「愛なのに」(2022/2/27鑑賞)

 自分の中にある、どうでもいい、という感情をただひたすらに見つめると、愛ってなんなのか少しわかるような気がする。そんな作品だった。どうでもいいと思われることがいちばん悲しい。人と関わる中で自分がそう感じることもあれば、自分でも気づかないうちに、誰かをそういう風に扱っているような気もして、観終わったあと、感情の置き場所に困ってしまった。


 その感覚が、今作で脚本を担当された、今泉力哉監督の前作『愛がなんだ』を観たときとそっくりだったのだ。わたしが誰かを想うとき、その人はきっと、美しくて、輝いていて、格好よく見えて仕方ない。けれど、もしその想い人が振り向いてもらえない誰かを想っているとき、客観的に見れば、きっとそれは滑稽で、ダサくて、醜い姿だ。しかしわたしはそれに気づかない。わたしのことを想う人が、わたしを見るときもまた、同じだ。この世界では、そういう馬鹿みたいなことを重ねながら、愛だの恋だのが繰り広げられている。


 わたし自身、どちらかと言えば、自分以外の人間のことなんて、どうでもいい、と思うほうだった。格好つけているわけではないし、悪意があるわけでもない。ただ心の底から、どうでもよかった。それがなんて愛のない行為だったかを、平手打ちを喰らうように、できたばかりのあざを強く押されるように、痛みを伴って思い知らされた。愛するって、どうでもよくないってこと。それがあまりにも腑に落ちてしまって、これまでの自分、それから今の自分を、見つめ直すことができた。


 わたしのことが、どうでもよくない人のことを、ずっと大切にしていこう。わたしはもっと、どうでもよくない人たちを、増やしていかなくちゃ。たとえわかりやすい愛じゃなくても、2つセットのお椀を分け合って、優しく笑い合えるような、そんな人との時間を築いていこうと思う。



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