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意味論からの論理式-1【論理学をつくる #3】

(2023/9/24 3:30更新 §3.1.2を一部加筆修正しました)

これから数回にわたって、第3章の内容を読んでいきたい。

第2章までは、論理式を文字列の特殊な並びとして特徴づけてきた(syntax)。
第3章では、この論理式に意味論を附加することで、論証の妥当性を議論したい(semantics)。

§3.1 結合子の「意味」

結合子が命題の真偽にどう関わるかということは, 結合子がくっつく前の真偽と, くっついた後の命題の真偽との関係がどうなっているかを調べることで明らかにできそうだ。

戸田山, 論理学をつくる, p. 37

§3.1.0 2値原理

真理値を真と偽の2つに限定し, 「論理式はすべて, つねに真・偽いずれかの真理値を持つ」

戸田山, 論理学をつくる, p. 38

あたりまえすぎるような気がするが、そもそもイチから論理式を作ると云っているのだから、これは原理としよう。
原理とせずになんとかならないか、という気も起こるが、そもそも「真理値」という概念の定義なのだから、どうしようもない。

§3.1.1 結合子と真理値表

各結合子の真理値の割り当ては、テキスト本体に譲る。

(注意)

  • 「∨」は、選言肢disjunctと云う。これが排他的選言exclusive disjjunctionであるとは、A, Bを論理式として「A∨Bの真理値が1であるとき、AとBの真理値がともに1であることはない」ということである。

  • 数学的な主張で用いられるのは非排他的選言non-exclusive disjunctionと呼ばれ、A∨Bの真理値が1であるとき、A, B両方の真理値が1であることを許容するようなものである。

  • 「→」を「ならば」に対応させようとすると、A→Bの真理値が1であるとき、Aの真理値が0でありうる。これは直観的には違和感があるが、そもそもAが嘘をついているならばなんでもOK、と考えればさほど違和感が無いように思う(筆者はそう思わないらしい…)。

§3.1.2 真理値分析

上で結合子を用いた論理式の定義をした。
これを用いて、更に複雑な論理式の真偽を確かめることを真理値分析という。そのために、どのようなときに真になるのかという真理条件 truth conditionを考える。

真理値分析に対しては、次の3パターンが考え得る。
(1) 原子式の真理値の割り当てに関係なく、真理値が恒に1 ⇒ トートロジー
(2) 原子式の真理値の割り当てに関係なく、真理値が恒に0 ⇒ 矛盾式(恒偽式)
(3) 原子式の真理値の割り当てに応じて、真理値が0, 1   ⇒ 事実式

用語として、真理値が1になりうるタイプの論理式のことを充足可能式 satisfiable wffと呼ぶ。但し、wwfとは"well-formed formula"の略である。
特に、トートロジーとは、「ただそういう形formをしているから、という理由だけで正しい」という、当初考えようとしていた目標の一つ(形式的真理 )である。

矛盾式inconsistent wffは、充足不可能式という。

(充足可能の意味) テキストでは、「3.6 矛盾とは何か」に対応
複数の論理式に対して、これらが矛盾している inconsistentとは、「全ての論理式を同時に真とするような、原子式への真理値割り当てが存在しない」こととする。
逆に、矛盾していない―全ての論理式を同時に真とするような真理値の組み合わせが存在する―とき、この論理式の集まりは充足可能 satisfiable/整合的 consistentと云う。
(2023/9/24加筆項目)

記号として、トートロジーをT、矛盾式を⊥(Tの逆さ文字)と表すことがある。

(練習問題9) 以下を示せ。
結合子として∧、→のみを含むような論理式はすべて充足可能である。

(証明)
結合子として∧、→のみを含む論理式が、いずれかの場合に真理値として1を持つことを示せばよい。証明は帰納法に拠る。
(i) 原子式
 2値原理に拠る。
(ii) 一般の論理式
P, Qを条件を満たす論理式論理式として、これが充足可能であるとする。
このとき、これらを組み合わせた論理式 P∧QとP→Qは
P∧Q:P, Qの真理値が共に1のときを選べば
P→Q:Qの真理値が1のときを選べば
それぞれ充足可能。

以上、(i)と(ii)から帰納法が閉じて題意は示された□

〇 分析的真理 v.s. 経験的真理

以下の2つの例を見てみよう。

例1.
安倍晋三は東京都出身で、総理大臣になった。

例2.
神は造物主であるならば、神は造物主である。

例1.の、「安倍晋三は東京都出身」ことと「(安倍晋三は)総理大臣になった」ことが真であるかどうかは、論理学から出てくるものではない(#1:§1.2 論理学はどうして妥当性だけを見るのか?)。しかし、「色々な実験や観察による調査を通じて、これらが真であることは確かめられている。このような真理を「経験的真理 empirical truth」と呼ぶ。
別の言い方をすれば、この世界(線)においてたまたま真であったとも捉えられる。この意味で例1.が真であることを偶然的真理 contingent truthと呼ぶことがある。

例2.は、「A→A」のトートロジーの形formをしているので、もうただそれだけで正しい。このような真理は、形式的真理(論理的真理)という。
また、

例2’.
神は造物主であるならば、神は万物を造った。

も真であることは分かる。これは、実験的に分かるというより「造物主」という言葉の中に「万物を造った」という内容が含まれているからである。(それを言い出したら、造物主の定義が世界線に依って異なる場合があるかもしれないじゃないか、と言いたくもなるが…まあ、造物という言葉に対してモノを造る、が結びつくのに必然性があるといっても間違いではないように思う。)

例2と2’を併せて、分析的真理 analytic truthと呼ぶ。これは、どの世界(線)においても恒に真になるので必然的真理 necesarry truthという。

§3.1.3 論理的同値と同値変形

syntaxの観点からすると別の論理式、即ち全く異なる並びの文字列であっても、semanticsの観点、即ち真理値分析の観点からすると全く同じ真理値表を作っていることがある。これを、論理的同値 logically equivalentと云う。

また、ひとつの論理式を別の論理的同値な論理式に変形することを同値変形と呼ぶ。2重否定や対偶律、De Morganの法則は、高校数学でも勉強する内容である。

また、これは代数的な演算規則に対しても同様なのだが、結合法則 assosiative lawが成り立つ場合には、( )は省略してよいとする。
してよい、というかしたところで別に読み枠がズレたりして真理値表が異なったものになることがない、という意味で許される。
従って、▲を選言肢, 連言肢として、(A▲B)▲CはA▲(B▲C)と論理的同値なので、( )でどう括ってもsemantics的観点からは同値なのでA▲B▲Cと記す、というだけ。

§3.1.4 置き換えの定理 replacement theorem

以下、論理式Aを複数含む論理式をC[A]と書く。このAを一部乃至全部Bに置き換えた論理式をC[B]とする。また、真理値を<A>と書くことにする。
このとき、以下の定理が成り立つ。

【定理7:強い置き換えの定理】
(A↔B)→(C[A]↔C[B])はトートロジーである。 

戸田山, 論理学をつくる, p. 52

(証明)
(i) A, Bの真理値が等しい場合
<(A↔B)>=1。従って、<(C[A]↔C[B])>=1を示せばよい。
(C[A]↔C[B])を真理値分析するために形成の木を書いて、原子式にまで分解すれば、そこでAをBに置き換えることで全く同じ真理値表が得られる。つまり、C[A]とC[B]は論理的同値であり、従って(C[A]↔C[B])はトートロジーである(*)。
(ii) A, Bの真理値が異なる場合
<(A↔B)>=0。この場合<(C[A]↔C[B])>の値に依らず、「→」の真理値表拠り全体としては1でトートロジー。

(i)と(ii)から、恒に<(A↔B)→(C[A]↔C[B])>=1ゆえトートロジー。

(*の主張) …テキストで、定理5(p. 50)
2つの論理式A ,Bについて、
A, Bが論理的同値であるならば、A↔Bはトートロジー。
A↔Bがトートロジーならば、A, Bは論理的同値。

(*の証明)
A, Bが論理的同値である
⇔ AとBを構成する原子式のいかなる構成に対しても、AとBは恒に同じ真理値を取る
⇔ AとBを構成する原子式のいかなる構成に対しても、<A↔B>=1□


【定理6:置き換えの定理】
AとBが論理的同値であるならば、C[A]とC[B]も論理的同値である。

戸田山, 論理学をつくる, p. 52

これを証明するために、以下の定理を示す。

【定理8】
AとA→Bがともにトートロジーならば、Bもトートロジーである。

戸田山, 論理学をつくる, p. 53

(定理8の証明)
<A>=<A→B>=1を仮定する。
このとき、「→」の真理値表から、<B>=0は<A→B>=0となり矛盾。従って、<B>=1である□

(定理6の証明)
AとBが論理的同値であると仮定する。このとき、(*)から<A↔B>=1である。
また、定理7から<(A↔B)→(C[A]↔C[B])>=1である。
上の2つと定理8を併せると、<(C[A]↔C[B])>=1である。再び(*)から、C[A]とC[B]は論理的同値である□


()
第11章で、非古典論理non-classical logicsの紹介がある。
その中で、古典論理を振り返る記述があり、その特徴に

(1) 古典論理学では, 真理関数的でない結合子は扱わない。結合子はどれも真理表で定義できるようなものにかぎられていた。
(2) 古典論理学では, 2値原理を採用していた。あらゆる(閉)論理式は必ず真か偽のいずれかの真理値をもつものとされた。

戸田山, 論理学をつくる, p. 280

が挙げられている。


この章は長いので、ここまでとしておこう▨

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