記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

ゼルダはなぜあれほど苦悩させられたか - ゼルダBotW

  • 『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』のストーリーに関する独自解釈を含む文章です。本作をクリア済の方を読者として想定しています。

  • 説明の都合上『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』の核心的なネタバレを含みます。

  • 読了時間 約8分(約3800字)


理不尽なまでに苦悩させられるゼルダ

『ブレスオブザワイルド』においてキーとなるゼルダの封印の力。これがなかなか覚醒しないためにゼルダは深刻な苦悩を経験し、しかもその力は彼女以外には扱えないため、誰にも助けてやることができない。彼女の努力は実を結ばないばかりでなく裏目に出て、城は落ち、仲間は次々に倒れ、その全てが自分のせいだと考えた彼女は絶望する。

このような展開を見て、ゼルダに同情したり、あるいは歯がゆさを覚えたプレイヤーも多いのではないか。実のところゼルダが難局に追い込まれるのはシリーズの他の作品でも同じだが、今作のように「力が目覚めなくて困る」というパターンは珍しい。

画像1

- なぜゼルダなのか?

今作で初めてゼルダシリーズに触れたという方も多いと思う。そういう方はもしかしたらこう思ったかもしれない。なぜゼルダでないと駄目なのか? なぜ彼女ばかりが重荷を背負わされるのか? 彼女の何がそんなに特別なのか? と。実はそれらに対しては明確な回答ができる。ただしゼルダシリーズの過去作の核心のネタバレを避けられないため、その点に留意して頂いたうえで構わないという方のみ続きをお読みいただきたい。

ゼルダのルーツ

- 女神ハイリアって何だったんだ?

『ブレワイ』の前作である『スカイウォードソード』は時系列的にシリーズの最初にあたる作品である。その『スカウォ』において極めて重要であり、今作にも名前が登場する存在がいる。女神ハイリアである。今作では各地に像が点在していて、ハートとがんばりの器をくれる謎めいた存在でしかないが、実は今作のゼルダがあれほど苦悩したのも、根源的には女神ハイリアが原因なのだ。どういうことか?

『スカウォ』をプレイすると分かることなのだが、実は女神ハイリアこそがゼルダのルーツなのである。これは文字通りの意味である。つまり女神ハイリアが人間に転生したのがゼルダであり、歴代のゼルダは皆その子孫だというわけである。今作では恐らく一言も言及されていないものの、女神ハイリアの像が各地に点在していることによって、その設定が今作でも通用していることが示されているのである。

また今作には「忘れ去られた神殿」という場所が登場し、そこには一際大きな女神ハイリアの像が立っていたことを覚えているだろうか(大量のガーディアンに護られていた場所)。この場所が何であるか今作だけでは全く不明だが、実は『スカウォ』をプレイしていれば一目でそれと分かる重要な場所なのだ。そしてそれによって今作の世界は『スカウォ』の遠い未来の世界であることが示唆されているのである。ちなみに力、知恵、勇気の泉もほぼ同じ外観で登場している。

画像3

つまり今作においてなぜゼルダばかりが重荷を背負わされるかというと、彼女こそが女神ハイリアの力と使命を継ぐ者だからであり、元を辿れば女神ハイリアが人間に転生したことが全ての始まりだと言える(転生した理由についても作中で語られるがここでは割愛)。

補足:公式見解(ゼルダの伝説ポータルなど)では今作と過去作のタイムラインはつながっていないとされているが、実際にはこのような引用もあるため関係性は無視しにくいだろう。

苦悩の正体

- 悩みの種は厄災だけじゃない

『ブレワイ』に話を戻す。ゼルダが女神ハイリアの力を継いでいるために、その重荷も背負うことになってしまったというのは分かった。しかし彼女は何も厄災とばかり戦っていたのではない。むしろ彼女を苦悩させたものの大部分はそれ以外であったとさえ言える。この意味は今作をプレイした人であれば分かるはずだ。

ハイラル王の手記やゼルダの日録から分かる通り、発端は王妃、つまり先代ゼルダが早逝したことであった。幼くしてゼルダは母を失ったのである。それは封印の力の扱い方を教えてくれる師を失ったということでもあった。

厄災復活が予言される中で、彼女の力の覚醒は死活問題となったが、彼女の努力にも関わらず力は一向に目覚める気配が無く、王宮内で彼女を見る目は厳しくなっていった。彼女は「無才の姫」と揶揄されながら、何とか自分の価値を証明しようと、王宮内で孤独な戦いを続けていた。

- 本当は一番の味方。しかし・・・

彼女を厳しい目で見ていたのは父であるハイラル王も例外ではなかったが、彼の中に葛藤があったことは文書から読み取れる。彼はゼルダに対して父として向き合うよりも王として向き合うことを決断していた。

そうしないと他の者に対して示しがつかないということもあったろうが、厄災の未知の脅威に対処しなくてはならなかった彼にも余裕が無かったというのが本当だろう。彼は最期まで葛藤していたが結局父としての本心を娘に直接伝えることは叶わなかった。

もちろんゼルダは言われなくとも察していたかもしれない。しかしいずれにせよ母が亡くなって以来、父と娘の関係は王と姫の関係に挿げ替えられてしまったのである。

画像4

本来のゼルダは遺物の研究が好きな学者気質であった。これは彼女が「ゼルダ」であることとは無関係な、純粋に彼女の個性であると言えるだろう。封印の力の修行が完全に行き詰まるなか、代償行動のように遺物の研究に打ち込む彼女の姿に、共感を覚えた人も多いのではないか。

もちろんハイラル王も、そして恐らくゼルダ自身も、それが代償行動に過ぎないと理解していた。そしてこれをやめさせることこそが王としての責務だった。こうしてゼルダは父とも戦わなくてはならなくなった。

母を失った心の傷も癒えないうちに、以前は優しかったであろう父との関係まで変わってしまったこと。それが幼かった彼女にどれほどの心労を与えたか。王宮内で孤立した彼女は唯一の肉親である父にさえ頼ることができなかったのである。

そして主人公になる

このように今作ではゼルダの内面の深い描写がなされるのだが、シリーズを通してみると、実はこれほど詳細に描かれることは珍しい。よく冗談の種にもされているように「ゼルダの伝説」のプレイヤーキャラはゼルダではなくリンクだからである。

ところが今作ではリンクが記憶喪失の状態でスタートし、彼の過去は謎に包まれている部分が多い。フィールド上の文書やムービー等を通してある程度は推察できるものの、シリーズの他の作品と比べると、その情報量はかなり限定的である。

反対にゼルダについては執拗なまでに詳細な描写がされる。特に古代の祠の調査についてきたリンクに対し「付いて来ないでください!」と激高するムービーは印象的である。シリーズを通してみてもゼルダがこれほど感情をあらわにするシーンはほとんど無い。しかもリンクは王の命令に従っているだけで彼に落ち度はない。

また今作の冒頭ではゼルダはまるで天の声のようであり、プレイヤーもまさかゼルダがこんなに感情をあらわにするとは予想できないから、より印象的なシーンになっている。

画像2

このシーンでこれほど激高した理由について、ハイラル城にあるゼルダの日録には、調査の成果が上がらず気が滅入っていたと記されている。要は護衛に八つ当たりしているだけだが、これについては一つフォローをしたい。

日録にも記されている通り、彼女は感情を表に出さないリンクが無才の姫である自分を蔑んでいるのではないかという、劣等感から来る疑念を抱いていた。そしてそもそも彼女は先述の通り王宮内で常に孤独な戦いを続けていたのであり、そんな彼女にとって王宮を抜け出してフィールドワークに出掛ける時間が唯一の癒しであったのは間違いないだろう。しかしそこにもあのリンクが付いてきた。わずかな息抜きさえ許されないのかと、彼女が感情を抑えきれなかったのも理解できなくはない。

画像5

 もちろん目の前の遺物の調査が上手くいかないから八つ当たりしているというのもあるだろうが、たったそれだけで護衛に当たり散らすような性格では本来ないはずだ。

- なぜゼルダの心理が強調されるのか

今作においてこれほどゼルダの心理が強調されるようになった理由は何だろうか。想像するしかないが、恐らく前作からの影響が強いのではないかと思う。『スカウォ』では女神ハイリアが人間に転生し、歴代ゼルダのルーツとなったことが示された。

となると、その次作である『ブレワイ』では人間になった女神ハイリアのその後を描こうと考えるのが自然な流れだったのではないか。今作のゼルダの人間味が強調されるのは、彼女が神ではなく人間であるということを明示するためだと考えると腑に落ちる気がする。

結論

ゼルダがこれほど苦悩させられたのはなぜか。それは彼女が人間でありながら女神ハイリアの力と使命を継ぐ者であり、味方のいない王宮内で彼女はひとりでその宿命と向き合わなくてはならなかったからである。またメタな視点で考えると、前作『スカウォ』からの対比として彼女が普通の感情を持つ人間であることを強調する必要があったから、とも答えられるだろう。【終】


あとがき

本当は『時オカ』との比較とかも入れたかったけど迷走しそうなので断念。父と娘の関係に関しては『厄災の黙示録』でより深掘りされるので必見です。『スカウォ』は単体でも面白い作品なのでこちらもおすすめです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?