見出し画像

母とわたし①出禁の娘

出禁の娘というのは、私のことである。
その娘(=私)がアルツハイマー型認知症で要介護1の実母(以下、母)の機嫌を損ね、母から実家への出入り禁止を申し渡されてしまった。


母は86歳。同い年の夫(以下、父)と、弟夫婦との四人暮らし。
弟夫婦は共働きで、日中は老夫婦だけで過ごしている。ちなみに嫁姑の中はこの上(下?)なく悪いw。

母に認知症の症状が見られるようになったのは、2018年のこと。
弟から「母さんの様子がおかしい」と連絡があった。母の知り合いから「お母さん、ひょっとしたら…」と言われて気づいたのだそう。
私も時々、実家に立ち寄っていたけれど、わずかな滞在時間だったし、異変に気づかなかった。

父は、十年ほど前に指定難病の脊椎小脳変性症を発症。
この病気特有の、足のふらつきのほか、ろれつが回らない、手先が思うように動かせない等の症状がある。頭はしっかりしているので、お金の管理、薬の管理、通院などのスケジュール管理は父が担当している。
平日の通院や買い物は介護タクシーを利用。
食事の用意は母。まだ料理はできる。ただ、何をどこにしまったか、調味料や食材の場所がわからなくなったりする。そんなときは父が助け舟を出している。

母の主な症状は「嫉妬妄想」と「物盗られ妄想」。
嫉妬妄想は、父が浮気をしているというもの。妄想というか、激しい思い込みで、介護サービスに来られる方が女性だと、真っ先に疑われる。
父の訪問リハビリは、母が猛烈なクレームを入れたことにより、あえなく中止に。こんな調子なので、リハビリに限らず、介護サービスは受けづらい。

物盗られ妄想のターゲットは私である。
一時期は、昼夜を問わず、「〇〇返して!」との電話がかかってきた。
〇〇とは、客用座布団、食器、除湿機、化粧品、洋服、アクセサリー、等々。
「私じゃないよ」と答えると
「それじゃあ、誰が持っていくの?あんたしかおらん!」となる。家まで押しかけてくることもあった。
(その後、運転免許証は返納)
こういうとき、母が私を見る目は、猜疑心でいっぱいなのだ。
母の言動や態度に傷ついて、つい感情的になり、認知症の人に対して「言ってはいけない」ことを、色々言ってしまった私。
義母のときは一歩引いて様子を見ていたのに、わが母となると頭に血が上る。

抑うつ症状も出てきたが、かかりつけ医に処方してもらったお薬が合ってからは、妄想は見られなくなった。ここ1〜2年は物忘れはあるものの、穏やかに過ごしていたので、すっかり安堵していたのだった。
あるとき、母は「迷惑かけたんだよね?」と聞いてきた。
母は、頭がぼんやりしてとにかく気分が悪かったのだと言った。
そして、何も覚えていないのだとも。

ところが、最近になって「物盗られ妄想」が復活。
先月、実家に行ったときのこと。
この日は、玄関前の階段横の手すりの補修のため、福祉事業者の方と契約をすることになっていた。ケアマネさんも立ち会っていた。
両親には弟からあらかじめ話をしてもらっていた。
ところが、「あんたは余計なことばかりする」「二度と来るな」
と怒鳴られ、一瞬叩かれそうになった。
手すりの補修は中止。
ケアマネさんたちには帰っていただき、私は泣きながら家に帰った。帰ってからも泣いた。

そんな最中の今年の「母の日」。
どうしたものか…
今頃は私に出禁を言い渡したことなど、忘れてしまっているかもしれない。
それでも、出禁の娘は、なかなか足が向かないのであった。

(2024. 5.24)

※読んでくださり、ありがとうございました。母のことを書くと、何でか暗いトーンになります。母の激怒で気づいたこと、それは次の機会に。


母とわたし

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?