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大島渚マラソン♯03「太陽の墓場」(1960)~60'爆裂都市:愛と哀しみの釜ヶ崎黙示禄【ネタバレ映画感想】

この匂い立つ生命力をくらえ!

前作「青春残酷物語」では、欲望を貫くことで社会にぶつかり自滅していく青春を描いた大島渚。三本目となる今作では、舞台を渋谷から大阪釜ヶ崎へ移し、プンプン匂い立つほどの生命力溢れる人々が入り乱れる群像劇。暴力的で破滅的な内容ですが、おもしろく哀しい人生の縮図であり、観るとなぜか元気になれる大傑作です。

戦後から復興しつつある大阪釜ヶ崎のドヤ街にオープンセットを組み立て、街頭ロケも溶け込ませた虚実あいまいな世界観が素晴らしく、真っ赤な夕日をバックに工事現場や平屋の屋根のなかそびえ立つ通天閣や大阪城のシルエットも圧巻の迫力。真鍋理一郎のトレモロギター中心の音楽が人生の哀しみをにじませます。

この作品、「青春残酷物語」と同じ年に制作されてるんですよね。27,28歳という若さの勢いとはいえ、こんな濃密な作品を短時間に取り上げるとは、大島渚の狂気じみた情熱を感じます

かるい命、やすい生き様

日雇い労働者、愚連隊、夜のオンナたちと、社会に体でぶつかり何とか生き抜いている人々が入り乱れる釜ヶ崎。まずヒロインの花子(炎加世子)の野性的な魅力に引き込まれます。度胸ある口先とトランジスタグラマー(死語)な肉体で男たちを手玉にとっては暴力的な社会をスイスイ渡っていく姿がなんともカッコイイです。

反して主人公となる武(佐々木功)は、イキった友人の辰夫(中原功二)に誘われるまま愚連隊信栄会の信(津川雅彦)の子分となるものの、暴力になじめず優しさを捨てきれない「掃き溜めの中の鶴」。武に対して、親分の信がなぜかヒイキめで優しかったり、花子が何かと面倒をみてしまうのは、彼の優しさの中に何らかの光を見ているのかもしれません。信が武に、望郷の歌を歌わせて聞き入っているシーンも印象的です。

愚連隊を抜けて食堂で働く武が信の子分ヤス(川津祐介)に見つかり、使いに運んでたホルモンで顔をビシビシ殴られるのもヒドイのですが、見ていたヤジ馬が隙を見てそのホルモンをかっさらう描写も強烈です。またそのヤスも隊への裏切りがバレて路上で野垂れ死にますが、通りかかった人に身ぐるみはがされた挙句、小銭でクズ屋(左卜全)のリヤカーに乗せられ朝日の当たる川にドボンと捨てられます。軽い命の安い生き様が切なくトラウマになりそうです

最底辺からのギラギラした目線

「愛と希望の街」は貧困層をブルジョア目線で分析してましたし、「青春残酷物語」の主人公たちも欲望を持てあます余裕はありました。しかし、この「太陽の墓場」は最下層の目線のみで描かれていて、搾取されていることも気付かずギラギラした目で今日を生きる人々が何ともおかしく哀しいのです。

花子の父寄せ松(伴淳三郎)はドヤ街の住人に仕事を斡旋してはピンハネしてますが、所詮はせこい貧乏な小悪党。愚連隊の会長信も子分や夜のオンナたちを暴力で支配しているものの、街を仕切っている暴力団の大浜組から逃げ回るようにアジトを転々とし、隠れながら虚勢を張っているだけ。登場人物たちは何らかの支配構造の中にいるようで、結局はみな消費されていく側の人ばかりです。

唯一、支配者として登場してくるのが、動乱屋(小沢栄太郎)と呼ばれる流れ者。旧日本軍の手りゅう弾をチラつかせながら「もうすぐ戦争が起こって世界が変わる」と希望を吹き込み、ポンコツ労働者たちの心をつかんでいきますが、実は彼らを騙して戸籍をアヤシイ黒幕(小池朝雄)に渡しては外国人に売る人買い。小沢&小池のマンガみたいな悪役ぶりがなんとも面白いです。

花子のカタストロフィ~生き残れ!

信栄会から「仕事しろ」と言われた武と辰夫は、花子を連れて空き地でイチャつく高校生を襲撃、強盗したのちに辰夫が女子高生(富永ユキ)を暴行。後日、恋人を犯された高校生は自殺し、放心した女子高生は武に襲い掛かったところを花子に突き飛ばされ崖から転落。純愛と死の動揺のなかで、武と花子は体の関係を持つようになります。

一方で花子は、金づるの売血組織を信栄会に乗っ取られた恨みで、武から信のドヤの場所を聞き出し大浜組にタレ込み、信栄会を襲わせます。何とか逃げ延びた信は武とともに花子を追いますが、線路上を追跡中に二人の関係に気づき「ドヤをバラしたのはお前か」と武を射殺!そこに汽車が迫り、武は必死で信にしがみつきともに轢死。命が助かった花子はフッと笑うんですよね。ちょっと愛し合った男であろうと、愚かな男二人の死を目にして笑う女の生命力にシビれました

そのあと、花子はポンコツ労働者が集まる飲み屋に駆け込み、戦争による革命を吹聴する動乱屋を「本当に世の中変わるんか?ここにいるルンペンどもはおらんようになるんか?」とつるし上げ。その様子を見つめる濃厚な怪優たちの顔がたまりません!そこへ戸籍を奪って北海道へ飛ばした大男(羅生門綱五郎)が戻ってきたことから動乱屋の悪事が発覚。「こわせこわせ、はよブチこわせ!」絶望と哀しみのポンコツたちの大暴動は貧乏長屋を破壊して燃え盛り、やがて動乱屋の手りゅう弾でドカーン!

朝日の中に燃えくすぶる、黒焦げになったバラック長屋の残骸。花子は、売血組織に必要な元衛生兵(浜村淳)の手を引いて、ドヤ街の中を走りだします。虚しさの中にも希望を感じさせる素晴らしいラストシーンです

汚い本音はどんどん排除されて、口当たりの良い優しさに包まれた今日この頃ではありますが、そんな今だからこそ、大島渚監督の「自分をごまかしてないで、ちゃんと怒れ!怒れ!怒れ!」というメッセージが突き刺さるように思います。そして、どんな手を使ってでも何とか生き残れ!というたくましい姿に励まされる、とても力強い大傑作でした。

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