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ウクライナにおける大規模攻勢の難しさ:戦争研究所「2024.01.23付ウクライナ情勢報告」を読む

[*記事サムネイル画像:米軍 FM 100-2-1”The Soviet Army: Operations and Tactics”より]

陣地戦状況を打開するに足るレベルで、ロシア軍はウクライナ軍のドローン攻撃及び同軍による後方地域攻撃に対抗することに苦慮していると、複数のロシア軍事ブロガーが主張した。

Russian Offensive Campaign Assessment, January 23, 2024, ISW

戦争研究所(ISW)は、2024年1月23日付ウクライナ情勢報告書のなかで、ロシア軍が抱える問題を指摘する軍事ブロガーの声をとりあげています。

ISWは上記リンク先を情報源としてあげ、この軍事ブロガーが「ロシア軍には陣地戦を打破する方法を見つける必要がある」と指摘し、「とはいえ、ウクライナ側前線を突破するのに十分な規模の戦力集結がロシア軍にできていない」と述べたことを紹介しています。その理由として、この軍事ブロガーは、「ウクライナ軍が前線後方地域における大隊を超える規模のロシア軍部隊集結を攻撃対象にしている」ことをあげています。

また、10両の装甲車両の伴う1〜2個中隊のロシア軍部隊でさえ、ウクライナ軍ドローンの攻撃目標になっており、それによって、ロシア軍がウクライナ側前方防衛線に到達することが阻止されていると、上記の軍事ブロガーは報告しています。

そして、ロシア軍が現状とっている解決策は、10〜20人の降車歩兵(徒歩移動の歩兵)による攻撃であって、その歩兵を支援する装甲車両は、歩兵部隊から「極端なほど」遠い後方にいると、この軍事ブロガーは不満気に述べています。

また、別の軍事ブロガーも、ロシア軍の部隊集結の難しさに関する同様の主張をしています。ISWは上記リンクの投稿を情報源としてあげたうえで、この軍事ブロガーの見解を次のようにまとめています。

陣地戦を打破するために、ウクライナ軍に対する間接火力優勢とロシア軍指揮統制(C2)の改善の双方が必要とされることを、この軍事ブロガーは強調した。攻撃目標特定と目標攻撃の間にかかる時間を最短化するために、前線のロシア軍は迅速なコミュニケーションを行う必要があり、タイムラグを短くする方向に変化していくことは、C2上の流れに大きな変化が起きるときにのみ生じるだろうと、この軍事ブロガーは強く指摘した。

Russian Offensive Campaign Assessment, January 23, 2024, ISW

ロシア軍の指揮統制とそれに関わる通信連絡・情報共有の問題は、ロシア軍が以前から抱えている組織的な課題であることを、ISWは指摘しています。また、「戦域上の一方面もしくはそれ以上の方面において、陣地化した戦線を作戦レベルで突破するのに必要な程度に、特定されたこれらの問題を、ロシア軍統帥部が著しく改善させていることを示す兆候は、現状、存在していない」ともISWは述べています。

ですが、このような問題を抱えたままでいるとはいえ、ロシア軍が、特にクプヤンシク方面(ルハンシク州)とアウジーウカ方面(ドネツィク州)において、攻勢努力を強化したうえで、わずかではあるが戦術レベルで前進できていることも、ISWは指摘しています。

さて、ロシア側情報筋は、ロシア軍の大規模部隊での攻撃の困難さを指摘していますが、ウクライナの戦場における大規模部隊での攻撃の難しさは、ロシア軍だけの問題ではありません。ウクライナ軍もまた、2023年反転攻勢の際に、ロシア軍同様、大規模部隊で攻勢を行えずにいました。

ロシア軍事専門家のマイケル・コフマンと米国海兵隊元将校で軍事アナリストのロブ・リーは、共著の論考“PERSEVERANCE AND ADAPTATION: UKRAINE’S COUNTEROFFENSIVE AT THREE MONTHS”(2023.09.04公開)のなかで、次の指摘をしています。

ウクライナ軍は攻勢作戦を大規模に実施すること、大隊規模かそれ以上の部隊規模で諸兵科連合作戦を実施することに苦慮し続けており、そうであるがゆえに、攻撃の大半は小隊規模か中隊規模のものになっている。

Kofman & Lee “PERSEVERANCE AND ADAPTATION”

そして、ウクライナ軍がとった解決策も、ロシア軍の解決策と似たものでした。

ウクライナ軍は順を追って進行する[=シーケンシャルな]攻撃を好み、火力を決定的な要素とし、機動を絡めて戦果を得ていく。そして、機動部隊の支援要素として火力を用いることはあまりない。ウクライナ軍歩兵は主に小隊から中隊の規模で攻撃を行っている。この結果、痛ましいほどに進展は遅く、これ自体でモメンタムはつくり出せない。だが、ウクライナ軍の近接戦闘能力は、一般的にみて、ロシア軍のそれよりも上だ。ウクライナはまた、小規模の降車歩兵[=徒歩移動歩兵]で任務を遂行することで、損失を抑え続けている可能性がある。一方で、迅速な突破の機会は失われている。

Kofman & Lee “PERSEVERANCE AND ADAPTATION”
※強調は引用者による

昨秋、ウクライナ軍総司令官ヴァレリー・ザルジュニー大将は、両軍の「軍事的均衡」が戦争を陣地戦的性格のものにしているとエコノミスト紙において指摘しましたが、ロシア軍もウクライナ軍も連携した大規模攻勢ができない状況も、その理由に違いがあるとはいえ、「軍事的均衡」の一例なのかもしれません。


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