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[インタビューズ]私の職業は消防士です/雨虎俊寛(後編)

2020年7月11日

前編よりつづく)

——2月あたりからの睡眠や食事、体調や精神的な変化はありましたか?

4月から極端に変わりました


 4月から極端に変わりました。4月からは休みの日に寝溜めするようになりました。免疫力を保つために酒量も減らすようにしたので体調が思わしくないということが無いように過ごしました。

発熱すれば出勤禁止になりますし、周囲へ不安をかけることになるので健康管理には気を使いました。精神的には漠然とした将来への不安感はありましたが、持ち前の「なにくそ精神」で乗りきっていました。


——今、自分が大事にしたいこと、ものなどを教えてください

短歌を詠むこと

 当たり前のこと、もの以外ですとやっぱり短歌を詠むことになります。いつか今の状況を詠んで自分のためにも残さないといけないだろうなと考えています。


——制限されることや変化せざるを得ないことが増え、それが日々変わってきました。2月からの状況のなかで思っていたこと、考えていたことなどを教えてください。

2月は正直なところ、まだまだ対岸の火事という心境で歌会やイベントに参加していました

2月は正直なところ、まだまだ対岸の火事という心境で歌会やイベントに参加していました。

感染しない元気な身体を保つ! それさえ実践していれば大丈夫と考えていましたが、 3月後半からスパッと自粛モードに切り替えました。職務命令で仕方なくというより恐怖感が強まったことによります。

このまま1年以上は出先での集まりは出来ないのではないかと思うようになり、不自由さを憂慮しつつ激務過ぎた4月と5月あたりは来年の夏までは世話人を務めるのらねこ歌会の活動も詠草を集めたフリーペーパー「ねこまんま」のネプリ配信とPDF データ公開配信くらいしか実行できないだろうと考えていました。

ただ緊急事態宣言が解除されて6月末からは経済活動を動かすというよりは、趣味を含めた人と会うという心を温め緩める行動と職務的な適切行動にどう折り合いをつけながら外に出て行くべきかを悩みました。

完璧にはできないながらも三密回避を意識した行動と身体を元気に保ちながら少しでも自分に不安要素があれば自粛することかなと、職場の禁止項目が解けた今は思っています。



——この状況下で、お仕事や生活のなかで工夫していること(工夫してきたこと)、困っていること(困ってきたこと)、気付いたこと(気付いてきたこと)などを教えてください。

職場では声をあげることを意識しました


 工夫と言えるものではないかもですが職場では声をあげることを意識しました。

花粉症で毎年苦しむのでマスクの備蓄が個人的に多く、同僚達が手持ちのマスクが無い時に遠慮をしないように軽口を交えながらマスクの箱を携えて「マスク無い人おいで~」と声をかけることでした(当然ながら出動の際に着用するマスクは出動時以外の流用不可)。

同僚との日常会話も角を立てずに軽口交えながら「(三密の回避的に)それどうやろな~アカンのちゃうかな~」と伝えることで意識付けを行い、結果的に自分への感染防御にもつながるので、自粛ポリスに程遠い温度で三密の回避の声かけをしていました。


たらい回し的な対応をせざるをえない心苦しさ

 困ってきたことは通信指令員としては119番通報時に新型コロナウイルスの感染疑い案件における、たらい回し的な対応(消防、保健所、医療機関、救急相談窓口など複数機関への連絡に至る)をせざるをえない心苦しさでした。

 そして新型コロナウイルス疑い案件に出動指令をかける場合に、通常の出動時以上の感染防護を整えてから出動させ、受け入れ先医療機関も限られるなか、搬送先が決まるまで救急現場に長く留まる救急隊の安全と健康も気がかりでしたし、帰署した隊員と車両と器具の消毒作業後とはいえ、出動後の隊員との接し方への拭えぬ不安感(自分も所詮は近隣者と似たり寄ったりではないかという自問を含めて)であったり、 消防としては出動隊の防護服やディスポのプラ手袋とマスクの確保にも困りました。

 職場外では外で呑めない! 葉ね文庫に平和園に行けない! 何より歌人の皆さんに会って短歌の話ができない! のはストレスを越えてフラストレーションに近かったですね(苦笑) 

どうしようもなく消防士なんだなぁと

 気付いたこと、改めて感じたことはパンデミックの時って、我々消防の人間はどうしようもなく無私無欲の精神で人のために働くのだなぁということでした。

自分も含めてですが、高くもない給与で家に帰れば家族がいて(中には小さな子供がいる者も)という環境の割りに、職務中はそれを忘れているかのように目の前の出動にあたり、恐怖感もある中でまるで何もないような顔をして職責を全うする。

そういうどうしようもなく消防士なんだなぁと出動指令に追い立てられる同僚の姿を見て、自分もそうだよなぁとあらためて気付かされました。バカだなぁと。バカじゃないと務まらないのが消防ですね。


プロフィール
雨虎俊寛(あめふらし・としひろ)
「NHK短歌テキスト」2017年8月号ジセダイタンカに7首連作「時のグラスを傾けて」寄稿。 江戸雪短歌教室。結社無所属。中之島歌会など関西の短歌クラスタの歌会やイベントに出没しがち。のらねこ歌会の世話人。短歌ユニット(糖花〈こんふぇいと〉、dectet、averse)に複数所属し活動中。
「うたの日」や短歌サークル「あみもの」に不定期参加したり、「うたらば」に投稿したり、Twitterでつぶやいたりしています。近鉄バファローズと横浜DeNAベイスターズのファン。
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文学フリマなどでのらねこ歌会 @noraneko_utakai フリーペーパー「ねこまんま」や短歌ユニット糖花〈こんふぇいと〉 @confeito_tanka のフリーペーパーをお目にされましたらぜひお持ち帰りください。
2020年は毎月末に柏原十らとネットプリント「dectet( #デクテット )」を配信していますのでぜひコンビニで出力よろしくお願いいたします。
小泉夜雨と不定期でaverseで作品発表していますので、その際は告知いたします。現在、楽詩 @ta_no_shi にて「和いろdiary」へ短歌作品をレギュラー寄稿中。
*糖花〈こんふぇいと〉メンバー 雨虎俊寛、江戸雪、東風めかり、志稲祐子、髙木一由、冨樫由美子、豊増美晴
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最後に業務上のお願いを。
119番は火災・救急などの緊急通報専用電話です。119番通報の半分近くは問い合わせ(いたずら、間違い、誤操作含めて)です。症状が軽く救急車を呼ぶまでもないが、「交通手段がない」「どこの病院に行けばいいのかわからない」と言った通報や、「今、診察している病院を教えてください」「消防車のサイレンを聞いたが、どこで火事ですか」といった問い合わせが多く寄せられ、真に消防車や救急車を必要とする通報への対応が遅れてしまうこととなる恐れもあります。病院や災害発生情報等のお問合わせは各市町村の消防署のHPの案内を参照されて、119番の適正利用にご協力よろしくお願いいたします。



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(「パンデミックとわたしと」制作部より補足)
各タイトルは「パンデミックとわたしと」制作物がつけたものです。PDF中は、各タイトルはつけていません。

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