あの時ミファーは何を、なぜ言いかけたのか - ゼルダBotW
『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』に関するネタバレと妄想を含む
本作およびDLCをクリア済の方向け
読了時間 約9分(約4500字)
問題のシーン
- 厄災復活の直前、ミファーはゼルダに対して何かを言いかけていた。
厄災復活のムービーにおいて、力の覚醒の最後の望みをかけて知恵の泉へ向かったゼルダ。しかし結果は実らず。ラネール山の麓でゼルダを出迎えた英傑たちは彼女を励ますが、状況が芳しくないことは誰の目にも明らか。
そんなとき、ついに彼女がゼルダの前に進み出る。ミファーである。ミファーは肩を落とすゼルダに対し、励ましの言葉ではなく、自分が治癒の力を使うときに思っていることについて話し始める。しかしその言葉を遮るように、ハイラル城にて厄災ガノンが復活してしまう。結局ミファーの話を最後まで聴くことは出来なかった。
- 何を言おうとした?
力が目覚めず苦悩するゼルダに対し、ミファーが自身の力の使い方の説明を始めたからには、力の使い方のアドバイス以外ありえない。具体的な内容は恐らく「力を使うために必要なのは、相手を心から護りたいと願う気持ち」だろう。実際そのあとのムービーでガーディアンに追い詰められたリンクを庇おうとしてゼルダは力を覚醒させているからだ。
- なぜミファーはあのタイミングで言う気になった?
ここからが本題である。先述の内容を伝えるタイミングはもっと前からいくらでもあった。厄災復活のタイミングについては予期できなかったとはいえ、また実際伝えたとして直ちに状況が改善するとは限らないとはいえ、いつ厄災が復活するかも分からぬ切迫した状況であったことは間違いない。いくらミファーが遠慮深い性格だとしても、なぜそれまで黙っていたかは気になる所である。
しかしこれについては難解なので、まず簡単なほうから考えよう。すなわち「なぜあのタイミングで言う気になったか」である。これについては比較的簡単で、問題のムービーをよく見ていればほとんど明白である。
いたたまれない空気の中、ゼルダを励ますウルボザ、それに耳を傾けているミファー。肩を落とすゼルダに対し気遣わしげなリンクの表情、そしてミファーがふと口を開く・・・もう明らかなように、ミファーは最終的には「リンクのために」ゼルダにアドバイスをすることに決めたのである。
ただの三角関係?
- それまでの経緯
ミファーがリンクに恋心を抱いていたことは明言されている。またルッタの上でリンクに対し「あなたを護りたい」と決意を表明するムービーもある通り、彼女の最優先は「リンクを護ること」である。彼女が老人たちの反対を押し切ってルッタに乗ることを承知した決め手も、厄災に挑むリンクを後方支援できるということにあった。
一方でゼルダはと言うと当初は厄災に対抗する姫と勇者という立場に捉われ、劣等感に苛まれ、リンクをぞんざいに扱うことも少なくなかった。そのことはミファーも承知しており、何も言わなかったが、何も感じないわけではなかっただろう。またミファーの日記の中でもリンクが姫付きの騎士に任命されたと知った際の動揺が伺える。
その後リンクの献身の甲斐あってゼルダは態度を改め、問題のシーンでは信頼関係を築くに至っている。しかしこの一連の過程と結果をミファーはどう見ていただろう。
- 結局、リンクとゼルダ、ミファーの三角関係に過ぎないのか?
ここで「ああ、ミファーはリンクを常に侍らせているゼルダを妬んでいたから、彼女に力の覚醒に関するアドバイスをしてやらなかったんだね」というのは性急である。それはさすがに考えにくい。結果的にゼルダの力の覚醒が遅れたためにハイラル城は厄災の手に落ち、リンクは深く傷つき、何よりミファー自身が命を落としているのだから。
もちろん物語はすべてが合理的に進むとは限らない。厄災復活について半信半疑だったなら私情を挟んで足を引っ張るようなこともあるかもしれない。しかしミファーはルッタに乗ることを決めたあと自分の身を案じてシドの滝登りの訓練を急ぐなど切迫感を持っていたので、やはり考えにくいだろう。
では、なぜもっと早くアドバイスしなかったのか。この疑問に戻ることになる。結論を言ってしまうと、この疑問に対してどんな形であれ断定的に答えることは間違いだろう。情報が足りず、決定的な根拠がないから、結局は彼女のみぞ知るというべきなのだ。
しかしそれでも考え続けてみることで、いろいろと気づけることもある。そういうことをこの文章で共有したいので、もう少しお付き合い願いたい。
-『時オカ』でもゾーラの姫はリンクに恋心を抱いていた。
話は変わるが、過去作の『時のオカリナ』においてもゾーラの姫であるルトがリンクに恋心を抱いているという設定があった。ルトはミファーとは違い高飛車な性格でありリンクに対して面と向かって将来の婿となれと言っていたが、一方で彼女はリンクが最終的にはゼルダと共に戦う運命にあることも弁えていた。
このこと、つまりミファーがルトから引き継ぐ「ゾーラの姫」という属性、を踏まえるとミファーがリンクに恋心を抱くのはある種の様式美でもある。本作におけるミファー独自の行動原理はリンクと結ばれたいというよりもむしろ「リンクを護りたい」であると言える。
ところで、彼女はなぜリンクを「護りたい」のか?
幼馴染の少女とリンクの関係
- 「リンクの幼馴染」という強力な属性
ミファーとルトの違いとして最も重要なのは、ミファーはゾーラの姫であるだけでなく、リンクの幼馴染でもあるという点である。ミファーの日記によれば、初対面時にリンクは4歳であり、そのときはミファーのほうがお姉さんだったが、ゾーラは長命で成長が遅いため厄災復活時にはリンクが追い抜いていたらしい。
リンクの幼馴染というのはゼルダシリーズにおいて非常に強力な属性である。特にストーリーの中盤までの目標として「幼馴染を助けに行く」展開が多い。『時オカ』においても時を越えて大人になったリンクの最初の目標は森の奥底に囚われた幼馴染のサリアを助けに行くことであった。『トワイライトプリンセス』でも攫われた幼馴染のイリアを助けるのが中盤までの大きな目的となっていた。そして『スカイウォードソード』では「ゼルダが幼馴染」であり、彼女を追う過程で物語の核心にも迫っていく。
要するに「リンクの幼馴染」はつねに物語の起点であり、時には核心でもある重要なキャラクターなのである。しかし多くの場合、幼馴染の救出を巡る展開は中盤で決着し、その後リンクは運命と向き合うことになる。幼馴染は基本的には中間目標であって、本命はゼルダである。
- 「リンクの幼馴染」ミファー
これらを踏まえ、ミファーを「幼馴染」として捉え直すと、本作の最初の目標として(クリア順は自由だが)ミファーの魂の救出が掲げられるのは極めて様式に沿った流れだと言える。
ミファーの日記から分かる通り、彼女がリンクを好きなのは彼の強さと優しさに惹かれたからである。ライネルの不意打ちから救われたエピソードも日記に綴られている。
しかし強いリンクをなぜ「護りたい」になるのか。それは彼女にとってはいつまでもリンクは初対面の頃のやんちゃな笑顔を見せる少年であり、怪我をしたら彼女の治癒の力で治してあげないといけない存在だからだろう。
つまりミファーの「リンクを護りたい」という行動原理は彼女がリンクの幼馴染であるということと固く結びついているのである。
治癒の力とは何だったのか
ミファーの感情について考えるのは簡単ではない。そもそも本作のムービーとフィールド上の文書等から得られる情報だけでは少なすぎるうえ、ミファーというキャラが口数の多い方でもなく、誰かに悩みを打ち明けるタイプでもなく、恐らく日記にさえ本心を書き切っていないからである。しかしだからこそ考えてみたい。
- 治癒の力で出来たこと、出来なかったこと
断片的な情報をつなぎ合わせると、少なくとも彼女の治癒の力が幼馴染としてのリンクとの繋がりを象徴する重要なアイデンティティであったことは間違いない。彼女は周囲の変化に伴って二人の関係もまた抗いようなく変化していくことをはっきり感じており(それには二人の種族の違いによる生きる時間の速さの違いも影響していただろう)、それでも彼の傷を癒すことで幼少期と変わらぬ関係を確認したがっていたように思える。
しかし残酷なことに彼女の治癒の力が彼を癒すことは無く、実際に彼を救ったのは覚醒したゼルダの封印の力と、回生の祠の機能だった。
- あの発言の重みを改めて考えてみる。
最初の問いに立ち返ってみよう。なぜ厄災の復活直前のタイミングまでミファーはゼルダにアドバイスをしなかったのか。
先ほどは議論がややこしくなるので省いたが、実際には「私考えてみたの……」と前置きしている通りそもそも自分がアドバイスできることがあるとすぐには思い至らなかっただけの可能性もあるし、あるいはゼルダとそう頻繁に会う機会が無かっただけかもしれない。はたまた知恵の泉という望みがまだある以上、自分のアドバイスなど野暮だと遠慮しただけかもしれない(一番ありそうでは?)。それに冷静に考えたら「姫様には護りたいって気持ちが足りないんだよ(こんなセリフはない)」なんてよほど言い方に気を付けない限り猛反発を買いかねないということもある。しかし先ほど書いた通り結局、どれも決定的ではない。
しかし少なくともこれまでの議論で、ミファーの治癒の力が彼女にとって重要なアイデンティティであること、リンクの幼馴染としての繋がりを象徴する力であることが分かった。その力に関する情報を他者に共有するということの重みについて我々は思いを致さなければならないのではないか。結局その発言は厄災の不躾な復活によって遮られてしまったのだが、彼女は彼女の最も大切なことについてゼルダに共有する決断を確かに下していたのである。【終】
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