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「ROCK飯」PANTAと歩く所沢グルメ街道第6回 浅草編 土手の伊勢屋の天丼と「世にも怪奇な物語」第三章「悪魔の首飾り」

「Tマネ、吉原の土手の伊勢屋の天丼というのは浅草の名物なのか?」
今日は青山で午前中の打ち合わせ。それも早々に終了し昼食をどうするかと車を走らせる中、ソワソワしながらPANTAが言った。
「そもそも浅草の土手ってどこなのよ、Tマネ」
「あぁ、今の日本堤、暗渠になった山谷堀と吉原の境のことでそのあたりが土手通りという道になってます」
「山谷!あしたのジョーか!?」
「はい、その近くになりますね。あしたのジョーの像がありますよ」
「まるほど、それは行かねばなるまい。よしTマネ、今日は土手の伊勢屋の天丼と行こう」
亀さんがハンドルを三ノ輪方面に切り替える。
「今日は浅草だな」
とPANTAが微笑んだ。

「おぉ、あしたのジョーがいるじゃないか!」
三ノ輪の涙橋近くから土手通りにつながるいろは通り商店街の入り口近くにあるあしたのジョーの像にPANTAは大はしゃぎである。アニメでお馴染みの色に着色された上、あの髪型がリアルに再現されている姿はなかなかシュールだ。
「写真撮ってくれ!」
さて、この二人の並び、さらにシュールである。

ジョーと2ショットでご機嫌のPANTA

「Tマネ、実はあしたのジョーのラジオ番組ドラマの主題歌と劇伴を俺がやってるのだよ」
「はい、以前お聞きしました。劇伴は盤にはなってないんですよね」
「そうなんだよ。Youtubeにドラマの一部が残ってるみたいだけどなぁ。一度ちゃんとライブでやらないとなぁ。頼むぞ」
「はい。でも音源はあるんですか?」
「それがさ、あるんだよ」
「ではやりましょう」
「よし。待ってろよ、ジョー」
とPANTAはジョーの像の肩をポンと叩いた。

土手の伊勢屋はその像から歩いて数分の吉原の見返り柳の近くにある。遊郭で遊んだ男が帰り道に名残惜しく振り返ったことから名付けられた場所。一見、情緒があるようでしょうもない男の話だ。そんな話をしながら店に着く。普段は10人近くが並んでいる店先だが今日は早かったせいかまだ並んでいない。しかも着いた途端に暖簾が出た。これは超超ラッキーである。何せ土手の伊勢屋は予約ができない。食べたかったらどうしても並ばなければならないのだ。体調が万全でないPANTAを並ばせるわけには行かなかったのでほっと一安心。
まずは店に入る。入り口近くの小上がりに陣取るがサイズが江戸サイズ。こぢんまりしている上にロックスターと肥満な俺。亀さんは小さくなっている。注文はいろはのサイズ。要は小中大だが普通の店で言うと大、特大、超特大くらいのボリュウムだ。
「せっかくだから一番大きのでいくか」とPANTA。
「ダメです。食べきれませんよ。ろにしましょう」
「え〜、そうなの」
と不満そうだが絶対ダメである。
「ろは海老の他に穴子がありますから」
と説得して納得。
注文をした後、PANTAが話し始めたのは映画「世にも怪奇な物語」第三章「悪魔の首飾り。

DVDのパッケージ。上部左がダミット、右が少女

「俺ね。この映画を何度も劇場に見に行ったんだよ。第三章の「悪魔の首飾り」がとにかく好きでさ。ストーリーは、かつての人気の面影も消えた映画スター・ダミットが出演の依頼を受けてイギリスからイタリアへ来る所から始まるんだ。すでに重度のアルコール中毒になったダミットが空港を歩いているとエスカレーターから風船がポ~ンポ~ンと落ちてくる。見上げると金髪の美しい少女がルージュを塗った唇で微笑んでいる。いや、これが本当に怖いんだよ」
なんでこれから天丼を食べようと言うのに怖い話?
店には香ばしい油で揚げる匂いとタレの甘い香りが漂っているのに。
「美少女って見方が変わるとなんであんなに怖いんだろう。ここから流れるように空港から外中へとカメラは移動する。スクリーンの中で観客は目がまわるようになって混乱させられるかのように画面は踊り続けるんだ」
PANTAはすっかり天丼を忘れたかのように映画の話に没頭している。
「確かに輝くような金髪に透けるような白い肌。幼女のようで大人の女性のような不思議な少女ですよね」
「でもルージュとマニキュアは真っ赤なんだよ。あれが怖いんだ」
「なんだかその後の少女像にかなり影響を及ぼしてますよね」
「その後、パーティーのシーンとなり、ダミットへ賞品としてフェラーリ250スパイダーのワンオフバージョンが贈られるんだ。このフェラーリを観たいがためになんど映画館へ足を運んだことか。でも、フェラーリを見るためには、あの少女の微笑を観なければならないという関門が待ち受けているのだよ。それも何回も。異形の少女をね」
とここで天丼が届く。

このボリューム、これぞ伊勢屋の天丼

どんぶりをはみ出すような天ぷらの数々。この盛りの良さとボリューム感。海老もデカいが穴子もデカい。まさに異形。
これ「は=超特大」を頼んだら絶対食べきれない。全員、一瞬息を呑む。
「これはすごいなぁ。予想外だなぁ」
と大食いを自認するPANTAも目を見張っている。
いえいえPANTAさん、ネットで十分確認してきたでしょうとは口が裂けても言えない(笑)
この大盛りにして味も濃いめ、なんとも食べでがある。若い時はペロッといけたけれど今の我々にはちと無理があるのだ。
とはいえ鼻をくすぐる揚げたての天ぷらの香。まずは海老の天ぷらの頭をがぶり。新鮮な海老と厚めの衣にしっかり染みたタレがガツンとくる。
同時に白飯をかき込む。このタレの味の濃さが白飯と混ざると最高のバランス。ガフガフかき込んでむしゃむしゃ食べる。これぞ天丼の醍醐味だ。

しっかりと味わうPANTA

どんぶりの半分ほどを腹に収めて、ここで一息。お茶を啜る。
普通のランチだったらここで終了。さて、残りをかき込むかなと…。

「そしてダミットが気がふれたかのようにイタリアの狭い路地を、あのフェラーリ250スパイダーで走りまくる。もう振り回してる感じなんんだ」
あれ、天丼で怖い話は終わりかと思ったら続いている。ここでどんぶりの半分の半分をかき込む。
そうなのだ。PANTAが話したいのは怖い話でもなくフェリーニでもなくフェラーリなのだ。

「オープントップなので屋根はないだろう。でもフロントグラス越しに髪の毛がゆらぐくらいなんだけど、それがね、なおさらその狭い路地と気のふれたようなカメラとフェラーリのドリフトでもう観ているほうが酔わないのがおかしいくらいなんだけど、最高にフェラーリの狂気と魅力を表現してるんだよ」
そしてどんぶりに残った最後の一塊を口に運ぶ。
満腹、大満足である。
「これがフェリーニ映画の真骨頂なんだな」
お、フェラーリからフェリーニに話が戻った。
「さて、Tマネ、浅草の昭和レトロ喫茶でクリームソーダーを飲もう」
とウインクをするパンタ。
あしたのジョーが佇む吉原は土手通りの大満腹、大満足の浅草の天丼ランチだった。

ラジオ版「あしたのジョー」は1977年10月3日 - 10月28日(全20回)TBSラジオで放送。声優は矢吹丈 - 安原義人、力石徹 - 清水紘治、丹下段平 - 斉藤晴彦。
劇伴は全てPANTA。
実際に頭脳警察のライブとしてゲストに鬼怒無月、ヤヒロトモヒロをゲストに迎え21thUNTIXmas2022年12月25日に全曲がライブ演奏された。

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