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【報告書紹介】 “肉挽き器: ウクライナ侵略2年目のロシア軍戦術” (Meatgrinder: Russian Tactics in the Second Year of Its Invasion of Ukraine, by Jack Watling & Nick Reynolds, RUSI, 19.05.2023)

以下の記述は、上記報告書の日本語による内容要約になります。

2022年のロシア軍損失の大きさに、NATO型システムとの戦闘も加わり、ロシア軍には戦前ドクトリンからの逸脱が生じた。このレポートでは、ロシア軍の戦術的適応とそれがウクライナ軍に与える課題のアウトラインを示すことを目的とする。

歩兵

大隊戦術群(BTG)という統一された編制から、任務別編制に変更されている。具体的には、戦線保持部隊・強襲部隊・専門部隊・使い捨て部隊となる。

戦線保持部隊は前線維持と拠点防御に用いられる。また、使い捨て部隊によって敵火点を特定し、専門部隊が目標設定を行い、強襲部隊が攻撃する。ロシア軍歩兵の問題点は低い士気にあり、これが部隊内一体性と部隊間協同を阻害している。

工兵

ロシア軍工兵は、同軍の様々な兵科のなかで、依然として相対的に強力な兵科の一つである。この工兵が構築し、現在も構築しつつある複合的な防御陣地群は、ウクライナ軍攻勢作戦にとっての主たる戦術的課題となる。

戦車

ロシア軍戦車隊が突破用に投入されることは稀になった。現在は主に、ウクライナ軍陣地に正確な火力を投射するための支援兵器として展開している。

また、ロシアは戦車の赤外線カモフラージュを行い始めており、戦術や運用手順の修正も様々行っている。その結果、戦車がその射程外から探知される可能性は、かなり減少しつつある。それゆえ、1,400mを超えた射程からの対戦車ミサイルによる被撃破リスクは減少している。

砲兵

2022年7月にウクライナ軍の多弾頭誘導ロケット砲システム(GMLRS)によって、弾薬庫と指揮統制インフラが破壊されたのち、ロシア軍砲兵はその偵察・攻撃複合能力の大幅な改善に着手し始めた。その結果、指揮官をサポートする様々なUAVとのさらなる統合ができつつある。

ロシア軍砲兵は複数発射地点からの同一目標攻撃能力、射撃後退避能力を向上させ、ウクライナ側による対砲兵射撃の影響を低減させている。このことを可能にしたのは、”ストレレッツ”通信・データリンクシステムのようだ。

また、ロシア砲兵は、152mm榴弾砲から120mm迫撃砲へと依存度を高めているが、弾薬と砲身の入手し易さがその理由になっている。

反応が向上したロシア砲兵の存在は、ウクライナ軍攻勢作戦にとって、最大の問題である。また、ロシア軍は対砲兵攻撃における自爆ドローンへの依存をますます高めている。

電子戦

ロシア軍電子戦部隊は依然として強力だ。概算だが前線において、10kmごとに少なくとも一つの主システムが配備されている。電子戦システムの主対象はウクライナ軍UAVだ。ウクライナ側のUAV損失は、これも概算ではあるが、月当たり1万機に及ぶ。また、ロシア軍電子戦システムは、ウクライナ軍戦術通信連絡システム(Motorola 256)へのリアルタイム傍受及び暗号解読もできている模様だ。

防空

ロシア軍防空態勢はその効果をかなり増しており、既知の静的目標周辺に配置され、適切な連携が取れている。緊急的な脅威への対応力も、時とともに改善されている。ロシアの拠点防空システムが優秀なレーダーと直接リンクしていることにより、ウクライナ軍GMLRSの一部が迎撃されていると、ウクライナ軍は評価分析している。

空軍

ロシア空軍機は依然として、長距離からの対地攻撃能力の制約を受けている。なお、長期攻撃用に通常爆弾に誘導キットを付けたものを投入している。この誘導爆弾の精度は高くないものの、この種の爆弾の弾頭サイズが深刻な脅威を与えている。

なお、ロシア空軍に現状、ウクライナ軍防空網突破能力はないものの、同軍は「戦力保全」されており、進撃するウクライナ部隊にとっての主たる脅威の一つである。

指揮統制インフラ

2022年7月にウクライナ軍GMLRSによって指揮統制インフラが攻撃されたのち、ロシア軍は主要司令部・指揮所をGMLRS射程外に後退させ、司令部・指揮所の防御を固めた。

主要司令部とその前方の旅団規模司令部との連絡は有線(ウクライナ民間用通信網+野戦電話)で行っており、電波発信を減少させている。しかし、大隊規模以下では、アナログ軍用無線(平文)におおむね依存しており、戦術レベルにおいて、十分な訓練を受けた通信兵が不足している状況を反映している。

結論

以上で概観したように、ロシア軍は主要兵科及び兵器システムの改善・進歩ができている。また、欠点を特定する集約的な取り組みも確認できる。

一方で、これらの適応努力の多くは状況対応的であって、ロシア軍の深刻な能力不足を埋め合わせることを意図したものだ。それゆえ、喫緊の課題への対応力は時とともに向上しているものの、これから生じる新たな脅威の予測には苦慮している。

結論としては、ロシア軍は防御面においてウクライナ軍に大きな困難をもたらすが、ウクライナ軍がロシア軍防衛態勢を混乱させ、ロシア軍を流動的な状況に置くことができれば、ロシア軍は迅速にその協同能力を喪失してしまう可能性が高いということになる。

ウクライナを支援する各国は、ただ主要兵器システムを供与するだけでなく、重点的な訓練やウクライナ軍が持続していけるための装備提供の保証といった方向へと支援をシフトしている。

今後、ロシア軍を効果的に混乱させ、最終的にロシア軍を敗北へと追い込むのに極めて重要になるのは、戦術である。

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