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[インタビューズ]私の職業は消防士です/雨虎俊寛(前編)

2020年7月11日

——「自粛の要請」や「三密の回避」「Stay at Home」などによる影響はどんなものがありましたか?


 恥ずかしながら浅学なもので文章が拙く、分かりにくい内容があるかと思いますがお許しください。 


私の職業は消防士です

 私の職業は消防士です。自粛の要請に関しては4月に入って職場からは世間一般の方より厳しめの禁止を含むものを言い渡されました。禁止の内容としては出勤以外の外出禁止(例外として生命維持のための最低限の買い物のための外出は許可する)、及び出退勤時であっても公共交通機関の利用禁止でした。退勤の帰り道に手早くコンビニに寄るくらいで非番日はどこにも行けませんでした。 


三密の回避は職場では当初はかなり苦慮しました

 三密の回避は職場では当初はかなり苦慮しました。パーソナルスペースというもの無き超体育会系な職種でもあるので、なかなか目の前の「元気そのもの」な同僚を無症状感染者と想定しての三密回避行動に慣れるのに時間を要する同僚が多く、勉強会を試みても実践しない者が当初はそれなりに居ました。
それが実践へとシフトされたのは、トップダウンの命令もありましたが、著名人の死亡事例や元プロスポーツ選手の予断を許さない闘病の報を受けてからピリッとした感は否めませんでした。以降は規律行動になってしまえば下命を受ければ徹底できる職種でもあるので、スムーズに三密の回避へ移行しました。


Stay at Homeについて

 Stay at Homeについて。特に4月は感染者もしくは感染の疑いのある傷病者の救急搬送指標が日毎に更新され、保健所・医療機関・救急搬送を担う消防機関の間での共通認識の確保が難しく、ほぼその対応や119番緊急回線を使っての一般市民の方達の問い合わせ等に追われていました。

帰宅すると心身の消耗で何も出来ない状態が続きました。自宅待機が苦であるというよりは出掛ける気力がありませんでした。

5月、6月は世間も動いていないので自分だけがという心境でもなく、自宅待機にも馴れてきて意外と順応できるなと麻痺していたように思います。ただ私は出勤が必須の職業でずっと自宅に居る訳ではなかったので、職場と自宅を行き来することで閉塞感はかなり紛れていたと思います。

私と異なり通学できなかった家族は先の見えないしんどい Stay at Home 状況が続きました。


社会的に消防署は職場クラスターを起こしてはならない職種

 社会的に消防署は職場クラスターを起こしてはならない職種であり、救急車搬送による感染者と感染疑い者との接触機会を避けられない職務でもあります。それだけに「絶対に感染してはならない」「絶対に家に持ち帰ってはいけない」というプレッシャーで生じる心身の疲弊がありました。

とりわけ私は職場では交代人員の確保が難しい通信指令員(119番を受信するための通信機器操作の習熟と現場活動10年以上の経験が必要。要するに酸いも甘いも心得た熟練の対応力が必須。)を拝命しています。

道案内役が1名居れば救急隊や消防隊や救助隊の交代要員は他の市町村の隊員の応援を要請して補えますが、通信指令員は市町村ごとに取り扱う指令システムの違いがあり、他消防の指令システム機器はメーカーも違えば同メーカー機器でも仕様が違うため操作を覚えるのに日数を要します。

なによりも土地勘が無ければ119番出動要請の場所特定の時間を要するので、他消防からの応援を頼み難い実情もあり、「指令員だけは替えが効かないぞ」という気概をもって務めていました。この「絶対感染できない!」感は見えない巨大なストレスでした。


非番の日の近隣者の目も痛かったです

 あとは非番の日の近隣者の目も痛かったです。医療従事者が近隣者や子供を通わせる先から「感染してるんじゃないか? 近所に居ないでほしい」「一緒に遊んじゃいけません! 通わないでほしい」というような風評被害を受けたという記事がありましたが、私にも少しそういうことも起こりました。

旧村の気風の残る地に住まうもので子供の頃から親しい近隣の方達が私を見かけるとグイグイ近寄って来られて「(この辺に)コロナ出てないか?(救急車で)運んでへんか?」とズケズケと聞いて来られるのには辟易しました。

業務上、知り得た情報は家族でも漏洩できませんのでそもそも言いませんが、もし近隣で感染者が出ますと今度は私や家族が救急車搬送を通しての感染者ではないかと忌避の対象になるだろうなと容易に想像がつきますので、人との接触を回避する行動と言いますか、住宅街に住まいながらなるべく人目につかない隠遁生活に近い過ごし方を強いられました。


短歌活動に関しては歌会やイベント、通う教室が軒並み中止や休止に追い込まれた

 短歌活動に関しては歌会やイベント、通う教室が軒並み中止や休止に追い込まれたのは皆さんと同じくでした。

オンラインでの歌会も私は環境が整っていないので参加することもありませんでした。ただ、短歌は Stay at Home な状況の時でも身ひとつでも楽しめるというか実践できるところだなと改めて感じました。

そうは言っても4月からはこれまでとは違う疲れで仕事明けは疲弊していたので、作歌のペースと言いますか、取り組む時間を思ったほど取れずに過ごしました。それでも短歌を詠むことができたのは短歌ユニットの活動を止めずにネットプリント登録、いわゆるネプリでの作品発表の場で動き続けたからでした。


『糖花〈こんふぇいと〉』ではこんな時だからこそ短歌を発信しようという声があがり

 『糖花〈こんふぇいと〉』ではこんな時だからこそ短歌を発信しようという声があがり、しばらく会えない人へ出すハガキのような短歌というテーマに取り組んで作品発表を試みたり、1年間限定で月末に3首連作を発表する『dectet』での作品発表の場もありましたので、私一人の都合でおいそれと欠詠する訳にはいかず、詠まなきゃという場があったのはとてもありがたいことでした。

詠む歌数はこれまでより少なくはなりましたが、まったく詠まない、詠めないという事態を避けられたのは人と会えない状況であっても、SNSを通して短歌の仲間たちとの交流を続けてこられたからだと思います。


(後編につづきます)


プロフィール
雨虎俊寛(あめふらし・としひろ)
「NHK短歌テキスト」2017年8月号ジセダイタンカに7首連作「時のグラスを傾けて」寄稿。 江戸雪短歌教室。結社無所属。中之島歌会など関西の短歌クラスタの歌会やイベントに出没しがち。のらねこ歌会の世話人。短歌ユニット(糖花〈こんふぇいと〉、dectet、averse)に複数所属し活動中。
「うたの日」や短歌サークル「あみもの」に不定期参加したり、「うたらば」に投稿したり、Twitterでつぶやいたりしています。近鉄バファローズと横浜DeNAベイスターズのファン。
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文学フリマなどでのらねこ歌会 @noraneko_utakai フリーペーパー「ねこまんま」や短歌ユニット糖花〈こんふぇいと〉 @confeito_tanka のフリーペーパーをお目にされましたらぜひお持ち帰りください。
2020年は毎月末に柏原十らとネットプリント「dectet( #デクテット )」を配信していますのでぜひコンビニで出力よろしくお願いいたします。
小泉夜雨と不定期でaverseで作品発表していますので、その際は告知いたします。現在、楽詩 @ta_no_shi にて「和いろdiary」へ短歌作品をレギュラー寄稿中。
*糖花〈こんふぇいと〉メンバー 雨虎俊寛、江戸雪、東風めかり、志稲祐子、髙木一由、冨樫由美子、豊増美晴
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最後に業務上のお願いを。
119番は火災・救急などの緊急通報専用電話です。119番通報の半分近くは問い合わせ(いたずら、間違い、誤操作含めて)です。症状が軽く救急車を呼ぶまでもないが、「交通手段がない」「どこの病院に行けばいいのかわからない」と言った通報や、「今、診察している病院を教えてください」「消防車のサイレンを聞いたが、どこで火事ですか」といった問い合わせが多く寄せられ、真に消防車や救急車を必要とする通報への対応が遅れてしまうこととなる恐れもあります。病院や災害発生情報等のお問合わせは各市町村の消防署のHPの案内を参照されて、119番の適正利用にご協力よろしくお願いいたします。


(「パンデミックとわたしと」制作部より補足)
各タイトルは「パンデミックとわたしと」制作物がつけたものです。PDF中は、各タイトルはつけていません。

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