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凪良ゆう 『汝、星のごとく』感想

本屋大賞作品、『汝、星のごとく
凪良ゆう


愛媛と東京を舞台として描かれる
男女の恋愛とその人生についての話


エピローグ
「私の夫は、毎週他の女の家に行く。」



物語の始まりは高校生。複雑な家庭環境の中で、暁海(あきみ)と(かい)は、自分と「似た境遇」や「似た部分」を持つお互いを意識するようになっていく。

ムラ社会、閉鎖的空間、狭く窮屈なコミュニティ、噂話。
生きづらさを抱えて、それでもまだ大人にはなれない。未だ子どもの二人にはどうすることもできないのが現実である。


そんな狭い世界から先に抜け出したのは、かねてからの夢である漫画脚本家を大成させた櫂だった。愛媛から、そして暁海から離れ、東京へ出た彼の環境は慌ただしく変化していく。
一方で暁海は、母や生まれ育った愛媛から離れることは出来なかった。彼女は地元の会社に就職することに決めた。



このあたりから、物語は徐々に不穏さを帯びてくる。環境が変われば取り巻く人々も変わり、否応なしにその人自身をも変えてゆくのである。
分かり合えていたはずの二人は、徐々にすれ違ってゆく。


仕事や介護に追われ、生きる楽しさを見出せない暁海
仕事と娯楽に耽り、初心を忘れていく櫂。


一度離れてしまった心は、なかなか取り戻せないもので、実質的な「別れ」はすぐそこにあった。




…と、ここまではよくありがちなビターな恋愛、若いうちから付き合った男女のすれ違い、方向性の違いが原因で別れるちょっと悲しい話…ですが。
これで終わるわけがなくてですね。
更なる、地獄へのカウントダウンスタート!といったところでしょうか。まさにここから、生き地獄が始まります。


忘れたいのに忘れられない。
届けても、受け取ってもらえない。
渡したくても、渡せない。
どうしようもなく会いたいけど、会えない


忘れられない人の面影を追うのは、辛く苦しく。
さらになんと言ってもこの主人公、色んなところで恵まれていませんで。この人自身の内的な問題だけでなく、環境と運との外的要因による試練が、かなり険しい。愛おしくて大切なものばかりが失われていく。

…とまあ、未練と後悔の中で主人公、コテンパンです。笑
あまりにも虐められすぎていて同情してしまう…


ここからは、ネタバレになるので言いませんが、とにかく意外な展開にびっくり。堂々浮気バレエピローグの謎が解けるとスッキリ。さらにタイトルの本当の意味を知ってあんぐり。
工夫に工夫が凝らされた作者渾身の一作だと思います。作り込み方が違う。


是非、あなたの「星」を見つけるきっかけになりますように。もしくは、案外近くにいるかもしれない「星」のような存在に、気付きますように。



追伸
舞台が愛媛なのは閉鎖的空間を作りたかったからだけじゃないはず。穏やかで静かな、それでも深くうねる瀬戸内の海。手の届かぬ星。
煌々として美しいけど、その実深く暗く、果てしなく遠い。登場人物にも、生きることそのものにも重ねられるのがいいよね。また主人公の名前が暁海と櫂で、夜明けの海とオールなのもよい。素敵でした。

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