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なるがまま

男は窓辺に腰掛け、庭に降り注ぐ陽光を眺めていた。

「ふむ、今日もいい天気だ。だが、どうでもいい」

かつては忙しない日々を送っていた。仕事に追われ、家族を養い、時には趣味に没頭することもあった。 だが、今は違う。それらの束縛から解放され、自由を手に入れたのだ。

「あれやこれ、あんなことやこんなこと。もうたくさんだ」男は呟く。過去の栄光も、未来への不安も、全てが霞んで見える。

ただ、目の前に広がる庭の緑と、鳥たちのさえずりが、心を穏やかに満たしていく。「なるがまま、か。悪くない」

男は目を閉じ、深呼吸をする。 時計の針はゆっくりと進み、時間の流れは緩やかになった。 かつては1日が短く感じたが、今はまるで永遠のように長い。

「ひなが1日、とはよく言ったものだ」

男は微笑む。 朝は鳥のさえずりで目を覚まし、庭に咲く花を愛でる。 昼は読書に耽り、夜は静寂の中で思索にふける。

「これが老後の幸せというものか」男は呟く。

かつて追い求めていたものは、虚像に過ぎなかったのかもしれない。 真の幸福は、何もしない贅沢の中にあったのだ。「さて、今日は何をしようか。いや、何もしないのも悪くない」

男は再び目を閉じ、穏やかな眠りに落ちていった。 もしかしたら、明日には何か新しいことに挑戦するかもしれない。 だが、それはあくまでも「なるがまま」に。 自由を手に入れた男は、無限の可能性を秘めた未来へと続く道を、ゆっくりと歩み始めたのだ。

#ショートショート #名も無き小さな幸せに名を付ける #パンダ大好きポッさん