本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月21日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で用いた地図は、ISW制作地図とGoogle Earth画像である。ただし、一部、加工してある。また、本記事サムネイル画像は、ウクライナ軍参謀本部のFacebook投稿写真を使用した。
ロシア軍のアウジーウカ攻勢
日本語訳:
ここ数日間、アウジーウカへの新たな攻勢の取り組みをロシア軍は激化させているが、ウクライナ軍はそのロシア軍攻勢を撃退している可能性が高く、この地区のロシア軍部隊に対して、さらに多くの兵員・装備の損失をもたらした。ウクライナ・ロシア双方の情報筋は、10月19日と20日の間にロシア軍が新たなアウジーウカ攻勢進撃を開始したことを示した。そして、10月21日投稿の動画で、撮影地点の特定が可能なものによって、ロシア軍がアウジーウカ北方の石炭屑集積場付近でわずかに占領地を広げたことが確認されている。ロシア軍事ブロガーは、ロシア軍がアウジーウカ北方の石炭屑集積場付近でベルディチ(アウジーウカ北西5km)に向かって、徐々に進んでいると主張した。あるウクライナ人軍事ウォッチャーは、ロシア軍がステポヴェ(アウジーウカ北西3km)、ノヴォカリノヴェ(アウジーウカ北方7km)、クラスノホリウカ〜ヴェセレ地区から石炭屑集積場へと、それぞれの方向で攻撃していると述べた。一方、ウクライナ軍当局者は、10月21日のアウジーウカ周辺におけるロシア軍攻勢作戦のペースが、ある程度落ちてきていると述べたうえで、10月19日のアウジーウカ攻撃の際に、ロシア軍が戦車50両、装甲車両100両、将兵900人を失ったという以前の報告を繰り返し述べた。エストニア国防軍情報センターの長であるアンツ・キヴィゼルクは、アウジーウカ進撃をハルキウ・ルハンシク州境での攻勢作戦と並行して行われるロシア軍新攻勢の潜在的な攻勢軸として、強調して示した。ロシア軍がアウジーウカ地区での攻勢の取り組みに多くの兵力と装備を新たに投入し続けているという事実が示唆しているのは、甚大な損失と、攻勢に関わるロシア軍の全般的な質の低さという問題があるにも関わらず、ロシア軍統帥部がこの方面の取り組みを優先し続けているということだ。ウクライナ軍当局者の一人の指摘によると、ロシアの正規軍歩兵と戦術は明らかに「一貫してひどい」とのことで、ロシア軍は代わりに無人航空機システム(例えばランセット・ドローン)、火砲、航空機に依存するようになっているとのことだ。ロシア軍はアウジーウカ付近での攻勢遂行において、非効率で犠牲の大きい戦術を用い続けて、多くの兵力と車両を失うという結果に陥っている模様だ。また、この1週間、複数回にわたる攻撃でロシア軍がそれを継続的に行っていることは、ロシア軍統帥部が、継続して増加する損失にも関わらず、この方面を優先し続けていることを示唆している。
ウクライナ軍のドニプロ渡河
日本語訳:
ウクライナ軍がヘルソン州東岸で新たに確保した拠点に補給をし、そこに増援を送ることをロシア軍は阻止しようとしているが、その阻止の遂行に苦慮している。BBCロシア支局の10月21日付報道によると、東岸での地上作戦に関わっているウクライナ軍兵員が、我々はクリンキ(ヘルソン市北東30km、ドニプロ川から2km)の完全掌握を目指して戦っていると述べたとのことだ。複数のロシア軍事ブロガーが、クリンキ内拠点をウクライナ軍が保持しているという見解を示したものの、どの程度の拠点を保持しているかについては意見が分かれた。ある有名なロシア軍事ブロガーは、ウクライナ軍がクリンキ南方で最大で約2km前進したと主張した。もう一人の軍事ブロガーは、ウクライナ軍がクリンキすべてを制圧したと主張した。だが、別の軍事ブロガーはこの主張に対して直接的に反論し、ロシア軍がウクライナ軍破壊工作・偵察グループ1個を、この集落の南端陣地から押し出したと主張した。複数のロシア軍事ブロガーの主張によると、オレシキー(ヘルソン市南方7km、ドニプロ川から4km)北方に位置するアントニウシキー道路橋の近くにあるウクライナ軍陣地を、ロシア軍は砲撃しており、ポイマ(ヘルソン市南東10km、ドニプロ川から4km)北方のアントニウシキー鉄道橋付近のウクライナ軍陣地も砲撃しているとのことだ。ある軍事ブロガーは、クリンキ付近とピシチャニウカ(ヘルソン市南東12km、ドニプロ川から3km)付近で部隊間での交戦があったと主張したが、ロシア側情報筋のほとんどは、ロシア軍が主に航空機と砲兵部隊を使って、東岸のウクライナ軍をその拠点から追い出そうとしていると主張した。一部のロシア軍事ブロガーは、ウクライナ軍がドニプロ川を通して負傷兵を後送しており、東岸の拠点を支えるためにドニプロ川を渡って新戦力と軽装備を輸送していると主張した。10月17日から18日にかけての夜に、ウクライナ軍がいつもより規模の大きな地上攻撃を初めてから、同軍は東岸での部隊展開を維持している。このことが示唆しているのは、ドニプロ川流域でのロシア側航空活動が増加しているにも関わらず、ウクライナ軍は、この作戦の実行部隊に補給と増援を送ることができているということだ。