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【英文記事和訳】ウクライナ戦況報告:2024年5月17日(FRONTELLIGENCE INSIGHT)

上記リンクの英文記事は、ウクライナ軍元将校Tatarigami氏が設立した戦争・紛争分析チーム「フロンテリジェンス・インサイト」のウクライナ戦況報告最新版(2024年5月17日)になります。

以下は、この英文記事の日本語訳になります。翻訳記事中で使用した画像は、フロンテリジェンス・インサイトの記事原文から転載して使用しています。

日本語訳:ウクライナ東部  情勢報告2024.05.17

戦線全体の情勢は依然として厳しい。ロシア軍はバフムート地区での攻撃を激化させており、かなりの規模の兵力を投入している。ロシア軍はまた、クラスノホリウカ[Krasnohorivka]地区で領土を広げており、ハルキウ州では、ある程度の戦術レベルの前進に成功している。このような進展があったにもかかわらず、ドンバス戦線は比較的落ち着いており、防衛崩壊が差し迫っていることを示す兆候はない。一方、ロシア軍はスーミ州での兵力集結を続け、示威的な行動を行い続けている。なお、この動きを私たちのチームは注意深くモニターしている。現時点で確認できてる内容を以下に記す。

チャシウ・ヤール~バフムート[Chasiv Yar - Bakhmut]

チャシウ・ヤールに対する攻撃初期の数週間、運河まで進撃する、また、小規模な部隊で運河を越える事例を示すなど、ロシア軍は迅速な成功を収めたにもかかわらず、結局のところ、同軍は運河対岸に足場を築くことができず、運河を越えて前進することもできていない。多くの自動車化狙撃部隊に支援された複数の空挺連隊・旅団も含め、部隊の集結を行ったけれども、ロシア軍はカリニウカ[Kalynivka]地区を越えて、さらに前進することができていない。ロシア軍はまた、運河東岸側に位置する運河地区においても進めずにいる。ロシア軍はチャシウ・ヤールの南側面方面で進もうと試みているところで、小隊規模の装甲戦闘車両を投入している。装甲戦闘車両の投入は、中隊規模の場合さえある。だが、今のところ有意義な結果に結びついていない。

バフムートの南方での情勢は現在、チャシウ・ヤール方面以上に悪くなっている。ロシア軍はクリシチーウカ[Klischiivka]に向かって前進しようとしており、ウクライナ軍がかなり頻繁に攻撃されているという内容の報告を複数、不幸なことではあるが、私たちは受け取っている。今までのところ、これらの攻撃の大部分が不成功に終わっており、その結果、ロシア軍の装備と兵員に大きな損失が生じている。また、全般的にいって、クルディウミウカ[Kurdyumivka]~クリシチーウカ方面にもっと注意を向けてもらいたい。ハルキウ攻勢に関心が集まっているため、ほとんどといってよいほどメディア報道がなされていないが、この方面にかかる圧力は、深刻なほどに大きい。

ハルキウ州

ハルキウ地区の情勢は依然として困難なものである。けれども、私たちのチームは、不安定ながら、現状、戦線崩壊のリスクはないという見解におおむね同意する。ロシア軍が足場を築く試みとして、さらに南方に位置する森林地帯と住宅地帯に浸透し続けていることを示す情報が存在している。だが、ロシア軍に南方に深く前進する能力があるという見方に対して、私たちは懐疑的である。その理由は複数ある。

  1. ロシア軍は初期時、第一撃のために歩兵部隊を国境沿いに分散配置できたが、その部隊がウクライナ領内へと進んでいくにつれ、前進した部隊への補給はますます難しくなった。さらなる南進を試みる場合、前進部隊のための兵站組織を整える必要がロシア軍に生じてくるだろう。そして、そのためには多くの車両が必要になる。ドローン部隊や砲兵部隊が付随した経験豊富な複数の旅団を他の地区から引き抜いて配置していることを考えると、兵站の拡張を組織化することは、ロシア軍部隊にとってかなり困難な仕事になるだろう。

  2. 戦車のような任務に即した戦闘車両を十分に装備した機械化部隊がない場合、防衛網を迅速かつ決定的に突破し、そこから進入していくことは、かなり困難な任務になる。この限界によって、前進はかなりゆっくりとしたものになり、また、より限定的なものになる可能性は高い。そして、このことはロシア軍の進撃を全体的に阻害するものになるだろう。

以前、示したように、この地域での作戦はウクライナ軍のリソースをドンバスから逸らし、すでに人員不足な各旅団を、広がった戦線に沿ってもっと引き伸ばしていくことを、その目的にしている可能性が高い。では、このプランは成功しているのか? 結論を先に述べると、包括的な見解を示すことは、今の時点ではできない。そうであるとはいえ、ウクライナがハルキウ地区を防衛するために、保有旅団の一部をこの方面に配置転換せざるを得なくなったことを、私たちは確認している。他方、ロシア軍の大規模な新規予備戦力が、大々的にドンバスへと送り込まれている様子も確認されていない。もし大規模な予備戦力がドンバスに向けられることがあれば、ウクライナ軍予備戦力がほかの場所で交戦する間に、防衛部隊が圧倒されてしまう可能性が生じるだろう。今後、このような展開が起こる可能性は除外できないが、今の時点で、このようなロシア側の動きは確認されていない。

クラホヴェ[Kurakhove]地区

クラスノホリウカ~クラホヴェ[Kurakhove]地区の情勢は、依然として懸念すべきものだ。なぜなら、クラスノホリウカでロシア軍が続けて前進できているからだ。おそらくではあるが、ロシア軍はクラヒウカ[Kuralhivka]まで進もうとするかもしれず、その場合、ロシア軍はクラホヴェを兵站ルートから切り離す好機を手に入れることになる。この地域には比較的防衛に適した建築物が存在し、地形も比較的防御に適していることを踏まえると、ロシア軍がここで迅速に前進できることを、私たちは予期していない。複数の方面で同時並行的に前進しようとロシア軍が試みていることを考えると、ロシア軍はここで十分な戦力をもてず、この地域での目標達成に苦戦することになる可能性がある。とはいえ、もっとゆっくりとしたペースでの漸進的な前進は現状でも可能であり、そのことが情勢を厳しいものにしている。

スーミ~チェルニヒウ[Sumy-Chernihiv]地区

ここ1カ月間、私たちのチームは、スーミ州周辺とチェルニヒウ州周辺におけるロシア軍の動きをモニターし続けてきた。チェルニヒウ州方面に大規模な侵攻戦力が存在していることは確認されていないが、戦線を拡大し、ウクライナ軍に部隊配置転換を強いる目的で、小規模かつ局地的な国境侵犯をロシアが行う可能性は除外できない。スーミ州方面に関しても同様に監視を行っており、この方面では、チェルニヒウ周辺地区よりも大規模なロシア軍戦力の集結が確認されている。スーミ州周辺方面での正確なロシア軍戦力規模を試算することはできないが、ロシア軍の示威的行動と解釈できる動きを、私たちは確認している。おそらく自軍戦力を誇張することで、部隊規模を大きく見せようとしているのだろう。そうであるとはいえ、ロシア軍が国境を越えてスーミ州へも侵攻するという脅威は現実的なもので、その意図はハルキウ州侵攻と同様の目的を達成することにある。

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