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マッキンゼーの人事部長が語る、デジタル時代のHRと同社の取り組み

こんにちは。パナリット・ジャパン編集部の山口です。僕は現在京都大学の修士 1 回生で、パナリットでデジタルマーケティングのインターンをしています。もともと学部生時代にアメフト部にいた頃から組織のあり方やマネジメントに興味があり、その流れでパナリットでインターンをしてみたいと思うようになりました。現在はシンガポール本社のマーケチームにも意見をもらいながら、日本支社のマーケ活動やピープルアナリティクスに関する市場調査を進めています。
調査のなかで、Digital HR leaders というラジオ連載の中に非常に内容の濃い良い記事がありましたので、その内容をシェアしたいと思います。

マッキンゼーでピープル・アナリティクス(以下、PA)を推し進めるキース・マックナルティー ( Kieth McNulty ) と、PAの世界的な権威であるデイビッド・グリーン ( David Green ) の対談です。約1時間にわたる対談の中で、なぜこれからのHRにおいてデータが重要であるか、マッキンゼーでの実際の取り組み、そしてこれからのデジタル時代のHRの未来予測をお話しています。
以下は対談の要約ですが、対談の全文を知りたい方は以下からどうぞ。

(以下の第 16 回の記事を要約しています)
Spotify版:https://open.spotify.com/show/40LdYb32asJxvZ9JnYYlTL
Apple pod cast版:https://podcasts.apple.com/us/podcast/digital-hr-leaders-with-david-green/id1459322652
文字起こし:https://www.myhrfuture.com/digital-hr-leaders-podcast/2019/10/1/mckinseys-approach-to-data-driven-hr

登壇者紹介

Kieth McNulty
People Analytics and Measurement team at McKinsey
A top voice in December 2017 by LinkedIn
元数学者、20年前にマッキンゼーのコンサルタントとして転身。5年前から才能の定量評価に取り組み始める。現在はマッキンゼーのピープルアナリティクス チームを率いる。

David Green
世界的に有名なHRの権威。sight222 & myHRfuture.comのディレクター。ライティング、講演活動など様々な取り組みを通じて、ピープルアナリティクス、データドリブンな人事の必要性を説く。


デジタル時代の人事、 HR 3.0 とは

David Green (以下DG): 去年リリースされたHR3.0の記事を読みましたが、とても面白かったです。リスナーに向けて、HR3.0とは何か説明していただけますか。


Keith McNulty (以下KM): HR 3.0 とは、近年登場した人事における仕事の新しいフェーズです。HR 1.0 からの変遷をまとめると、

HR 1.0 1980年代以前、HRが完全に行政および労使関係の機能だった頃の人事。
HR 2.0 組織における人材の価値が高まり、人事領域の専門性が高まり、レポート目的での分析ニーズが増えた時代の人事。
HR 3.0 転職など人材の流動性、スピードが共に増え、より複雑で広範でスピーディーな意思決定が求められる時代の人事。

こういう分類をしています。
ではなぜ HR 3.0 が今求められているのでしょうか。それは、オートメーションによって、とても大きな変化が2030年代に起こると予測されているからです。人材も例外ではありません。人的資源のあり方が変化し、転職のスピードや回数、人材の多様性など大幅に変化する環境の中でこれまでの方法で運用を続けることはできません。これこそが、HR3.0を推し進める必要性を駆り立てているものなのです。

DG: では、HR 3.0 をどのように企業は進めるべきでしょう。

KM: HR 3.0 モデルには 3 つの要素が必要です。

・データドリブンであること
・組織の意思決定などが柔軟で機敏であること
・幅広いビジネスの才覚を多くの専門家から得られること

これらをどのように身につけるかというと、1つは教育を受けることです。人事の専門家が自ら外に出てそのような教育を受けましょう。そしてそれは人事プログラムではなく、一般的なビジネス領域から得られる知見です。

組織の柔軟性に関しては、プールで決まったレーンを泳ぐように、決められた手順を踏むような業務体系から、より柔軟で機敏に動けるような組織体系に変えていく必要があるということです。

また心理学や、行動経済学などに詳しい、専門家をチームに招き入れることは非常に有効です。人事だけでない、ビジネス領域、もっと幅広い領域の知見を取り込むことで改革が起こしやすくなります。

何より、人事部門のリーダーが従来の固定観念を壊して、このようなことを積極的に取り入れる勇気を持つことが大切です。

マッキンゼーでの HR 3.0 への取り組み

DG: マッキンゼーでのHR3.0への取り組みについて教えてください。

KM: 約 2 年間私がマッキンゼーで行ってきた取り組みについて説明します。
はじめはよくあるようなリポーティングチームでした。業務のほとんどは人材に関する諸問題に関する情報を企業に提供することであり、その報告の多くは手作業で行われていました。当時はデータを集計するのに膨大な労働力がさかれていました。

HR3.0の実現のためにデータを使える形にまとめることは必須なので、出来るだけ自動的にそれが出来るようシステムインフラを整備することにしました。データ分析を行うにあたってデータサイエンティストが必要になりますが、データ化を進めようとすると多くの場合データの質が大きな問題になります。これはHR領域に限った話ではありません。データサイエンティストの仕事の 80 % がデータ整備だと言われているほどです。

そこでデータサイエンティストが本来のデータ分析などの業務に集中できるように、データを専門的にまとめるデータエンジニアグループをつくりました。
データエンジニアグループは、データが常に高品質であることを確認し、変更が発生した場合は適切にそれを管理し、しっかり伝達することが仕事です。

これによりデータが自動的に綺麗にまとめられ、業務効率が大幅に改善しました。

また、もう1つ取り組んだことはチームに専門的な知識を取り入れたことです。
先述の通り、今の人材市場のスピード感についていくためには俊敏な行動力、制度が必要です。色々な専門家を取り込んだことでチームは大きくなり、組織に柔軟性と機敏さをもたらしました。

こういった専門家が果たした役割は非常に大きく、またあとで説明したいと思います。

ああそうだ、誤解して欲しくないのは報告業務や集計を今すでに行っているからと言って、ピープルアナリティクス (以下; PA) と切り離して考えるものではない、ということです。データドリブンな人事を推し進めようとして、手始めに報告業務を廃止することはよくあることです。しかし、大半の企業が結局それに戻ってきます。報告と集計は、むしろPAの根幹だと考えるべきです。

DG: また別の記事でトランスレイター (Translator) について紹介されていたものがありましたが、あれは面白いと思いました。

KM: そうですね。トランスレイターというのは、データ分析を行うデータサイエンティストと、課題意識のある現場の人間をつなぐ役割をする人です。非常に重要なポジションだと認識しています。

多くの企業では HR 領域の人間をそこにおきますが、ビジネスの経験がないと難しいポジションです。マッキンゼーでは先述の通り、多様な専門性をもった人間の中から適切なポジションに適切な人をおいています。トランスレーターを置くことでデータサイエンティストが課題解決にむけ有益なアプローチに取り組んでいるということを自覚でき、ミスコミュニケーションを防ぐことができます。

具体的なプロジェクトと成果について

DG: マッキンゼーでこの2年間進めてきた具体的なプロジェクトと成果について、具体的に教えていただけますか。

KM: 1つは今までにない人的評価プログラムの構築です。結局 HR を進める上で、いろいろなことを測定することが必要になりました。その測定のうちの 1 つで、人の思考プロセスを測定することに取り組みました。

マッキンゼーには面接で、問題解決に対するアプローチを測定する優れたプログラムがありましたが、候補者の「課題に対してどのように考えるか」という側面のみを評価することしかできませんでした。さらに、時間がかかるため一部の候補者にしか行うことができませんでした。それに対し、もっとパーソナルに、この人はどういうタイプの人間で、どういうキャリアが合うか、ということを時間的な制約を気にせず評価できる方法を開発したかったのです。

そこで面接前に候補者が受験できる4 択のテストを開発しました。これによって人々のタイプをよりよく理解できるようになり、その人に合った職種を見つけることが可能になりました。この開発には例えば心理計量学に詳しい専門家が噛んでいたりします。

やっている仕事が合っていなかったり、スキルが合っていなかったりしてパフォーマンスが出しきれていない人は大勢います。それをこのようなアプローチで事前に解決したかったのです。このプログラムはいずれ外部に公開して、さらに発展させたいと思っています。私たちが開発したこのテストより幅広く、人の特性全体を心理測定で計測することははるかに難しいでしょう。ですので、きっとそれは少し先のことになるでしょう。私たちがマッキンゼーで開発したものはおそらく、現時点では最先端の心理測定ツールです。

もう1つは組織形状です。ここでの組織形状とは、意思決定がどこで行われどういう部署があって、みたいなツリー状のいわゆる組織図、ではなく人々がどのように相互作用し合っているか、という人的ネットワークを明らかにするということです。

PAを進めるためにこのような人の相互作用を理解することは必要です。そのために、データをグラフ形式にし、彼らは誰を知っているか?彼らは何をしたか?彼らはいつそれをしたか?など、交友関係や行動のネットワークを明らかにするのです。

これにより従来のような机上のデータをみるのではなく、人の行動データからネットワークを分析できるようにします。

これをどのように実現するか、ということですが、テキストと言語の領域からとりくんでいます。人に関する情報のほとんどは、テキストと言語です。ほとんどの人の評価は、人を調査したり、物事について意見を求めたりするときに、誰かが行ったコメントに基づいて評価します。だから多くの場合はテキスト形式です。
しかし大きな組織では、膨大なテキストデータ全てを人の力で集約することはできません。

そこで私たちは自然言語処理の専門家や語彙統計学の専門家などと共に、大量のテキストをデータ化して分析しています。これにより、例えば人との交流がある一定のレベルを下回ると離職可能性がものすごく上がる、といったことがわかるようになるのではないかと思っています。

今後1〜1年半で推し進めたいこととPAの注意点

DG: 今後1~1年半で推し進めたいことはなんですか。

KM: 基本的には今説明したことをより高い精度で実現できるようにすることです。
一方で、セルフサービスデータ、つまりデータが自動的に使える形で蓄積されていくシステムやダッシュボードをしっかり作ることと、データをただ提供するだけでなく、適切なデータを適切な人に適切なタイミングで提供できるようにすることが大事だと思っています。

またデータアートの分野も大事でしょう。データが示すストーリーを可視化して伝えることに取り組んでいます。人々をあっと言わせるような伝え方を、ね。

そうそう、PAを進める上で多くの人が陥りがちな間違ったアプローチを伝えておきます。


それは結論ありきで取り組んでしまうこと、です。
なぜならこのやり方をとると、自分の信じる結論を証明するプレッシャーにさらされるからです。データ分析は得たい結果を証明するためのものではありません。仮説を検証するためのものです。したがって正しくは特定の質問に対する答えを得るために分析プロジェクトを行うつもりで、合っているかもしれないし間違っているかもしれない、というアプローチで取り組むべきなのです。

キースの思う、人事の今と将来

DG: PAに関して今最も楽しんでいることと、最も大きな懸念をそれぞれ教えてください。

KM: 組織がこれまでになかった専門知識を取り入れるために企業が門戸を開いているという事実と、心理測定、ネットワーク分析、自然言語処理など、私が必要だと感じていた全てのことが人事領域にもたらされたことに最も興奮しています。私が使用している膨大な量のモデルや方法論は様々なタイプの専門知識が使われていますが、その多様性は素晴らしいことだと思います。

逆に懸念としては、多くの人がPAを実践していると言っていますが、実際にはPAを実践できているわけではない、ということです。質の悪い例がたくさん出てきてしまうと、大きな企業が投資対象にならないと考えてしまうのではないかという懸念があります。

DG: 人事の将来はどこに向かっていると思いますか?2025年を目安にしてお答えください。

KM: 2025年では近すぎますが、もう少し先には HR 3.0 に触れ始めている組織が今より多いことを願っています。
また、企業の規模によりますが、さまざまな業務の自動化が人事部にもたらす影響はかなりの機会につながると思っています。



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