30高速道路の南方の地点だ。ザポリッジャ州では、[ロシア軍]ヴォストク作戦部隊集団がヴフレダル[Vuhledar]地域での攻勢行動の準備に取り掛かっている模様だ。ロシア航空宇宙軍はウクライナの電力網への爆撃を行い、ウクライナ空軍はモスクワ地方の燃料・エネルギー複合施設を攻撃目標にした長距離ドローン攻撃を実行した。
ウクライナTVDの現在の天候概要:
気象状況が現在進行中の軍事行動に大きな影響を及ぼす見込みはない。天候は攻勢行動を有利にしている。なお、天候情報はDavid Helms氏のX投稿による。
使用語句:
この連続投稿に添付した地図の理解を容易にする一助として、以下に頻繁に用いられる用語とその定義のリストをあげておく。(注:このリストの修正と内容更新をずっと続けていますが、私がそうすることをお許しください)
北部戦略方面:
ウクライナ軍はクルスク州内での攻勢的軍事行動を最優先にし続けており、その目的は、ロシア連邦軍から戦略的主導権を何とかして奪うことにある。「スーミ」作戦戦術集団(仮)は、グルシュコヴォ[Glushkovo]~クルバキ[Kulbaki]~エリザヴェトフカ[Elizavetovka](セイム川の南岸方面)沿いで、[ロシア軍]第155親衛海軍歩兵旅団を孤立させる取り組みを、今後も続けていく可能性が高い。また、ロシア軍部隊をヴォウチャンシク[Vovchansk]市内北部から押し出し、ベルゴロド州国境地帯への前進という脅威を与えるという大掛かりな取り組みを、[ウクライナ軍]ハルキウ作戦戦術集団が再開する機会は、大雑把にみて50%ほどある。ベラルーシがホメリ州とブレスト州に増強展開させた戦力を、今後、減らしていく可能性はかなり低い。ウクライナ軍が今後もかなりの規模の戦力をウクライナ領北部に展開したままにしておくのはほぼ確実で、その目的は、ベラルーシからの侵攻、あるいは、同国から行われる偽旗作戦行動を抑止することにある。
クルスク作戦方面:
[ウクライナ軍]「スーミ」作戦戦術集団(仮)は、グルシュコヴォ[Glushkovo]~クルバキ[Kulbaki]~エリザヴェトフカ[Elizavetovka](セイム川の南岸方面)沿いで、[ロシア軍]第155親衛海軍歩兵旅団を孤立させる取り組みを、今後も続けていく可能性が高い。また、[ウクライナ軍]第255突撃大隊と第101機械化大隊が、コレネヴォ制圧の試みを再開する可能性は極めて高い。第24突撃大隊に支援された第80空中強襲旅団隷下部隊と、第88機械化旅団から分遣された1個大隊は、リゴフ[Lgov]に向かって38K-24高速道路沿いを北進していくと思われる。スジャ[Sudzha]の東方で前進しようというウクライナ軍の取り組みは現在も続いているが、第47戦車師団に支援されたロシア地上軍は、この方面での「スーミ」作戦戦術集団の攻勢行動を鈍らせている模様だ。クルスクは今後も、ロシア航空宇宙軍が近接航空支援を行う際の3番目の優先地域になる可能性が高い。
ハルキウ作戦方面:
[ロシア軍]第6諸兵科連合軍は、リプツィ[Lyptsi]とヴォウチャンシクに向かう限定的攻勢行動を行うだろう。ウクライナ軍前方展開守備隊を支援する砲兵の位置を特定し、それを攻撃目標にするため、第18親衛自動車化狙撃師団の尖兵部隊は、準備された陣地に強襲を仕掛ける前に、小規模な歩兵突撃グループを使うという手法を、これからもほぼ間違いなく続けていくと思われる。ヴォウチャンシクでロシア軍部隊は、テルノヴァ[Ternova]とルビジュネ[Rubizhne]に向かう攻勢に重点を置きつつ、ヴォウチャンシク北方の小規模な占領地を保持し続けようと、この地区においては防衛に注力していく可能性が高い。ウクライナ軍部隊は防衛態勢を維持しつつ、領土を奪還するための局地的反撃の機会を伺うことを、今後も続けていくことになるだろう。リソースと増援がクルスクあるいはポクロウシクへと向かうなか、ハルキウへのリソースと増援の割り当ては、今後も低い優先度のままだろう。
ドンバス戦略方面:
ロシア地上軍は引き続き今後も、中央作戦部隊集団によるポクロウシク方向先端部での進撃に重きを置いていくと思われる。増援及びTVDレベルの軍事アセットの割り当てに関して、第90親衛戦車師団・第27親衛自動車化狙撃師団・第201自動車化狙撃師団が今後も高く優先される可能性は高い。第201自動車化狙撃師団がウクラインシク[Ukrainsk]で南方に転回し、クラホヴェ[Kurakhove]方向に南進しする可能性は高く、そうすることで、M30高速道路とH15高速道路の間で東西に広がるウクライナ軍陣地を迂回しようとするものと思われる。ここでの前進がヴフレダル方面からの前進と連携していく可能性はだいたい五分五分といえる。その場合の目的は、マクシミリアニウカ[Maksymiliyanivka]からヴォジャネ[Vodiane]を守るウクライナ軍部隊を取り除くことにある。[ロシア軍]南部作戦部隊集団は、H20高速道路沿いに北進するための条件を整える目的で、トレツィク[Toretsk]奪取を目指す突進を継続していくだろう。ウクライナ軍が、ポクロウシク~クラホヴェ線の西方で新たな防衛網を構築するための時間を稼ぐために、土地を犠牲にしていくことになるのはほぼ間違い。
ポクロウシク作戦方面:
[ロシア軍]中央作戦部隊集団は、ポクロウシクを制圧し、ドネツィク州西部でさらなる攻勢行動を進める条件を整える目的で、H32高速道路とM30高速道路の間で、西へ向かう地上攻撃を継続していくものと思われる。中央作戦部隊集団を支援するために、南部作戦部隊集団に属する第51諸兵科連合軍は、トレツィク突破を目指す攻撃を続けていくだろう。なお、トレツィクを突破すれば、南東からコスチャンティニウカ[Kostyantynivka]に向かう前進が可能になる。第201自動車化狙撃師団は転回機動を完遂し、その後、ウクラインシクを攻撃することでクラホヴェへ向かう南方攻撃を進め、東西に広がる[ウクライナ軍]陣地群を迂回していくものと思われる。ロシア連邦軍のリソース割り当ては、今後も中央作戦部隊集団に対して優先的に行われるだろう。[ウクライナ軍]ドネツィク作戦戦術集団が、ロシア軍の前進を食い止めるために防衛線の再構築を行うことになる可能性は高い。
今回の戦況アップデートは、戦域規模の動向を分析する新たな取り組みの始まりです。このような評価分析はその範囲と規模を広げていく予定です。そして、ウクライナでの戦争だけでなく、世界中の紛争や地政学的ホットスポットに関する最新情報を皆さんにお届けする新しいプラットフォーム・メディアを期待しながらお待ちください。
ここで示した公開情報によるウクライナTVDの作戦情勢概要は、ウクライナ・ロシア双方の軍が毎日行っている作戦報告、ウクライナ・ロシア双方のさまざまなテレグラム・チャンネル、西側情報機関の公式発表、軍事アナリストの分析、私自身の専門家としての知見に基づいています。ここに提示した情報に関する誤りは、すべて私自身に責任があり、誤りがあった場合は、今後のアップデートの際に訂正する予定です。
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