ドネツィク州方面におけるロシア軍の動向
ウクライナ参謀本部の4月30日朝夕の報告によると、この一日の間でウクライナ軍はロシア軍の攻撃を、アウジーウカ方面において47回、バフムート方面において57回、撃退したとのことだ。このチャシウ・ヤール方面(バフムート方面)でのロシア軍攻撃回数が、ここ最近の報告と比べてかなり多いことにISWは注目している。ロシア軍の行動パターンを導き出すのに、この一日程度の範囲の報告では不十分であると前置きをしたうえで、ISWは、この4月30日の攻撃傾向から、ロシア軍がアウジーウカ方面の攻勢ペースをある程度落とし、一方でチャシウ・ヤールでの攻勢を再び強めているという推察を提示している。
なお、ロシア軍事ブロガーはアウジーウカ方面の複数地点におけるロシア軍の前進を主張しているが、ISWはそのような主張を裏付ける映像・画像を確認していないとのことだ。ただし、オチェレティネ周辺で行動中のロシア軍が、T-0504高速道路のポクロウシク~コスチャンティニウ[Pokrovsk-Kostyantynivka]間から13km離れた地点にいるというロシア軍事ブロガーの見解に関して、ISWはこの見解と自身のロシア軍前進状況評価が一致していると述べている。
ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツ氏によると、ロシア軍はオチェレティネから北西に向かう代わりに、スタラ・ミコライウカ[Stara Mykolaivka]~スハ・バルカ[Sukha Balka]線方向(アウジーウカからH20高速道路沿いに北へ向かう方向)に攻勢重点を置いている可能性があるとのことだ。マショヴェツ氏が指摘するロシア軍攻勢重点は、ISWが最近示したロシア軍行動予測と一致している。ISWはこの動きの目的が、トレツィク[Toretsk]地区を防衛中のウクライナ軍に圧力を加えることと、可能ならば、チャシウ・ヤール市内と同市西方を守るウクライナ軍の作戦後方地域に脅威を及ぼすことにあると指摘している。
なお、チャシウ・ヤールはロシア軍にとって作戦上の重要目標である。その理由として、チャシウ・ヤールという小都市がドルジキウカ[Druzhkivka]やコスチャンティニウカ[Kostiantynivka]といったドネツィク州内の主要要塞化都市に向かう攻撃発起点になることを、ISWはあげている。
このようにロシア軍のアウジーウカ方面からの北進は、ウクライナ側にとってかなり大きな問題ではあるが、そのためにロシア軍は既存戦力の増強と増援戦力の再配置を行わねばならず、その結果、比較的長めの作戦休止期間を設ける必要がロシア軍に生じると、ISWは指摘する。なお、マショヴェツ氏は、アウジーウカ方面を担当しているロシア軍中央部隊集団が3個の小型な歩兵連隊を戦術予備として有していると述べている。また、予期されている春・夏季攻勢を支える目的だと思われる作戦・戦略レベル予備戦力の構築を、ロシア軍が進めていると、ISWは評価分析している。
報告書原文の参照箇所(引用)
関連記事