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no.10【閲覧に注意】義母と義父、夫婦の絆って?

義母の「在宅介護」復活から、ひと月ほど経った頃、事件は起きた。
早朝巡回のヘルパーさんから、義母が下痢をしていたと聞く。いっぺんで目が覚める。

下痢は結構な規模で、着ていたパジャマ、肌着(上下)、防水シーツ、その下に敷いてあったシーツまでも汚れた。
ヘルパーさんは、義母の体を拭き、着替えをし、汚れ物を大まかに片付けて下さっていた。感謝しかない。

この日は祝日だったが、デイサービスは通常通りにあり、朝9時半に送迎の車が来た。職員の方に事情を話し、施設でも様子を見てもらうことに。
お風呂で体をきれいにしてもらえるだけでも助かる。
この日、義母は朝ごはんを食べなかった。口を結び、1ミリも開けようとしなかった。

さて、この洗濯物の山をどうするか、
これでは、コインランドリーで丸洗いというわけにはいかない。
夫は、このところ、義父の便失禁(下痢ではない)の片付けが続き、ストレスを溜め込んでいる。

できれば洗濯せずに、全部捨ててしまいたい。
私は、ゴーグルにマスク、ゴム手袋を着け、恐る恐る実物を点検してみた。

すると、義母が着ていたのは、買って間もない介護用パジャマだったことが判明。これは、捨てるには惜しい。私が買ったものだし。捨てたら、代わりを買わないといけなくなる。むむむ…

仕方がない。私は覚悟を決めた。腹を括ると、案外大丈夫なものである。
汚れた部分をつまみ洗いし、バケツのお湯が黄土色から無色透明になるまで、繰り返し濯ぐ。

その間、ずっと頭の中を巡っていたのは、なんで、下痢なんてしたのだろう、ということ。
家族の誰も風邪をひいてないし、下痢もしていない。食事の内容も問題ない。細心の注意を払っている。

そんなとき、排泄物の中にあったと思われる固形物が目に留まった。
義母の食事は噛まなくても食べられる【区分4】である。
固形物はあり得ないのだ。

その固形物、大きさは50円玉くらい。厚みは5ミリほど。少し弾力があり、小さなほくろのような、黒い点が一つ見える。
手に取り(ゴム手袋してます)、弾力を確かめながら、義母と義父の部屋の中にあったものなどを思い浮かべていくうち、謎が解けた。

これは、干し芋のカケラだ!

尻込みする夫にも確認してもらう。間違いない。おそらく、義父が食べさせたのであろう。

なぜなら、数日前にも、一口大のあんこの餅を義母に食べさせようとしていたからである。そのときは、直前に気づいて事無きを得たのだった。
命に関わることだから、夫から注意をしてもらった。それなのにである。

義父に干し芋のことを聞いてみると、
義父:「わしじゃない」
   (動揺している)
   「ばあちゃん、自分で食べたんでないかな」
私 :「おばあちゃんは、ひとりで干し芋食べられないですよ」
   (言い方がきつくなっている)
義父:「じゃ、ヘルパーじゃないかな」 
と、とぼけて平気で人のせいにする。(ヘルパーさん、ごめんなさい)

今思えば、私の聞き方も悪かったと思う。
「おばあちゃん、干し芋お好きなんですね」とか、聞けば良かったのだ。
そうすれば、本当のことを教えてくれたかもしれなかったのに。

何より不思議なのは、おかゆにご飯の粒が混ざっても吐き出そうとする義母が、干し芋を食べたということ。もしかすると、
義父:「干し芋食べるか?うまいぞ」
義母:「ちょうだい」
みたいな、やりとりがあったのかも知れぬ。勝手に想像して切なくなる。

二人は認知症ではあるけれど、お互いを思う気持ち、信頼する気持ちは、消えていないということなのか。
実際どうなのだろう。

仲の良い夫婦に見えたことは、無かったけれど。


在宅介護*観察日記『義母帰る』



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