本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年5月13日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ハルキウ州北部方面のロシア軍の動向とその意図
ハルキウ州方面戦況地図の日本語訳
(米国東部時間2024年5月13日15時現在)
5月10日にロシア側情報筋の一つは、ロシア軍がホプティウカ[Hoptivka]を掌握したと主張した。
5月11日にロシア側情報筋の一つは、ロシア軍がイズビツケ[Izbytske]の北方で前進し、スタリツァ[Starytsya]西側区画内に進入したと主張した。
5月11日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がオヒルツェヴェ[Ohirtseve]を掌握したことが分かる。
5月12日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がルキャンツィ[Lukyantsi]の北方で前進したことが分かる。
5月13日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がフリボケ[Hlyboke]の内部で前進したことが分かる。
5月13日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、ロシア軍がヴォウチャンスク[Vovchansk]の内部で前進したことが分かる。
5月13日にロシア側情報筋は、ロシア軍がヴォウチャ川[the Vovcha River]右岸(北岸)へと進んだと主張した。
報告書の一部日本語訳
5月13日、ロシア軍はハルキウ市から北と北東の方向で戦術的に重要な意味をもつ前進を続けた。そして、ハルキウ州北部への縦深突入を行う準備を整えるよりも、国境沿いに「緩衝地帯」を急ぎ設けることを、現在、優先している模様だ。5月13日に公開された撮影地点特定可能な動画に、ロシア軍がフリボケ[Hlyboke](リプツィ[Lyptsi]の北方)内へと進入しつつある様子と、この村落の中心部で旗を掲げた様子が映っている。だが、ロシア側情報筋の主張によると、ロシア軍はフリボケをすべて掌握できていないとのことで、この集落の西方の地点で、ハルキウ川西岸(左岸)に沿ってロシア軍は前進したとのことだ。撮影地点特定可能な動画で上述とは別のものに、オリーニコヴェ[Oliinykove](リプツィから北東の方向)から南西の地点と、ルキャンツィ[Lukyantsi](リプツィから北東の方向で、オリーニコヴェから南東の方向)の北方で、ロシア軍が前進した様子が映っている。ウクライナ参謀本部の発表によると、ロシア軍はルキャンツィ周辺で何らかの戦術的成功を収めたとのことだ。ロシア軍事ブロガーは、ロシア軍がルキャンツィに進入したと主張したが、この主張を裏付ける映像・画像情報をISWは今のところ確認できていない。ロシア軍はまた、リプツィ方面のピルナ[Pylna](リプツィとオリーニコヴェから北東の方向)周辺でも攻撃を続けた。また、ロシア国防省は、ウクライナ軍がフリボケ周辺で反撃を行ったことを伝えた。
5月12日に公開された撮影地点特定可能な動画に、ロシア軍がヴォウチャンシク[Vovchansk]市内北部に位置するヴォウチャンシク食肉加工工場を奪取した様子が映っている。また、ロシア軍事ブロガーは、ロシア軍が5月13日の朝にヴォウチャンシク市内北部の靴工場も占領したと主張し、その後、ヴォウチャンシク中心部へと前進した結果、夕刻までにヴォウチャ川[the Vovcha River]北岸(右岸)まで到達したと主張した。あるロシア軍事ブロガー・アカウントの主張によると、ロシア軍はスタリツァ[Starytsya]とブフルヴァトカ[Buhruvatka](ともにヴォウチャンシク西方のC-210817道路上に位置)の掃討も行っているが、現在、これらの集落を支配下に置いているわけではないとのことだ。また、この軍事ブロガー・アカウントは、オヒルツェヴェ[Ohirtseve](ヴォウチャンシクから北西の方向)からずっと南の方向にある森林地帯でも、ロシア軍が前進したと主張した。ロシア軍はまた、ヴォウチャンシクの西方のイズビツケ~スタリツァ~ブフルヴァトカ[Izbytske-Starytsya-Buhruvatka]線上とティへ[Tykhe]周辺でも攻撃を行ったが、その地点でウクライナ軍が反撃を仕掛けたことをロシア国防省が伝えている。ロシア側情報筋の主張によると、リプツィ突出部とヴォウチャンシク突出部の間に位置するゼレネ[Zelene](国境沿いのリプツィとヴォウチャンシクの間に位置)付近で戦闘が続いたとのことだ。また、ウクライナ軍がテルノヴァ[Ternova](ゼレネから南東すぐの地点)から一部撤退したと、ロシア側情報筋は主張した。
ヴォウチャンシク市内におけるロシア軍の比較的迅速なペースの前進と、この小都市内の主要水路にかかる橋をいくつかロシア軍が破壊しているという情報から、ISWが以前にロシア軍はそうするだろうと判断したように、同軍が縦深突入よりも「緩衝地帯」の設置を優先していることが推察できる。ヴォウチャンシク市内もしくはそのすぐ周辺の地区で、ロシア軍がヴォウチャ川南岸(左岸)に渡ったという主張やそれを裏付ける情報を、ISWは今のところ確認していない。5月12日にロシア軍が、ヴォウチャンシクの東西隣接地点でヴォウチャ川にかかる橋への攻撃を行ったことは明白だ。そして、5月13日にはヴォウチャンシク市内を流れる川に架かる橋と市内を走る兵站線を、ロシア軍は攻撃目標にし始めており、ヴォウチャンシク市内のヴォウチャ川に架かる橋で使用可能なものは、2本しかない状況だと伝えられている。ロシア軍がハルキウ州北部内へと縦深攻撃作戦を行う場合に、部隊を渡し、ヴォルチャ川対岸への安定的な兵站を確保するのに必要となる橋梁を、ロシア軍が主たる攻撃目標にする理由ははっきりと分かっていない。だが、このような攻撃を行っていることは、ロシア軍がウクライナ北部の陣地化されていない地域で獲得した直近の領土的戦果を優先している可能性を示唆している。ロシア軍はまたこの地域に装甲戦力を配置している模様だ。ロシア側情報筋からの情報によると、ロシア軍は5月12日の夜にヴォウチャンシクに向けて、投入数は不明だが、何両かの戦車を伴った機械化部隊攻撃を行ったとのことで、5月13日の日中も戦車戦力による攻撃を続けたとのことだ。この地域に戦車戦力を投じたということは、ロシア軍がすばやい戦果獲得を目指していることを示しているが、その一方で、ロシア軍が現時点でこの戦果を、ヴォウチャ川南岸でハルキウ州北部内奥へと進むための状況準備に用いているようにはみえない。これらのさまざまな兆候はすべてある一つのことを示唆している。それは、ロシア軍がハルキウ州内へと、もしくはハルキウ市へと縦深進撃する戦果を追い求めるのではなく、以前、宣言されたように、「緩衝地帯」を国境地帯に設けることを試みている可能性が高いということだ。
ロシア大統領ウラジーミル・プーチンやほかのクレムリン当局者は、ウクライナ側の攻撃からロシア領土を守る目的で、ロシアがウクライナ被占領地域に「非武装緩衝地帯」を設けることを、以前から頻繁に提起してきた。駐米ロシア大使アナトリー・アントノフは5月13日、ベルゴロド州から南方で激しく行われているロシア軍攻勢作戦とこの緩衝地帯を直接的に結び付けた。ウクライナ・西側双方の当局者も最近、ロシア軍がハルキウ州に10kmの緩衝地帯を設けようとしていることを指摘している。また、この緩衝地帯ができた場合、ハルキウ市を砲撃できる距離までロシア軍を進出させることができ、それと同時に、ロシア軍兵站の主要結節点をウクライナ軍砲兵の射程範囲から遠ざけることもできるということを、ISWは最近、指摘した。ウクライナ軍野戦指揮官の一人は、ハルキウ州北部のウクライナ軍陣地が国境のすぐ近くの地帯に設けられてなく、その結果、ロシア軍の比較的浅い縦深での迅速な前進を可能にしているという懸念を、最近、表明した。この指揮官よりも高位の、複数のウクライナ軍指揮官は、ウクライナ軍がこの州内の国境から離れた地点に、複数層からなる縦深陣地を構築しているということを述べているが、この内容はほかの野戦指揮官たちからの報告内容と一致している。この方面における現在のロシア軍前進ペースは、攻撃を遂行しているロシア軍がさらなる攻勢を行う能力をもっていることを示す指標では必ずしもないが、伝えられた話によると、ロシア軍はこの作戦軸での初期成功を活用する目的で投入できる予備戦力を、かなりの規模で保持しているとのことだ。
報告書原文(英文)の日本語訳箇所