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【SNS投稿和訳】ウクライナ軍予備役将校によるアウジーウカ情勢分析(日本時間2023年10月15日01:52投稿)

はじめに

本記事は、上記リンクのX投稿の日本語訳である。投稿者のTatarigami_UA氏はウクライナ軍予備役将校で、SNS等でロシア・ウクライナ戦争関連の情報発信をしている人物である。


日本語訳

アウジーウカでの激しい戦闘が数日間続いたことを受けて、私は現在進行中の情勢に関する暫定的な分析を行うことにした。私はより大きな範囲で状況を観察しているのだが、それはここの状況をよりよく理解する一助になりうる主要なパターンと注目すべき兆候を特定するためである。この分析では、入手可能な限られたデータに基づき、良い面と悪い面の両方を取り扱っていくつもりだ。

アウジーウカでのロシア軍攻撃の規模は、目標達成へのロシア軍の決意を明確に示している。ロシア軍は主攻撃方面に、私が特定できた範囲で少なくとも2個機械化大隊もしくは2個大隊戦術群を投入し、それらに加えて、他の方面にそれより小規模な部隊を複数個投じており、おおまかにいって連隊規模の作戦になっている。この部隊規模は、ここ最近の数カ月間、両軍ともに小・中隊規模のより小さな戦術部隊を使ってきたことから、大きく隔たっている。

さまざまな情報源から得た情報から判断すると、ロシア軍は相当数の部隊を展開させている模様で、少なくとも数個旅団規模の戦力になっている可能性がある。だが、全体の正確な数を正しく見積もるのは、現時点では難しい。

敵側部隊グループの一つはアウジーウカの南西方向から前進し、もう一つの部隊グループはアウジーウカの北東側面からの前進を試みた。クラスノホリウカから進発した部隊グループは当初、進撃に成功して、北部にある防御陣地を蹂躙し、なかには鉄道線にまで到達した部隊もあった[*注:上記画像参照]。両グループともに損失を被ってはいるが、北部グループは具体的な結果を出した。そうなった主たる理由は、奇襲という要素と機械化戦力の集中した火力にある。

好ましい側面:

  • 映像資料に基づく、私たちのチームによる控えめな見積によると、ロシア軍は10月12日朝までに最低でも車両45両を失っており、喪失車両の主なものは戦車とIFV[歩兵戦闘車]であった。正確な喪失車両数はもっと多い可能性が高い。なぜなら、私たちは一部地域の映像を確認できていないからだ。特にアウジーウカの南方の地区と南西の地区が確認できていない。

  • 初期のロシア軍攻撃は、北部で鉄道線を越えた地域の確保し、南部でシェベルネとトネンケを占拠するという期待した結果を達成できていない模様だ。もしこの結果が達成されていたのなら、ウクライナ側の作戦情勢に極めて大きな影響を及ぼすことになっただろう。

  • この作戦は軍事的必要性というよりも、主に政治的な動機のもとで行われているようだ。ウクライナがピスキーを失い、さらにマリインカの大部分を失ったのち、ドネツィク市近郊において、アウジーウカだけがウクライナ側支配下にある大規模居住地域として残された。だが、戦いの現実を考えると、ウクライナ軍が近い将来、現地点からドネツィク市内へと地上攻撃を始める可能性は低い。アウジーウカは入念に要塞化されており、ロシア軍は2022年以降、ここを占領しようと何回も試み、甚大な損害を出している。ロシア側の動機は、ロシアが冬の到来前に公に示すことのできる具体的な勝利を確保することにあり、そうすることで、2023年のウクライナ軍の領土解放がわずかな成果しか伴わず、また、ウクライナがバフムートを失ったことと対比させるつもりなのだろう。

  • 初期時に見舞われた困難、そして奇襲という要素があったにも関わらず、現地のウクライナ兵は衝撃からの並外れた回復力を示し、敵側機械化グループの前進を何とか食い止めることに成功した。この成果は、ヒロイズム、スキル、陣地を守る決意にといった個々人の行動の結果であるといえる。

  • 写真、ドローンからの動画、個人アカウントといった情報を合わせると、ウクライナ軍ドローン、適切に埋設された地雷、タイミングよく展開した対戦車チーム、砲撃によって、ロシア軍機械化部隊が甚大な損失を被ったことが分かる。なお、このウクライナ軍のドローンは、有志や一般市民が提供しているものだ。

好ましくない側面:

  • 敵軍が攻勢作戦のための準備を進めているという事前情報があったにも関わらず、この攻撃は結果的にウクライナ軍への不意打ちになってしまった。また、このような攻撃に対して準備不足だった地区もあり、脆弱な面を一定程度さらすことになった。

  • ロシア軍は複数個の大隊とそれよりは規模の小さい補助戦力を投入して、連隊規模の作戦を遂行した。このことは、ロシア軍が大規模な作戦を実行する能力と、十分なリソースを使うことができる能力を持っていることをはっきりと示した。

  • ロシア軍は、アウジーウカの後方地区と側面にあたる地区への進入を何とか成し遂げた。このことは包囲が間近であることを必ずしも保証しないが、危険な状況と好ましくない進展を示している。以前、バフムート作戦が始まった際も、ロシア軍は作戦継続不能にみえる甚大な損失を被ったが、バフムート両側面の支配権をロシア軍が得たのち、情勢はウクライナ軍にとって悪いほうに傾いた。作戦的な文脈は異なるけれども、アウジーウカ情勢が安定していると、まだ判断することはできない。

  • ロシア側損失ばかりが注目されるけれども、ロシア軍がアウジーウカの北方と南方で突破でき、ウクライナ側陣地をいくつか占領できたという事実から、ウクライナ軍も損失を被った可能性が高いことが推測される。追跡が容易な車両損失とは異なり、人的損失の査定はかなり難しい。

結論:

敵軍は戦略的主導権を自軍寄りにシフトさせることを積極的に求めており、また、自軍が優位に立っているという認識を世の中に形成することも積極的に求めている。この決意は、アウジーウカとハルキウ州を確保しようとするロシア側の努力をみれば、明らかなことである。ロシア側の目標は、2023年の夏と秋にウクライナ軍が南部で得た戦果を埋め合わすに足りうる、もしくはそれを無効にするに足りうる勝利の達成にある可能性が高い。このことが意図するメッセージは明確だ。つまり、「ウクライナは援助を受けているが、それにも関わらず、ロシアは進撃し続け、勝利を達成することになるのだ」というメッセージだ。この意図の真剣さは、この攻勢が示す範囲とその注力の度合いが明確に示している。

皆さんが全体的な状況を判断する際、それを慎重に行ってほしいと思っている。ロシア軍はかなりの戦力をアウジーウカ地区に集めているようにみえ、そこに含まれる車両と兵力は、ロシア軍がかつて失ったもの以上であるかもしれず、そのことはロシア軍のさらなる前進の可能性を示している。この戦いが4日間停止することなく続いており、(少なくとも)中隊規模での継続した攻撃が確認できることに注目することで、民間の戦況観測者は、上述のロシア軍の能力が事実かどうかを確認することができる。

敵側の損失規模はかなり大きい。だが、覚えておいてほしいのは、このことがロシア軍の目標達成への妨げになるとは限らないということだ。ロシア軍上層部の視点では、この大規模攻撃で得られる可能性のある戦果は、そこで消費される車両や人命の価値をはるかに上回っている。当座の損失よりも戦略的・作戦的目標を優先するというこのようなパターンは、ソ連軍及びロシア軍に一貫してみられる歴史的な特徴だ。

この取り組みがこれから成功するかどうかは、投入可能な双方の予備戦力と、この作戦にさらに戦力を投入する意志に左右されることになる可能性が高い。

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