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【連載小説】「恋するスピリチュアル」⑱~お姫様抱っこ、からの、ぐるぐる!


さて、文学賞に一度でも応募してみた事がある人なら分かると思うが、
私はまったく、箸にも棒にもかからなかった。

すでに時代はデジタルに移行しており、年々、紙媒体の書籍数が減少している時でもあった。

雑誌の売り上げ数よりも、小説の応募者数の方が多いなどと揶揄されていた頃だ。
そんな狭き門の文学賞に、素人の私が応募したからと言って、賞に入る事など当然だが、なかったのだ。

しかし、私は懲りずに何度も手直しをしては、出版社に送り続けた。

ある時、さる地域の文学賞の最終選考に残った事があった。
おしくも賞は逃したが、授賞式には参加して欲しいと連絡があった。

はじめての事だったが、結局、賞に入ったのは私ではない。
だったら、行く必要もないのではないか?と考えたが、
ギリギリまで迷って、夕方になって決心し、急いで着替えを済ませると、
都内の会場へ出かけた。

授賞式はすでに始まっており、仕方なく、私は一つだけ空いていた
一番前の席へ滑り込んだ。

ちょうど受賞者がスピーチをしており、作品に対する熱い思い入れを語っていて、もし、自分がここに立っていたなら、どんな風に作品を紹介するだろうか?

などと頭の中でシュミレーションしたりした。

やっぱり家族への感謝から始めるかな…?

式が終わると、立食パーティになり、そういった場に出るのも
はじめての事で、私は始終落ち着かず、運ばれてきたワインをただ
ぐいぐい呑み干すだけだった。

しばらくすると、場に慣れてきて、何人かの人たちと名刺交換すると、
最終選考に選ばれた作家たちと、審査委員の先生方の席に座らせて貰った。

その席にいたのは、私と同年代の脂っ気の抜けた中年女性と、洒落っ気もなく髪もぼさぼさの私、それと、まだ20代と若い女性とがいた。

私は、すぐに、中年女性と打ち解けたが、彼女は、この作品を、ここまでが限界だろうと、覇気もなくつぶやいた。

正直、疲れていたのだと思う。

いくら書いても文学賞にはほど遠く、精魂込めても報われるとは限らないこの世界で、彼女はこれ以上、書き進めることも出来ず、これが最後と諦めている様子がうかがえた。

そして、一番若い、20代の女の子の周りには、年配の審査員が側にいて、盛んに話しかけていた。
どうやら、彼は、彼女の作品が気に入ったようで、「素晴らしかった」と褒めていた。

審査委員の二人は、私もよく名前を知っている方々で、そのうちの一人、審査委員長を務めた先生の著書は、学生時代に貪るようにして読んだものだった。

だが、彼らは私になど目もくれず、しきりに若い女性にだけしゃべりかけている。

しかし、ここで私もひるんでいるわけにはいかなかった。
なんとか話の糸口をつかんで、その輪の中に加わりたかった。

なので、じっと聞き耳を立てていた。

だが、話題は突然、他の候補者の作品になった。
審査員の作家の方は、その本の事を、
「いやあ、君のに比べたら、とんでもないものがあってね」
と言い始めた。

「ブスな大女が仇討ちをする話なんだけれど、
いやあ~、そんなのあり得ないでしょ? ホント、酷いよ」

ちょ、ちょっと待って!
それは、私の作品ではないか? と思い、慌てて、口を挟んだ。

「あの、すみません。それ、私の作品です!」

私は、大げさに自分を指で指す、ジェスチャまでしたのに、
審査員は、こちらをチラリとも見やしない。

聞こえなかったかと思い、私は、さらに大きな声を出した。

皆さんが、今、こき下ろしている作品は、
「わ・た・しの作品です!」と。

だが、彼がついぞ私の方を向くことはなかった。


つづく



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