本記事は、戦争研究所(ISW)の2023年10月15日付ウクライナ情勢評価報告の一部を抜粋引用したうえで、その箇所を日本語に翻訳したものである。なお、この記事で用いた地図は、すべてISW制作のものである。また、地図のなかには加工したものもある。本記事のサムネイル画像は、ウクライナ軍参謀本部のFacebook投稿の写真を使用した。
ロシア軍のアウジーウカ攻勢
日本語訳:
ロシア軍は10月15日もアウジーウカ包囲を意図した攻勢作戦を続けたが、この地域でのロシア軍作戦のテンポが落ちていくなか、ロシア軍はさらなる戦果を未だあげられていない。ウクライナ軍参謀本部の報告によると、ウクライナ軍がアウジーウカ付近と、同市から北西と南西の地区で、ロシア軍の攻撃を15回以上撃退したとのことだ。以前主張されたこの地域でのロシア軍の進撃を映像面で裏付けるものを、ISWは現時点で確認しておらず、また、それ以外のロシア側戦果を示す、撮影地点が特定できる動画も確認できていない。この地域でのロシア軍進撃を伝えるロシア側情報筋の主張の数は、過去数日間と比較して10月15日は少なくなっており、新たに主張された進撃は、わずかな進撃と描写されている。あるロシア軍事ブロガーは、アウジーウカ・コークス工場をロシア軍が支配しているかどうかでロシア側の主張が割れたことに続き、この工場にウクライナ軍が今でも軍事力を展開していることを認めた。
ウクライナ人軍事ウォッチャーとロシア側情報筋の双方は、ロシア軍が期待された早期の突破を達成できなかったことを指摘し、同軍が攻勢初期に大きな損失を被ったことと、進撃ペースが想定以下になっている可能性が高いことを指摘した。アウジーウカ市軍政当局の長であるウァタリー・バラバシは10月12日、ロシア軍がアウジーウカ周辺の10〜12箇所で航空支援の伴った攻撃を実施したと述べたが、ウクライナ軍参謀本部は、たった6箇所の集落付近でのみ戦闘が起こったと、10月15日に報告した。ウクライナ軍タヴリーシク部隊集団報道官オレクサンドル・シュトゥプン大佐の10月14日付発表によると、アウジーウカ付近でのロシア軍攻勢作戦のペースは低下したとのことだ。また、10月9日にこの地域での攻勢作戦が激化して以降、 ロシア軍は300を超える軍用装備品と3000人の兵員を失っているともシュトゥプン大佐は述べている。
日本語訳:
そうであるとはいえ、ロシア軍はここしばらくの間、低下したテンポで攻勢作戦を続けていく可能性が高く、現時点でロシア軍が決定的な突破を成し遂げたり、アウジーウカを包囲してしまう可能性は低いけれども、ロシア軍は今後もこの地域でウクライナ軍に対して脅威を与えていくことになるだろう。ロシア軍攻勢作戦のテンポ低下は、それがどのようなものであれ、戦術状況に対する一時的な調整作業の結果であるかもしれず、今後数日間にロシア軍がアウジーウカ包囲の試みを強めていく可能性もある。あるウクライナ人軍事ウォッチャーの指摘によると、ロシア軍はアウジーウカ周囲のウクライナ軍側面に進入し、短期的にみてアウジーウカが包囲される可能性は低いとはいえ、ウクライナ側陣地にかなりの脅威を及ぼしているとのことだ。複数のウクライナ人軍事ウォッチャーは、ロシア軍がかなりの戦力を集結させており、その数はアウジーウカ〜ドネツィク市戦線向けで自動車化狙撃連隊15個、狙撃連隊11個になることを示した。また、ロシア軍がこの地区で連隊規模の攻勢作戦をすでに実施していること(この指摘は、3個以上の大隊によるまとまった攻撃遂行を意味しており、それは、この戦争の現時点で、ロシア軍もしくはウクライナ軍が実施してきた攻撃の規模を超えている)も示した。ここで報告されたロシア軍の集団は、ロシア軍統帥部が比較的大きな損失を被っても構わないと考えている場合、即座の突破には不十分であったとはいえ、アウジーウカ包囲を目指す攻勢作戦を今後、持続させていける可能性が高い戦力といえるだろう。
ウクライナ軍反攻作戦の状況
日本語訳:
10月15日、ウクライナ軍はバフムート周辺とザポリージャ州西部で反攻作戦を続け、バフムート南方で少し前進することができた。10月15日公開の動画で、撮影地点の特定が可能なものに、クリシチーウカ(バフムート南西7km)北方でウクライナ軍が鉄道線に向かってわずかに前進する様子が映っている。また、ロシア側情報筋は、バフムート南方に位置するクリシチーウカ〜クルディウミウカ〜アンドリーウカ線(バフムート南西7〜13km)で、ウクライナ軍の地上攻撃が続いていることを伝えている。ウクライナ人軍事ウォッチャーであるコスティヤンティン・マショヴェツのコメントによると、ウクライナ軍はザポリージャ州西部における最近のロシア軍反撃を利用して、コパニ(ロボティネ北西5km)付近、ネステリャンカ(ロボティネ北西10km)付近、ヴェルボヴェ(オリヒウ南東18km)付近で、それぞれ少しずつ前進したとのことだ。一方、ウクライナ当局者は、ロボティネ〜ノヴォプロコピウカ〜ヴェルボヴェ線(オリヒウ南西20kmからオリヒウ南東18km)沿いでの最近のウクライナ軍前進について、今のところ、何らコメントを出していない。ロシア側情報筋は、10月15日もロボティネ〜ノヴォプロコピウカ〜ヴェルボヴェ線でウクライナ軍の攻撃が続いたことを伝えている。
附記
以下は、ISW制作ウクライナ戦況地図(1500 ET 15.10.2023)で情報が更新された箇所を日本語に翻訳したものである。
日本語訳:
① 10月15日投稿の動画で、撮影地点の特定が可能なものによって、ウクライナ軍がクリシチーウカ北方の鉄道線へと進んだことが分かる。
② 10月14日投稿の動画で、撮影地点の特定が可能なものによって、ロシア軍がプリユトネ北方で前進したことが分かる。
③ 10月15日投稿の動画で、撮影地点の特定が可能なものによって、ロシア軍がヴェルボヴェ西方で前進したことが分かる。