8月23日付ISW報告のなかから、ウクライナ軍攻勢に関する記述の原文を引用し、その日本語訳を示していきます。なお、本記事中の地図は、報告書原文に添付されているもののほかに、ISW制作のインタラクティブ・マップの画像を加工したものも用いています。
日本語訳:
ザポリージャ州西部のロボチネの集落内とその周辺でウクライナ軍がさらに戦術的戦果をあげたことで、この地域のロシア軍防衛戦に開いた間隙は広がっており、ロシア軍第2防衛線が脅かされている。8月22日と23日に公開された撮影地点が特定できる動画によって、ウクライナ軍がロボチネ(オリヒウ南方10km)の集落内でさらに前進し、この集落の大部分を制圧し、さらにヴェルボヴェ(オリヒウ南東18km)の西方で奪還地域を広げたことが分かる。ウクライナ軍参謀本部の報告によると、同軍はノヴォポクロピウカ(オリヒウ南方13km)方面とノヴォダニリウカ(オリヒウ南方5km)方面で何某かの成果をおさめたとのことだ。ロシア軍はロボチネ内とその周辺の自軍陣地を、この集落の東側で進撃するウクライナ軍の西側面に向けた反撃の発起点として使いたいと考えていた可能性が大きい。なお、このロボチネの東側で、ウクライナ軍はロシア軍第1防衛線に開けた突破口を広げている模様だ。ウクライナ軍がロボチネ集落内で前進し、おそらくこの集落を解放したことで、ロシア軍はウクライナ軍突破軸の西側面にある自軍陣地を奪われることになるだろうし、その結果、ウクライナ軍はロシア軍第2防衛線に対する攻勢作戦を遂行するための機動空間を、さらに広く得ることになるだろう。このロシア軍第2防衛線は、ロボチネの南からヴェルボヴェ西側郊外へと続いている。ロシア軍防衛線に対する縦深突破を成功させるには、最初に切り開いた突破口の拡張が必要になる可能性が大きく、そうすることで、狭すぎる突破口からの進入が、ロシア軍によってその根元で断たれるという事態を避けることができる。
ウクライナ軍の前進は現在、ロシア軍第2防衛線前方おおよそ2kmの範囲内まで進んでいる。この第2防衛線は、これまでのものと比べて比較的連続した一連の野戦防御陣地となっており、そこには対戦車壕や“龍の歯”と呼ばれる対戦車障害物が含まれている。ここの地域における地雷原の規模は不明だが、これら第2防衛線の前面地域は、あまり濃密に地雷が埋設されていない可能性がある。それは、防衛線の北側にいるロシア軍の後退を可能にするためだ。ISWが既に評価分析したように、この第2防衛線はこの地域の第1防衛線と比べて相対的に弱い可能性がある。その理由は、この地域のロシア軍は未投入部隊を欠いており、これ以上ほかの地区から横滑り的に部隊を再配置することもできないからである。
日本語訳:
8月23日、ウクライナ軍はクリミアに位置するロシア軍のS-400防空システムを攻撃したものと思われる。ウクライナ軍国防省情報総局(GUR)は、クリミアのオレニウカ(セヴァストポリ北西116km、ヘルソン市南方140km)付近でロシア軍のS-400中長距離対空ミサイル・システムを攻撃したことを発表し、その動画も投稿した。GURの報告によると、この攻撃によって、一つの防空設備と何基かのミサイルが破壊され、その付近のロシア軍将兵が死亡したとのことだが、動画に映っているのは、施設が爆発する模様の一部のみである。クレムリン寄りのロシア軍事ブロガーの一人は、ウクライナ軍がこの防空システムを攻撃するために、ハープーンかネプチューン、もしくはブリムストーンⅡのいずれかのミサイルを用いた可能性が高いという推測を示した。ウクライナ軍が現在の戦線からおよそ120km後方での攻撃を、ドローンを操縦して撮影したことに関して、複数のロシア軍事ブロガーは懸念を表明した。戦線からかなり後方のロシア側支配地域の防空設備をウクライナが攻撃できたことは、ロシア側に幾つかの戦術的過失があったことのあらわれである。特に、防空システムによるミサイル迎撃態勢が整っていない模様だったこと、もしくは、この地域でのウクライナ軍のドローン運用を阻止するための電子戦によるジャミング態勢が整っていない模様だったことがそうだ。だが一方で、これらの戦術的過失は、驚きべきことで深刻なものではあるが、ロシア軍防空組織内に広がる組織的な問題のあらわれとはいえない可能性もある。