ライトノベルを中心としたオタク系エンタメの気になる動き、新しい動きなどの「今」をざっくり紹介。
自分の趣味記事ではライトノベルの歴史や系譜を紹介することが多い。
過去は大事であり、過去の積み重ねが今を作っているわけだが、その「今」についても定期的に発信して行く必要性は感じている。
というわけで、今回は個人的に注目している「ここ数年のライトノベルを中心にした新しい動き」をざっくり簡単にだが拾ってみようと思う。
○大手出版社の動き
WEB発小説やライト文芸も含んだ広義の動きとして、動きが大きくかつ積極的なのはKADOKAWAだ。
2019年3月にオープンしたサイト「キミラノ」はユーザーの好みや読書傾向を解析して今日の1冊を推薦するレコメンドサイトだ。ライトノベルとの出会い提供に特化したサービスであり、今までのKADOKAWAのWEBサービス事業とは異なる動きとして注目されている。
キミラノ
KADOKAWAはライトノベルを中心とするエンタメ史において常に主役級であり、同時に「いつも身内で競争している」印象も強い企業だ。KADOKAWAの抱えるレーベルがライバル視するのは同じKADOKAWA内レーベルであることは普通で、レーベル単位で販促や宣伝も独立して存在していた。
それはそれとしてKADOKAWAとしての統一された自社商品紹介サイトは昔から存在してはいた。ならばそういった販促サイトのブラッシュアップ版が新たにできただけではとも思ってしまうところだが、「キミラノ」は非KADOKAWA系レーベルも参戦しており、例えば集英社や講談社作品の特集やレコメンドも行っている。
そこらへんのカラクリとしては、元々他社製品も取り扱う電子書籍販売サイト「BOOK☆WALKER」との連動機能を有しているからというところがあり、自社ビジネスモデルとしての設計がしっかりとされている。とはいえ、ライトノベルとの出会いを提供するユーザー寄り沿い型サービスという形の中で、自社製品を越えて拾う姿勢を明確化していることはラノベ読み・ラノベファンとしては好印象なサイトだろう。
新たな動きというわけではないが、今もなお強いのは宝島社の「このライトノベルがすごい!」だろう。2004年にはじまった企画は年1回のムック本刊行という形で業界を盛り上げ、ライトノベルの黄金期にも衰退期にも多大な影響を与え続けている。
ライトノベル業界は昔からレーベルの勃興や消失が激しい業界として知られているが、WEB小説の台頭と黄金期、ライト文芸の登場などによってそれはより加速しており、新しいレーベルが出来たと思ったら消えていく流れがずっと続いている。そんな中で灯台のような存在として機能し続けている「このライトノベルがすごい!」は、今後も一定以上の影響力を保持し続けて行くのだろう。
このライトノベルがすごい! 2025
○WEB特化型新興勢力という動き
WEBで小説というと「小説家になろう」や「カクヨム」、あるいは黎明期の個人ブログ活動などを連想してしまうが、令和時代にファンやマニアから注目されている動きとして、「電子特化商業レーベル」「電子書籍個人出版」「新形態自費出版補助サービス」などが出てきている。どういったものか軽く見てみよう。
「ダンガン文庫」は次世代型出版社を謳うBookBaseが2024年1月より手掛けるライトノベルレーベルだ。よくある新興レーベルと異なるのは、最初から「電子特化・電子のみ」のビジネスであること、BookBaseの社長が生粋のラノベマニアであり、ライトノベル界の停滞や斜陽に対して思うところが多く、ならば自ら動き出すことにしたとして起業したビジネスであることを公言しているところだろうか。
スターティングラインナップには榊一郎氏が名を連ねるなど、古参ライトノベルファンへの訴求にも力を入れている。
ダンガン文庫
自費出版の世界ではかなり初期から「電子特化型サービス」は存在した。出版社側からみても紙と電子ではコスト面が桁違いのため、紙の自費出版なら数百万円コースだが、電子のみなら数十万円で本が作れますなどのビジネスモデルはインターネット登場すぐの時代から見られてはいた。ただ当時の自費出版というのは「人生の記念に本を作ってみたい」というニーズに合わせた事業であった側面が強かったため、その欲求に対して紙の本が手に入らないというのは魅力としてかなり弱く、あまり隆盛はしなかったようだ。
「ダンガン文庫」は自費出版系サービスではないので、その話はまあ置いておくとしても、商業レーベルと電子の関係性というものはだいぶ変わってきてはいる。人気漫画雑誌のWEB版展開の拡充、「小説家になろう」や「カクヨム」の登場、SNS発創作の活発化などと盛り上がる中、スマホで小説や漫画を読むという文化も定着し出版社にとっても「電子」はおまけや番外編ではなくなった。紙の世界が斜陽を叫ばれ続ける中で、紙と電子の力関係は既に逆転しているという研究もある。
漫画業界では電子特化型サービスはかなり競争が激しく、一定の成功を収めている企業も多い。その意味では小説の電子特化型商業レーベルというのは「ありそうでなかった」ところではある。それは「なろう系」という無料サイトの黄金期から既存の紙レーベルに引っこ抜くという型(紙とセットで電子版も出す)の方が優先されてきたという見方もできるだろう。
そういった流れとはあきらかに違う「一見では普通の商業系ライトノベルレーベルに見えるが、最初から電子特化・電子に全振り」というビジネスモデルがライトノベル業界・あるいは小説界においてどういった暴れ方を見せるかは、注目していきたい。
SNS発漫画界では商業出版社との契約などを行わずに、個人で電子書籍販売サイトへの登録やKindle電子書籍を制作・販売するというムーブがそれなりに見られていた。
形式としては「自費出版」の枠になるわけだが、どちらかといえば「同人誌活動」の方に近いともいえる動きでもあり、漫画界ではけっこうな数のヒット作も輩出している。
ライトノベルでもそういう動きは出てきてはいるようだ。だが、どうしても漫画ほど活発ではないようで、そのルートでの代表的ヒット作品といえばこれというのを名指しで挙げるのがまだまだ難しい状況だ。
とはいえ、漫画の方のヒットもamazonや特定電子販売企業との「契約」ありきでのムーブではあり、KADOKAWAの「BOOK☆WALKER」なども商業作家契約とは別枠での、個人電子書籍販売斡旋サービスを展開している。
ゲームの世界では「インディーズ」という概念が古くからあり、インディーズ発メガヒット作も珍しくなくなっている。これからの小説界において「特定電子販売企業からの個人出版=実質インディーズ活動」として定着し、歴史的な大ヒット作が飛び出してくる可能性はあるだろう。
メジャーとインディーズ、商業出版と自費出版の境界線は割と曖昧だ。「誰が一番多く金を出しているのか」などの指標で区別することも出来るだろうが、はっきりと分ける必要もないビジネスモデルというのは小説界でも増えていくのだろう。
そういった枠の動きとも言えるのが「4000兆円文庫」だ。こちらも電子特化型の商業レーベルではあるのだが、「従来の自費出版型」の方に寄っているビジネスモデルで、作家活動を行いたい個人を専門家が有償サポートするという出版社だ。商業小説家でプロの講師でもあるひびき遊氏などが関わっており、従来の自費出版には存在しない添削やクオリティアップサポートとセットで電子商業自費出版が出来ることが売りのようだ。
4000兆円文庫
@4000choenbunko
こちらに関してはまだ公式サイトは存在しないようだ。そして別のアカウント(@turuoka8man777)の方で、2024年11月からリブート開始と告知されている。本当に生まれたての動き出したばかりのビジネスとして、何か具体的な評価を下すのはまだ難しい。注目する価値のある新しい動きとして紹介させて頂くことにする。
○歴史・系譜・保全系活動
ライトノベル史に特化した商業書籍は定期的に刊行されているが、比較的最近出たものとして「ライトノベルの新潮流」を紹介しておく。standards社より2021年12月に刊行された書籍で、ライトノベル黎明期から2021年までのライトノベル史をまとめた上で、ライトノベルとは何か論にも踏み込んでいる。今回は中身の具体的なところについては触らないが、ライトノベル史研究を趣味としている者や、単純に興味がある者なら手に取る価値はある1冊だろう。
ライトノベルの新潮流
ライトノベル系エンタメの保全活動としては、「蓬莱学園」を筆頭としたPBM(プレイバイメール)のアーカイブス活動のクラウドファンディングが成功したことはファンの間で話題となった。「日本PBMアーカイブス」という特定非営利活動法人による活動で、「蓬莱学園」に限定せずに幅広くPBMというエンタメの軌跡を後世に残すことを目標としているそうだ。
この活動の中心人物はライトノベル史全般に対する活動も行っており、そちらの方も商業出版をゴールに設定して進行している模様だ。
日本PBMアーカイブス
現段階で何かが確定しているわけではなさそうな水面下活動については今回は触れないが、「作品そのものや資料などのアーカイブス化活動」は小説やライトノベルという枠を超えてエンタメ文化全般で強い危機感と共に叫ばれている課題であり、国家が絡む動きも起きたり起きなかったりしている。
PBMという膨大なエンタメの中の1つに対して、具体的に保全活動を立ち上げ成功しつつある動きがあることは認識し、注目していきたい。
歴史の保存と、それを踏まえての今というテーマ的にはKADOKAWAが「ライトノベル展2024」を2024年11月29日~12月26日で開催するようだ。こちらはあくまで「KADOKAWAブランドの販促事業イベント」ではあるようだが、ライトノベル史において常に主役級であり続ける企業ではあるので、一見の価値はあるだろう。
ライトノベル展2024
○番外編 エルフ史というありそうでなかった資料
最後に、ライトノベル史的活動としておこなっているわけではないと前置きした上で、プロイラストレーターで講師であるダテナオト氏(下粋道管理局:ダテ局長氏)の活動を紹介しておきたい。
エルフというファンタジーにおいて欠かせない存在となった架空の種族に特化してその歴史や変遷をまとめた個人製作本である「日本エルフ本(仮)」を発表し、大きな話題となっている。
こちらはあくまで個人による同人誌活動ではあるのだが、SNSで公開されている過程を見た商業作家、エンタメ史研究家、漫画・ゲーム・ライトノベルファン、ファンタジー好きなどなどが「一つの書籍という形でまとまったものとしては今までにはなかった、エルフ研究の決定版になる可能性がある」として注視されており、私も大注目している。
商業書籍ではないので、あくまで個人活動である事、その活動は常に流動的である事、欲しいと思った人間が確実に入手できるわけではない事、商業書籍と同じ感覚での校閲、校正などが保証されているわけではないなどを留意する必要はあるが、ライトノベルを含むエンタメ史、あるいはファンタジー史に強い興味のある方は逃すと後悔する1冊(正確には3冊セット刊行予定)になりそうだ。
下粋道管理局:ダテ局長
@elf_date
今回紹介した以外にも、コラムやエッセイ・批評などを中心に活動する動きなど、色々と見られる。私のこの記事のような、個人的な趣味活動として始まって終わるものも多いだろうが、業界そのものを変革する動きがいつどこから出てくるかはわからない。
ライトノベル、あるいはオタク系エンタメ史の「今」も、過去と同じぐらいしっかりと見ていきたいところだ。
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