本記事は、戦争研究所(ISW)の2024年5月11日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。
ハルキウ州方面情勢に関するISW評価の要点
ハルキウ州方面戦況地図の日本語訳
(米国東部時間2024年5月11日15時現在)
5月10日にロシア側情報筋の一つは、ロシア軍がホプティウカ[Hoptivka]を占領したと主張した。
5月11日にウクライナ軍ホルティツィア部隊集団報道官ナザール・ヴォロシン中佐は、ロシア軍がオヒルツェヴェ[Ohirtseve]付近で戦闘中であることを認めた。
5月11日にロシア側情報筋の一つは、イズビツケ[Izbytske]の北方とスタリツィヤ[Starytsya]内西部でロシア軍が前進したと主張した。
5月11日にロシア側情報筋の一つは、ロシア軍がフリボケ[Hlyboke]を掌握したと主張した。
5月11日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、モロホヴェツ[Morokhovets]から南西の地点でロシア軍が前進したことが分かる。
5月11日投稿の撮影地点特定可能な動画によって、コロミーチーハ[Kolomiychiyha]の西方でロシア軍が前進したことが分かる。
報告書の一部日本語訳
ロシア軍はハルキウ州北部のロシア・ウクライナ国境沿いで比較的限定された攻勢作戦を遂行しているところで、あまり防御措置がとられていない可能性の高い地区で戦術レベルではあるが大きな戦果を収め続けた。この限定的な作戦に投入されたロシア軍部隊と、ウクライナ北部国境地帯沿いに展開しているロシア軍部隊集団の規模に関して報じられている内容は、ロシア軍が現時点でハルキウ市の側背に回り込む、同市を包囲する、または同市を占領するという大規模な作戦を目指していないことを示している。[略]
報じられた話によると、ロシア軍北方部隊集団の戦力が最終的な予定戦力と伝えられている規模に達する前に、ロシア軍はハルキウ州北部のロシア・ウクライナ国境沿いで攻勢作戦を開始したとのことで、この地区の攻勢作戦に投じられている戦闘力は、今のところ限られた規模のものに過ぎないとのことだ。[略]目下遂行中のこの地区での攻勢作戦を強化していくために、ロシア軍が予備戦力を投入することになる可能性は高い。けれども、入手したあらゆる情報から判断すると、ハルキウ市側背への機動、同市の包囲、もしくは占領を目指す大規模攻勢作戦を試みるのに必要な兵力を、ロシア軍は有していない。
ハルキウ州北部におけるロシア軍攻勢作戦は、戦線上のほか地区からウクライナ軍戦力を誘引する一方で、ハルキウ市を砲撃できる範囲内までロシア軍を進められるようにすることを目的としている可能性が高いと、ISWは以前同様に判断している。[略]ハルキウ市の掌握が、ロシア軍の望む作戦目標であることはほぼ確実であるが、この目標をロシア軍が短期的に追及しているようにはみえない。
ロシア大統領ウラジーミル・プーチンとロシア軍統帥部は、ロシア軍が占領したウクライナ領土を、ウクライナ軍が現在も将来も解放することができないという仮定に基づいて、ハルキウ州北部方面攻勢作戦のリスク、見込み、作戦期間を判断している可能性がある。ウクライナ軍の領土奪還という脅威に関するプーチンとロシア軍統帥部の計算が、ウクライナ領土の奪取に関するロシアの全般的な作戦アプローチを形づくっている可能性が高い。[略]
ハルキウ州北部におけるロシア軍の限定的攻勢作戦は、米国の安全保障支援の再開がプーチンの計算を変えていないことを示唆している。もしくは、ウクライナ軍の能力に関する作戦基本前提を、支援再開に注目して再検討することなく、プーチンがハルキウ攻勢を開始したことを示唆している。[略]
国境地帯におけるロシア軍攻勢作戦の前進方向は、ロシア・ウクライナ双方の当局者が最近指摘していたように、ロシアがベルゴロド市を防護するための「緩衝地帯」を設けようと試みている可能性を示唆している。[略]
ロシア軍はドネツ川東岸方向の戦場空間を迅速に孤立化させることと、ヴォウチャンシク[Vovchansk]の掌握を試みている模様だ。この方向への前進ができれば、ロシア軍はクプヤンシク[Kupyansk]方面のウクライナ軍守備部隊に脅威を及ぼすことができると、ロシア軍が真剣に考えている可能性がある。[略]
報告書原文(英文)の日本語訳箇所