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ねえ、アールグレイは。

かっこいいと思っている。

大学1年生、新生活。いかに着飾り、理想の自分に近づけるのだろうかと考えていた。

誰かにセンスが良い、と思われたい。

その気持ちは身なりだけでなく、寮で暮らす自分の部屋にまで及んだ。
そして部屋にあると良いインテリアになるだろうと考えたのがポータブルラジオである。
出逢いに浮かれた行動力はすごい。
すぐに寮の近所にある電気屋まで歩き、その時そこにあったものを買って帰った。黒色で小型のヨコ置きできるところが気に入った。部屋の机の上がさらにお洒落になるのを想像し、ひとり気分が高揚したのを覚えている。
これが1台目の人生で初めて買ったポータブルラジオだった。

置いておくだけでも良いかと思っていたが流石に買ったばかりだからと思い直し使ってみることにした。はじめの頃は只々音を流していただけだったのだが段々と言葉として受けとめるようになり、気付いた時には人が話す言葉をずっと聴いていられる面白さに虜になっていた。
想定外の出来事である。

沢山のラジオを聴いていると好きなラジオ番組が幾つも出てくる。そして、そこではラジオパーソナリティと呼ばれる方々が1つの世界観を作り、私達リスナーはその住人となっていた。

人間は1つのコミュニティの中でも優劣をつけたがるのだろうか。
いかに自分がパーソナリティの方を理解することができており考えを共有出来ていると傲慢にも考えるようになっていった。ポータブルラジオを買ったときとは種類は違うが、また新たに承認欲求が生まれていたと気づいた。面白さを理解出来ている自分は特別なのだと少し浸る自分がいた。
それに気付いた時には恥ずかしさも感じたが、「楽しむ」ということには何か優越感のようなものが人には必要なのかもしれない。


ニルヴァーナが好きだ。1人のときはノリノリで歌う。
他人には聴いてほしくない。でもニルヴァーナの曲について語ったりしたい。
感情移入をした。自己投影もした。
最近、どちらの気持ちもおろそかにせずに誰かと共有するほうがいい気がしている。



自分はこんなことを知っているという少しの優越感と、相手が知っているかもしれないワクワクを込めて聞いてみたい。









#創作大賞2023 #エッセイ部門