本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年2月27日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
アウジーウカ方面戦況分析
報告書原文の引用(英文)
日本語訳
ロシア軍は、アウジーウカを占領したことがもたらした戦術的好機につけ込んで、戦果拡張を試みているところで、ウクライナ軍がより一体性の強い、突き崩すのが困難な防衛線をアウジーウカ方面で構築する前に、できる限り進撃しようと、攻勢作戦のテンポを比較的高く保っているようにみえる。2月17日にロシア軍がアウジーウカを奪取したのち、同市で掃討戦を行っていた間、ロシア軍の作戦進捗ペースは一時的に低下した。しかし、それ以降、アウジーウカからさらに西方とさらに北西の方向において、ロシア軍は比較的高いテンポの攻撃を始めている。2月27日にウクライナ軍タヴリーシク部隊集団ドミトロ・リホヴィー報道官は、ロシア軍が最近、タヴリーシク方面(ザポリッジャ州西部からアウジーウカ)の攻撃部隊の規模を、分隊規模の小グループから小隊規模のグループに、場合によっては中隊規模のグループへと、大きくさせていることを指摘した。ロシア軍は現在、アウジーウカ西方に位置するベルディチ、オルリウカ、トネンケの方面での攻撃に重点を置いており、それらの地点では、ウクライナ軍が自軍のアウジーウカ撤退を援護し、その後のロシア軍攻勢作戦を待ち受けるために、当座の防衛陣地を構築している。リホヴィーとタヴリーシク部隊集団オレクサンドル・タルナウシキー司令官は、2月27日時点でトネンケ〜オルリウカ〜ベルディチの線上での防衛線を、ウクライナ軍が安定化させていると語った。その一方で、ウクライナ人軍事ウォッチャーは、アウジーウカ西方のウクライナ軍強化防御陣地を、「がっかりする」もの、「問題がある」ものと説明した。ロシア軍事ブロガーは、ウクライナ軍がアウジーウカのすぐ西にある防御陣地の保持に困難を抱えていると主張したうえで、ウクライナ軍は、2023年11月になって構築し始めた、より西方に位置する防衛線上に集結するだろうと予測した。
ウクライナ軍が小休止できないようにするために、ロシア軍は前進を試み続けている可能性が高い。なお、小休止がとれていた場合、ウクライナ軍はアウジーウカのすぐ西で、もっと一体性の強い、突き崩すのが困難な防衛線を構築できたであろう。アウジーウカ占領によって、ロシア軍はウクライナ軍陣地に圧力をかけることが可能になっているが、この陣地は、アウジーウカ市内もしくはアウジーウカからさらに西方のウクライナ軍陣地と比べて、短い期間で兵力を配置した陣地だ。そして、ロシア軍はこの戦術的チャンスを利用しようと試みて、高い作戦進行テンポを持続させている可能性が高い。これからの数週間、ロシア軍には、アウジーウカのすぐ西方と、すぐ北西方向にある集落群を制圧することができる可能性が生じる。しかし、アウジーウカからさらに西方の地区の地形と、そこに存在する河川等、特にベルディチ〜セメニウカ〜オルリウカの間を流れる河川は、この地域でペースが遅くなりつつあるロシア軍の前進を、遅滞させることになる可能性が高い。この厳しい地形は、ロシア軍がさらに戦術的戦果をあげることを制限していく可能性が高い。また、この地形によって、ウクライナ軍が整えられた防御陣地を構築できる可能性も高い。このような陣地は、少なくともロシア軍が攻撃部隊を増強するまで、もしくは、ロシア軍が攻撃部隊を増強しない場合、現在、この地域で進められているロシア軍攻勢が最終的にピークに達することを促進していく可能性が高い。
アウジーウカ方面における最近のロシア軍の前進をさらに押し進める目的で、ロシア軍が作戦機動戦力を新たに編成しようと試みている可能性が高い。2月27日にウクライナ人軍事ウォッチャーのコスチャンティン・マショヴェツは、ロシア軍がドネツィク市〜アウジーウカ作戦軸の担当責任を、ロシア軍中央部隊集団へと正式に移管し、中央部隊集団の以前の作戦担当地域(AOR)だったリマン方面を、ロシア軍西部部隊集団に正式に引き渡したと述べた。ロシア軍西部部隊集団(ほぼすべての部隊が西部軍管区[WMD]隷下部隊で構成されている可能性が高い)は、2023年晩秋から初冬に、少なくともリマン方面の一部の担当責任を負っていた。そして、それ以前の2023年10月にロシア軍統帥部は、中央部隊集団(主に中央軍管区[CMD]隷下部隊で構成されている)の戦闘参加部隊の大半を、アウジーウカ占領攻勢のために同市方面に再配置した。ロシア当局者は最近、アウジーウカ占領に関して中央部隊集団を称賛し、注目すべきこととして、CMD司令官アンドレイ・モルドヴィチェフ大将を強調してとりあげており、アウジーウカ方面が中央部隊集団のAORであることをますます明確にしている。2023年秋以降、アウジーウカ地区に「事実上」存在している指揮系統を、ロシア軍統帥部が正式化することに決めた可能性があり、その目的は、アウジーウカ方面での最近の進撃という戦果の拡張を意図した機動戦力の創設を明確に行うことにある。アウジーウカ〜ドネツィク市作戦軸は、ウクライナに展開するほかのロシア軍部隊集団のAORと比較して、相対的に戦線幅の狭いAORだ。そして、この焦点を絞った作戦責任範囲が示唆しているのは、短中期的にアウジーウカ方面において、CMD部隊に攻勢任務の遂行を継続させる意図を、ロシア軍統帥部がもっている可能性が高いということだ。
戦争研究所:ウクライナ戦況インタラクティブ地図