以下は、戦争研究所(ISW)の8月24日付ウクライナ情勢報告から、ウクライナ軍攻勢の状況評価に関する記述の原文を引用し、和訳したものである。なお、記事中で使用した地図には、ISWインタラクティブ・マップの画像を利用して、一部加工したものもある。
日本語訳:
ウクライナ軍は8月24日、ザポリージャ州西部ロボチネでロシア軍第2防衛線に接近し、この地区のロシア軍防衛線に開けた突破口をさらに広げた。8月24日投稿の撮影地点が特定できる動画に、ウクライナ軍がヴェルボヴェ(オリヒウ南東18km)の南東でロシア軍防衛線に向かってさらに前進し、それと並行して、ロボチネ(オリヒウ南方10km)の南側区画へもさらに前進した様子が映っている。ロシア軍事ブロガーの一部は、ロシア軍がロボチネ南側区画で維持している陣地は、維持できていたとしてもわずかであるという見解を示し、また、ロボチネの東方で戦闘が続いていることを示唆した。ある有名なロシア軍事ブロガーは、ザポリージャ州西部のロシア軍防衛線でウクライナ軍が開けた突破口に関する懸念を表明し、これは戦場における決定的な瞬間だと述べた。この軍事ブロガーの指摘によると、ロシア軍は少なくともあと1カ月半、陣地を保持する必要があるとのことで、その理由として、戦線のほかの地域での戦果達成を試み、戦況をロシア軍有利な状況にシフトさせるように試みる必要があることを挙げている。ウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジュニー大将はウクライナ軍反攻についての批判に反応して、次のように述べている。この戦いは反乱鎮圧作戦ではなく、クルスク会戦なのだと。ザルジュニー大将が引き合いに出したのは、第二次世界大戦において数週間続いた会戦であり、この戦いにおいてソ連軍は戦場での主導権を取り戻すことができ、領土の多くの範囲を奪還することができた。
日本語訳:
ウクライナ軍南部作戦管区報道官ナタリア・フメニュク海軍大佐の報告によると、ロシア軍はヘルソン州からザポリージャ州戦線へとさらに横滑り的な部隊配置転換を実行しているとのことで、このことは、ザポリージャ方面のロシア軍防衛線を、ウクライナ軍がさらに弱体化させていることを示唆している。フメニュク大佐は8月23日の報告で、ロシア軍がヘルソン方面の部隊をザポリージャ方面に移していることに触れ、その理由として、ロシア軍ザポリージャ州防衛部隊の負傷者数の多さを挙げた。ザポリージャ方面へと横滑り的再配置されたロシア軍部隊に関する詳細情報を、フメニュク大佐は具体的に示すことはなく、ロシア軍戦力が再展開した先がザポリージャ州西部なのか、それともドネツィク・ザポリージャ州境地域なのかも示さなかった。ロシア軍は、6月にウクライナ軍反攻作戦が始まったのに続いて、第7親衛空挺師団に属する部隊をヘルソン方面からドネツィク・ザポリージャ州境地域に再配置しており、8月上旬にはザポリージャ州西部ロボチネ地区へとさらに再配置を行った。ウクライナ軍の反攻作戦の結果、戦線上の数箇所でロシア軍守備戦力が継続的に低下していくなか、ロシア軍に作戦予備戦力がないことで、ロシア軍統帥部は追加の部隊再配置を強要されることになるという評価分析をISWは以前示したが、フメニュク報告はこの評価分析を裏付けるものになっている。ロシア軍の横滑り的部隊配置転換は、ロシア軍防衛線を全体的に弱めていくことになる可能性が大きい。なぜなら、このような配置転換によって、ウクライナ軍に付け込める好機を新たに与えることになるからだ。このような好機を上手く活かすために、または、ロシア軍の新たな横滑り的部隊配置転換を妨げるために、ウクライナ軍が戦線上の数地区での作戦任務を続けなければならなくなる可能性は大きい。そうすることで、それらの地区のロシア軍が釘付けにされる、もしくは、どの方面を増強すべきかというジレンマに、ロシア軍統帥部は直面させられることになる。単一攻撃軸に特化した攻勢をウクライナ軍が行った場合、すでにISWが指摘したことではあるが、ロシア軍は戦線上の他地区の弱体化を気にすることなく、ウクライナ戦域の別の場所から、その戦力を横滑り的に再配置することができるようになるだろう。
日本語訳:
ウクライナ軍は8月24日、ロシア占領下クリミアの西部海岸への小規模襲撃を行った。ウクライナ国防省情報総局(GUR)は、ウクライナ部隊がオレニウカとマヤク(ともにセヴァストポリ北東*116km)付近の海岸に上陸した様子を撮影した動画を投稿し、上陸を行ったことを発表した。GURの発表によると、ウクライナ軍はロシア軍部隊と小規模な戦闘を行い、海岸を離れる前にウクライナ国旗を掲揚したとのことだ。ロシア軍情報筋のほとんどが今回の上陸を重要性の低いものとして軽視しているが、軍事ブロガーの一部は、黒海西部及びクリミア西部のロシア軍防衛の脆弱性に関する懸念を示した。