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【記事和訳】反転攻勢における樹木線上の隠された防御陣地がもつ重要な意味(FRONTELLIGENCE INSIGHT)

訳者まえがき:

ロシア・ウクライナ戦争において、商用衛星画像の精度向上とその入手が容易になったことが、民間レベルでの戦争分析を発展させたことは間違いないでしょう。その一方で、衛星画像上で確認できるものを重視し過ぎる傾向が生じている実態もあります。

上記リンク先の戦術分析記事は、衛星画像では隠れてしまう要素を取りあげ、それがもつ戦術的重要性を指摘している記事です。

ウクライナからの映像を見ると、平原や広大な畑のような開闊地が、防風林に似た帯状の樹木線で区切られていることが分かります。この記事が指摘しているのは、衛星画像では分かりにくいが、それら樹木線がロシア軍によって防御陣地化されているということです。衛星画像では、どうしても目に見える塹壕や“龍の歯”といった地上障害物に意識が向き、それ以外にロシア軍陣地はないかのように考えてしまいがちですが、実際のところ、ウクライナ軍は樹木線内の陣地も一つひとつ攻略しているのです。

なお、この記事は、これまでTwitter(現X)上で、ロシア・ウクライナ戦争関連の各種分析を発表していたウクライナ軍予備役将校Tatarigami氏によるプロジェクト“FRONTELLIGENCE INSIGHT”のコンテンツになります。

また、本文中の画像は、原文のものを使用しました。本記事のサムネイル画像はグーグル・マップ画像を使用しています。


日本語訳:

この戦争が過去の戦争と決定的に異なる側面の一つに、戦場が継続的に監視されているということがある。このことを可能にしているのは、かなりの程度、ドローンの広範な使用にあり、それよりも程度は下がるが衛星のためでもある。戦争の初期、ロシア軍の間でカモフラージュや隠蔽は驚くべきほど行われていなかった。そのことが、初期の死傷者の多さの原因になった。だが、教訓は学ばれている。2023年までには、ロシア軍は戦争の新しい状況に概ね適応するようになった。

この具体的な例として、ザポリージャ州ヴェルボヴェのすぐ側で特に見られる状況に注目したいと思う。なお、ヴェルボヴェという場所は、反転攻勢における重要な動きが起きているところだ。最初は普通の樹木線に見えたものが、入念に防護を施され、準備の整ったロシア軍陣地へと変わった。このような樹木線内に隠れた陣地は、ロシア軍の防御準備に関して重要な役割を果たしている。

上の衛星画像の“1”には7月13日の樹木線が撮られている。その樹木線の近くに、土塁のような、認識可能な何らかの変化はみられるが、陣地の大部分は隠れたままで、はっきりと視認することはできない。

8月8日の画像である“2”では、戦闘に伴う樹木の破壊の影響で、この箇所のロシア軍陣地が、当初の想定として予想しえたものよりも、広範囲に広がっていることが明らかになった。この観察結果はとりわけ重要だ。なぜなら、アナリストやジャーナリストの大半は、衛星画像上で視認できる防衛線ばかりに意識が向いてしまう傾向があり、隠された陣地を見落とすことが多いからだ。このような観察上の傾向は、それぞれの強化防御陣地の間に広大な何もない土地が存在しているという印象を生み出した。

9月11日の状況を示した最後の“3”を見ることで、樹木線沿いの塹壕網と隠蔽されていた各兵士用の陣地に、私たちはようやく気づくことができる。

重要な注記として述べておきたいのは、これらの隠れた陣地すべてに、いつも兵員が入っているとは限らないということだ。なぜなら、そのようなことをしようとしたら、前線上での非現実的な兵力集中が要求されることになるからだ。そうする代わりに、これらの陣地の一部は、監視哨としての役割を担っているのかもしれない。以下の3次元シミュレーション画像は、上空から見た際の地形と樹木線からの視界に関する大まかな理解を提供してくれる。

さて、もう一度画像を見て、簡潔な比較分析を行おう。今回示した例の場合、見る者の注意は視認可能な塹壕に向かうかもしれず、実際に隠れた陣地が認識されることはまれであるので、この地区の防衛陣地設計に関する間違った印象を生み出してしまう。だが、茂みや樹木が一旦取り除かれてしまうと、防御陣地がはっきりと見えるようになる。

通常、これらの陣地はドローンによって比較的用意に特定することができる。そこに兵士が入っている場合は特にそうだ。だが、このような陣地が見つけられない、もしくは部分的にしか発見できない、または無人を装っているという場合があり、そうなると接近するウクライナ軍は不愉快な奇襲を受けることになる。

上の画像は、ロシア軍ドローンが樹木線のほぼ同じ箇所[*注:オレンジ色の線の箇所]を撮影した動画から、その一場面を切りとった画像だが、その場面に開闊地を通って移動するウクライナ軍車両への攻撃が映っている。注意すべきなのは、樹木線は一見特段の注意を払う必要がないようにみえることと、そこに敵兵がいるかどうかの識別、もしくは陣地化されているかどうかの識別が容易ではないということだ。

結論

屈辱的な撤退となったハルキウからのロシア軍の撤退とドニプロ川西岸の防衛失敗ののち、ウクライナ軍に対して効果的に抵抗するための有効な防御システムを、ロシア軍は運用できないという印象が生じた。

視認可能な防衛線は有志の人々とアナリストによって、とても注意深くマッピングされたが、地図を見る多くの人々や専門家は、視認可能な陣地線の間にある広大な無人の空間の存在を、間違って解釈してしまった。この人々はまた、これらの塹壕陣地が完全に兵員充足されることは現実的にあり得ず、薄く配置されたに違いないと、正しく認識もしていた。

さまざまな出来事が明らかになるにつれ、これら一見何もないようにみえる箇所は、実際には、防御目的の準備と陣地化がなされていたことが明らかになった。他方、そうなされていない場所は高密度に地雷が埋設され、ドローンによる継続的に監視下にあった。それによって、適切なタイミングでの警戒通知や近づいてくる部隊に対する火砲もしくは徘徊型ドローンの照準調整が可能になった。

また、対戦車壕や龍の歯のような見て分かる防衛線にウクライナ軍が穴を開けたあとに、同軍の迅速な突破進撃が見られない理由の一端が、これで説明できる。ウクライナ軍将兵は、多くの樹木線内敵防御陣地に取り組む必要があり、それと並行して、徘徊型ドローン、砲撃、地雷やヘリコプターがもたらす脅威に対して対処する必要もある。

攻勢を継続して進めていくことは、進撃部隊のために砲弾を使うことができるかどうかに、かなり左右されることになるだろう。それというのも、敵防衛網を制圧する主な手段、もしくは敵を撤退に追い込む主な手段は、依然として火砲だからだ。さらにいえば、進撃して陣地をとるための予備戦力を持てるかどうかも、極めて重要な要素になってくるだろう。

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