Russian Offensive Campaign Assessment, June 20, 2024, ISW ⬇️
ロシア空軍、新型航空爆弾FAB-3000 M-54を投入
戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア軍はハルキウ州内のウクライナ軍展開地点に対する攻撃に、新型爆弾FAB-3000 M-54を汎用滑空・修正モジュール(UMPC)付で使用した。この事例は、ロシア軍がこの種の兵器を今後も自由に使用し続けられる場合に、ロシア軍が新しく大きな破壊力を得る可能性を示している。ハルキウ州リプツィ[Liptsi]のウクライナ軍展開地点とされるところに、FAB-3000 M-54を用いた攻撃が初めて行われたことを示す動画を、6月20日にロシア側情報筋は広く拡散させた。そして、ロシア側情報筋は、この爆弾が設定目標から10メートル離れた地点に落ちたにもかかわらず、かなり大きな破壊をもたらしたことを指摘した。セルゲイ・ショイグ前国防相は、2024年3月のニジニ・ノヴゴロド州訪問の際に、3,000キロを超える重量をもつ無誘導爆弾の派生型であるFAB-3000 M-54の量産を発表した。過去にロシア側情報筋は、FAB-3000 M-54の生産を称賛する一方で、この爆弾の重量と全体的なサイズが、ロシア軍戦術航空機の大多数にとって、この爆弾の運搬をかなり難しいものにしていることを指摘していた。ロシア軍がFAB-3000の運用方法を解決したという事実は大きな進展であり、ウクライナの軍及びインフラに対してロシアが継続して行っている滑空爆弾攻撃の破壊力を増加させることになる可能性がある。ロシア軍はウクライナ国内での誘導式及び無誘導式滑空爆弾の使用をすでに増加させており、これはハルキウ州で顕著で、破壊的な影響を及ぼしている。仮にロシアがFAB-3000を用いた(もしくはさらに炸薬量の大きな滑空爆弾を用いた)大規模な集中爆撃を遂行できるようになった場合、ウクライナ軍の前線展開拠点及び同国の重要インフラに対して、ロシアはよりいっそう広範な被害を与えることができるようになるだろう。ロシア軍事ブロガーは、6月20日の攻撃は特段、精密なものではなかったが、ロシア軍がこれまで500キロ滑空爆弾でしてきたの同じような規模かつ同様に無抵抗な状態で、FAB-3000を使うことができれば特に、FAB-3000の破壊有効半径は精密性の欠如を埋め合わせられるだろうと指摘した。
報告書原文の日本語訳箇所(英文)
一様に低質化するロシア軍地上部隊
戦争研究所(ISW)報告書の一部日本語訳
ロシア軍は歩兵主体の正面突撃への過度な依存を強めており、そのことが、ウクライナの戦場において、ロシア軍戦闘部隊のなかに存在していたさまざまな区分を大きく失わせつつある。そして、これは結果的に前線部隊の任務遂行能力を限りなく小さくさせている。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツは6月20日に、「攻勢における突撃中隊(突撃グループ)の戦闘使用」と題されたロシア空挺軍(VDV)部隊向けの2024年版訓練教本を入手したことを伝えた。マショヴェツは、この訓練教本の目的が、ウクライナでの戦争から学んだ戦場の経験知を、VDVの訓練ドクトリンに取り込むことにあると述べ、この教本が提示している、現在の前線が抱える困難さへの戦術的解決策が、突撃に特化した別働部隊をVDV内に創設することであると指摘した。なお、この突撃分遣隊は主として、旅団、連隊、大隊レベルの部隊から引き抜かれて編成される中隊規模の部隊になるとのことだ。教本によると、突撃グループにはウクライナ軍強化防御拠点や個々の火点の、また、強固に防護された地形の制圧が期待されており、理想的には、より大きな規模の「突撃分遣隊」もしくは「突撃大隊」のなかで行動することが期待されているとのことだ。ロシア軍統帥部がこれらの中隊規模突撃グループに関して、標準で最大2日間の運用期間を想定していることをマショヴェツは強調して伝えている。なお、2日間という期間の理由として、突撃グループが消耗戦的戦闘任務のなかで完全に戦闘能力を使い果たしてしまう期間として、ロシア軍統帥部が2日間という期間を見積もっていることをあげている。
既存の連隊・旅団や大隊から引き抜いて編成する突撃特化中隊というコンセプトは、ウクライナに展開するロシア軍にとって新しいものではない。そして実際に、この一年を超える期間、時折行われる(そして多くは失敗に終わる)機械化部隊攻撃と並んで、前線のほとんどの場所で行われる攻撃戦術として広く普及している。VDV部隊以外のロシア軍部隊内にこの種の特別突撃分遣隊が創設されたことをISWが最初に報じたのは、2023年2月である。そして、このような突撃特化別働部隊を歩兵主体の正面攻撃に投入した結果、2023年を通して、高レベルの消耗度を招くに至ったことを、ISWは確認している。VDV部隊が通常のロシア軍歩兵及び機械化部隊と同様の正面突撃戦術に今や頼るようになっているという事実は注目に値する。そして、このことは、2022年以前のロシア軍内において「精鋭」とみなされていたVDV等の部隊が、大規模な戦争遂行するためにロシア軍統帥部がとった方法が原因で、精鋭部隊としての区分を失いつつあることも示唆している。ウクライナにおけるロシアの戦い方によって、かつては重要な意味をもっていた各種部隊間の差異がなくなっており、前線部隊のすべてが低戦力かつ低質な自動車化狙撃部隊へと大きく格下げされているというISWの以前からの評価分析を、VDVの訓練ドクトリンとして突撃グループを成文化したことが、より強く裏付けている。「シュトルムZ」突撃部隊(VDV訓練教本で示されているのと同様の戦術をとりわけ用いていた部隊)の元訓練教官だった、ロシアの有名軍事コメンテーターは6月20日、歩兵が主導する消耗戦的正面突撃にロシアが依存していることを批判したうえで、こうすることで、ウクライナ軍守備隊に継続的な圧力を加え続けているが、作戦上有意義な結果を出せていないことを指摘した。このような意見があるとはいえ、ロシアが現在、ウクライナで行っている攻撃方法は、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンが最近、はっきりと示したウクライナにおけるロシアの勝利の方程式と一致している。対ウクライナ消耗戦に勝利するためには、ウクライナとその支援諸国・組織に緊迫した状況を及ぼし続けることと並行して、少しずつじわじわとした前進を達成することを、全ロシア軍が行う必要があるということを、プーチンの勝利の方程式は示唆している。
報告書原文の日本語訳箇所(英文)