見出し画像

生まれも育ちも日本の理系が海外留学せずに英語を身につけるまで

はじめに

日本では新年度が始まり,これから英語学習を頑張るぞと意気込んでいる人は多くいることでしょう.振り返ってみると自分も20年以上前の高専入学時にそんな目標を立てていた記憶があります.米国で就職してからはこちらの現地企業でずっと勤務しており,時々日本の人たちも交えて電話会議やemailのやりとりをしますが,そのときの感想を率直に申し上げると,現状での日本人の平均的な英語能力は全くビジネスに使えるレベルに達していないのはおろか聞き取りや話す能力以前に読み書きも危ういというのが私の感想です.
これは学校教育が悪いのもありますが,巷の英会話スクールなどの利益重視で本当の意味での英語能力向上に結びつく学習環境やシステムが広く知られていないことに起因しているように感じています.
まず,英語能力の習得に英会話スクールに通う必要はありません.私は一回も英会話スクールに通ったことはありませんし,学生時代には英語圏への留学経験もありません(短期の2週間程度の滞在は経験ありですが).米国企業でスカウトされるまでは日本で働いていましたし最低限の英語能力はすべて日本国内で自己学習により身につけました.
今回は,これから英語学習を初めるもしくは始めたい人たちへ向けて自分の体験談を交えながら実践的かつ効果的な英語学習方法を紹介します.
 

中学1年の最初の英語のテストは50点!

私は日本生まれ日本育ちです.いたって普通の家庭で育ちましたし,両親からはそれほど勉強についてはうるさく言われた記憶がありません.中学校に入学するといきなり英語の授業が始まります.正直最初はローマ字綴で自分の名前もかけないレベルでした.そんな中, 受けた最初の中1の英語のテストは今でも覚えていて,確か100点満点中50点ぐらいで偏差値はすごい低い値でした.普通最初の英語テストは皆, 結構良い点を取れるもので,周りのテストの点数を見ながら自分でこれはやばいなと感じたのを今でも覚えています.日本語しか触れたことがない人間が英語という未知なる言語と遭遇しそれと格闘することはこのときから始まりました.
 


中学時代は丸暗記でとりあえず受験を乗り切った


今考えると非常に非効率的ですが,高専を受験するまでは丸暗記(例文の筆写と音読)で乗り切りました.文法はもう慣れるしかないので雰囲気でなんとなくやってました.日本の中学レベルの英語テストならこの方法でも結構良い点を取れました.しかしこの時点でまったく英語は喋れませんし自分で英作文もできません.でも受験英語はこれでも乗り切れるのです.
私は理系教科の成績はトップレベルだったのでこれでも高専受験は乗り切れました.その当時は今ほど高専の人気は高くなかったので普通高校とほぼ同じ倍率(2から3倍)ぐらいだったのを覚えています.これで高専へ無事合格が決まりました.

高専の英語教育に絶望


高専に入学して授業が始まると自分の希望通り数学や専門科目の授業は面白かったのですが,英語はかなりお粗末な状況であることを知り愕然としました.高専生の場合には英語は一般科目として必修ですが,授業方法は一般的な中学高校より下のレベルで文科省の条件を満たすために仕方なく授業時間を設けている印象を受けました.申し訳ない程度に英会話の授業も週1ぐらいあった記憶がありますが,何故かイラン人の先生が教えていて訛が強い英語で聞き取りに苦労しました.
この時点でさとりました.このままでは一生実践的な英語能力は身につかないと.そこで自分で自己学習で習得できる通信教材などを探し始めました.
 

English Journalとの出会い

私は本屋をウロウロするのが好きな人種で,紀伊国屋書店などをいつも休日などに立ち寄って棚に並んでいる数々の英語学習系の雑誌などを良く目にしていました.そんな中でALCが発行しているEnglish Journalに出会いました.中身はその当時の自分には理解するのが難しい感じでしたが,有名なハリウッド俳優のインタビュー記事から始まりBBCやABCニュースなどを含んだ非常に興味深いものでした.これだと思ってまずは一冊購入してみて,付属のCDをMD(当時のウォークマンは光磁気ディスクの一種であるMDを使用していた)にコピーして通学時の隙間時間に聴くことを開始します.後になって知りますが,これは多聴の効果を狙える学習方法で,英語の音に自分の脳と耳を慣らすのに非常に効果的な方法です.言語学習で最初つまづくのがこの部分で英語には日本語にない音がたくさん使われています.それに慣れるにはひたすら英語の音声に慣れるしかないのです.
そして数ヶ月ぐらい雑誌を継続的に買いながら,そういったことを試していくうちに同じくアルクが提供する1000時間ヒアリングマラソンという通信学習の教材の存在を知ります.その当時,自分は学生だったので数万円も払える現金が手元になかったので親に頼み込んで一年間1000時間ヒアリングマラソンに取り組みだします.これが高専2年か3年の春ぐらいだった記憶があります.今思うとこれが自分にとってターニングポイントになりました.
1000時間ヒアリングマラソンの教材が届くとものすごい数の音声素材が付属してきます.それらを隙間時間に聞き流す多聴と,集中して聴く精聴を混ぜ合わせて英語のリスニング力を強化していきました.ネタバレになってしまうので,詳細は記載しませんが,具体的には多聴時には流れてきた英語音声を頭の中で発音していくもしくは実際に口に出していくシャドーイングを行います.また集中して行う精聴では,ある塊の文章が流れたらその後にそれを繰り返して読みあげるレセテーション(暗唱),流れてくる音声のみを聞きながら文章に起こしていくディクテーション練習を繰り返し繰り返し行いました.
こうすることによってリスニングを起点にして英語の聴く力,読む力,書く力,そしてスピーキング力も自然に見についていきました.これは子供が母国語を理解する脳のアダプテーション能力と同じ仕組みです.幼児は大量の音声を聴くことで,音に慣れ,次に発話し,それから読み書きを身に着けます.このときに気づきましたが,実は母国語が定着した10代後半ぐらいがもっとも第2外国語を習得する上で効率が良いです.なぜかというとすでに母国語の読み書き能力が備わっているために一旦母国語に変換して大枠の意味を理解できたり文法などの構文知識を母国語を通して得られるためです.この点はよく見逃されていますが,大人が第2外国語能力を身につけるためには母国語の能力が非常に重要です.日本語能力がおぼつかない場合には第2外国語の学習に支障をきたします(もしくは母国語能力がそのひとの外国語能力の到達できるレベルを決定します).つまり10代後半までに日本語で論理的な説明やプレゼンができる能力と読み書きをちきんと習得すると英語の習得は格段に楽になります.
しかしネイティブ並の発話とリスニング能力を身につけたい場合は10代後半がおそらくタイムリミットです.もちろん20代,30代以上になっても英語能力は身につきますが,発音をネイティブ並に到達させるのはかなり難しいでしょう(同じくリスニング能力も発話できないとかなりのハンデを負うことになります).しかし通じる英語,旅行会話だけでなくビジネスで使えるレベルの英語は何歳でも習得可能なので安心してください.あくまでネイティブの発音レベルまで到達しないだけです.

大学院で初めての海外出張->米国拠点の会社へスカウト

高専を無事卒業して周りの友達は就職していきましたが,私は博士課程まで進みたかったので,国立大学に3年次編入しました.もちろん専攻は理系分野で応用物理と物理計測機器などの工学分野へ進みました.そのときに初めての国際会議への参加を通して海外出張を経験しました.ついに自分がやってきた英語学習の成果を試す機会が訪れたのです.初めての海外出張先は米国のロサンゼルスのロングビーチでした.その当時は何もわからず周囲の人たちにくっついて無事入国審査とホテルへの移動を終えてあとはホテルへ缶詰状態でした.それでも初めての海外経験でレストランでの注文(ハンバーガーのトッピングの意図がわからずなぞにてんこ盛りになったり),部屋でのトラブルをフロントに話して修理をお願いしたり拙い英語で伝えますが,意外に通じていました.ここで自分がやってきた自己学習が間違いでなかったことを確信しました.もちろんこの当時の自分ではビジネスミーティングでのディスカッションに参加できるレベルではなく大人しく同席して内容を聴いている状態でしたが,意外にも話している内容は理解できていました(技術系のディスカッションは専門用語が多いので比較的楽です).
その後大学院博士過程に進むと毎年の国際学会だけでなく国外で開催される小規模なワークショップにも一人で参加して学会発表の実績を積み上げていきました.博士課程の最終年には,国内学会でも英語シンポジウムでの20分の英語プレゼン,国際学会ではYIA(Young Investigator Award)のコンペで約25分の英語プレゼンを行いその後の10分以上に及び英語での質疑応答をこなすことが出来ました(今でも覚えていますが,結構タフな質問を非ネイティブの研究者の人たちと行います.国際学会ではインド系,中国系,ヨーロッパなど様々な文化を出身母体に持つ人たちが集まっていました).
 
そしてそんな活動を見ていたのか2007年か2008年の国際学会で今の勤務先の社長から米国で働かないかと声をかけてもらうことができました.そしてH1B-Visaの関門もリーマンショックの余波のおかげで突破し,2009年から今の会社へ就職し今も勤務をつづけています.

米国で現地企業に就職してから

こちらの企業に就職してからは電話会議などに慣れるのに一年ぐらいかかりましたが,いまでは問題なくミーティングを主催したり参加したりしています.こちらに来てから特に力を入れたのが大量の英語を読んで情報を抽出する力を身につけることでした.そのために行ったのは雑誌を定期購読(Timesを2年間ぐらい購読していました),50冊ぐらい英語の本を多読しました.その間に自分の専門と他分野合わせて1000本ぐらいの原著論文を読んだと思います(記憶は曖昧ですが,今年に入ってからでも100本を超えています).また学術誌への論文投稿(共著),国際学会での発表,論文の査読などを行いました.
日本人(ノンネイティブ)にとって英語のだいたいの技能を習得したあとの2番目のハードルは語彙力だと考えています.そこを補う目的で多読を積極的に行いました.こんなレベルまで到達する必要はありませんが,活字が好きな人には向いている方法だと思います(私は書籍に囲まれるのが好きです).こちらで発売直後の書籍を日本語訳が出る前に読むことができます.ジャンルは自分が好きなもので良いと思います.私はノンフィクション作家が好きなので,Jared DiamondとYubal Noah Harariの書籍はだいたい読みました.サピエンス全史も日本で話題になる数年前にオーディオブックとペーパーバックで読んでいました.最近ではオバマ大統領の回顧録をオーディオブックのサブスクサービスであるAudibleで購入してスキマ時間に聴いています.
 

まとめ

新年度を迎えて英語学習をこれから始めるという方に向けて今回は私が行った英語学習方法とその経験談を紹介しました.日本人は英語が苦手と呼ばれますが,それは明治時代の先人達が大学などの高等教育を行えるほど海外の知識を翻訳し日本に持ち込んで教育システムを構築してくれたからです.その点は現代を生きる日本人は誇りに思って良い点でしょう.
しかし,これからの時代,日本でのみ仕事をするというのはあまりにもリスクが大きすぎると思います.英語能力を習得すればほぼ世界中で就職し働くことが可能です.世界中の知の蓄積は英語で現在も行われておりこの地位が揺らぐことは100%あり得ないと断言できます.外交官になりたいなどの特殊技能を必要とする人たち以外は英語を習得すればほぼ世界へ繋がれると思って良いでしょう.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?