本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年5月12日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ウクライナ戦況:ハルキウ州北部方面情勢
報告書の一部日本語訳
ここ直近の間にロシア軍がハルキウ[Kharkiv]州北部のヴォウチャンシク[Vovchansk]方面(ハルキウ市から北東方向)において、戦術規模でさらに前進したことが確認されている。また、同軍は5月12日もこの地域において限定的な攻勢作戦を続けた。5月11日に公開された撮影地点特定可能な動画に、オヒルツェヴェ[Ohirtseve](ヴォウチャンシクの西方)で行動中のロシア軍が示されている。このことは、ロシア軍がオヒルツェヴェ全体をすでに掌握していることを示唆している。ヴォウチャンシク方面で戦闘中のウクライナ軍将校の一人は、情勢が極めて困難であることを述べたうえで、その理由として、ウクライナ軍がこの地域に適切な強化防御陣地を有していないことをあげた。また、この将校は、ロシア軍がヴォウチャンシクを取り囲んでいることと、ヴォウチャンシクのなかで遭遇戦がすでに起こっていることも伝えた。いくつかのロシア軍事ブロガー・アカウントは、ヴォウチャンシク内での戦闘に関して意見を交わしている。ロシア軍がすでにヴォウチャンシクを取り囲んでいるというウクライナ軍将校の報告と、ヴォウチャンシク内で市街戦が起こっているというロシア軍事ブロガーによる主張を踏まえて、ロシア軍はハティシチェ[Hatyshche](ヴォウチャンシクの北西側で隣接)とティヘ[Tykhe](ヴォウチャンシクの東側で隣接)も占領した可能性が高いと、ISWは判断している。ロシア軍がブフルヴァトカ[Buhruvatka](ヴォウチャンシクの西方)付近で攻撃を行ったことをウクライナ参謀本部は追加報告しており、この報告が示唆しているのは、ロシア軍が国境線とブフルヴァトカ~スタリツァ[Buhruvatka-Starytsya]地区の間のエリアを固めている可能性が高いということだ。ウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツは、ヴォウチャンシク方面でロシア軍が2.5km前進したと報じたうえで、ロシア軍統帥部がヴォウチャンシク方面に、第11軍団(レニングラード軍管区[LMD])に属する自動車化狙撃大隊を少なくとも4個投入していることを指摘した。軍事ブロガー・アカウントの一つは、ヴォウチャンシク方面においてロシア軍が30km幅の戦線沿いで、縦深7km分前進していると主張した。
ロシア軍がここ直近でリプツィ[Lyptsi]方面(ハルキウ市の北方)で前進したことも確認されている。また、同軍は5月12日、この地域において限定的な攻勢作戦を続けた。5月12日に公開された撮影地点特定可能な動画に、ロシア軍がピルナ[Pylna]の南方、ルキャンツィ[Lukyantsi]の北方(リプツィから北東方向)に存在する防風林まで前進した様子が示されている。ロシア・ウクライナ双方の情報筋は、リプツィ方面のフリボケ[Hlyboke](リプツィの北方)周辺とルキャンツィ周辺での戦闘を伝えた。マショヴェツは、リプツィに向かうロシア軍攻勢はヴォウチャンシクへのロシア軍の行動を支えるものだと述べたうえで、ロシア軍がフリボケとルキャンツィに向かって、3.2kmから3.7kmの距離を前進したと指摘した。また、リプツィ方面のロシア軍戦力が3個自動車化狙撃大隊程度であることと、ロシア軍統帥部が第11軍団と新設の第44軍団(双方ともにLMD所属)からの予備戦力を、リプツィ作戦軸の北東に位置する、ロシア領ベルゴロド州内のジュラヴレフカ~ウスティンカ~ヴェルギレフカ[Zhuravlevka-Ustinka-Vergilevka]地区に送り込んでいることを、マショヴェツは伝えた。あるロシア軍事ブロガー・アカウントの主張によると、ハルキウ州北部地区内への突破進入における西側戦線上20km幅の箇所で、ロシア軍は縦深8km分前進しているとのことだが、ここで指摘されている地点はリプツィ方面のことである。ウクライナ側情報筋は、ハルキウ北方方面の集落の一部でロシア軍が前進しているにもかかわらず、これらの集落は「グレーゾーン」で、まだ両軍が相争う状況が続いていると述べたが、このことから、ウクライナ軍がこれらの地区の支配権を巡って戦うなか、反撃を頻繁に行っていることが推察できる。
報告書原文(英文)の日本語訳箇所