いかごのふるさと、岡山へ
「こんなバッグ、どうかな。」
そう言ってあるスタッフが見せてくれたのは、素朴なかごの写真でした。
来夏のバッグに何を作ろうと、パラスパレス企画チームで考えあぐねいていた時です。季節は十月下旬。作り手の方に連絡を取ったのがはじまりです。
その相手は、岡山県倉敷市の須浪亨商店の須浪隆貴さん。
1886年創業、現在5代目でもある須浪さんが代表をつとめる「い草」製品の工房です。
岡山と、い草。
岡山の一部地域はもともとが海でした。
江戸時代の干拓事業で、陸地を拡大した歴史があります。
干拓地は塩分が多く農業が向いていません。そこで、塩分に強い綿や「い草」が植えられました。
そのため岡山では綿製品の製造業が盛んです。古くは真田紐、小倉織や足袋。現代は、帆布や国産デニムなどの一大産地となりました。
花ござと闇かご
倉敷い草の主な製品は、お花模様が織られた「花ござ」です。
かごは、昔は「闇かご」とよばれ、闇市用のお買い物カゴとして生活に根付いていましたが、プラスチックの台頭で姿を消していきました。
い草でつくられたかご、いかご。
い草は、畳にも使われている身近な植物。
しなやかな風合いと独特の良い香りが特長です。
現在いかごを作るのは、日本で須浪亨商店さん一軒のみ。まさに手仕事が生きる日本のかごバッグでした。
工房を訪れて
こういうのが作りたい、とメールや電話で何度か須浪さんとやり取りをしたのち、実際に倉敷の工房を訪問しました。
工房の最寄駅につくと、須浪さんが車で迎えてくれました。
車に乗り込むと、ふわっと「い草」の良い香り。
「車の中も良い香りなんですね!」と話すと
「そうですか?僕もう鼻が慣れちゃってわからないんですよ。笑」と須浪さん。ポケモンのマスコットが揺れる車は田園風景の中を走ります。
田園といっても、い草畑ではありません。
「昔はこの辺でもい草を育てていたみたいですけど……、今ほほとんど無いですね、工房で使うい草は、熊本産、一部福山産のものを仕入れているんですよ。」
お話しをしながら工房に到着しました。
しっかり重厚な佇まい。平屋の日本家屋とたくさんの陶器の甕がお出迎えです。
須浪さんは民藝品や骨董品の蒐集家でもあるので、家自体が民藝館のようでした。
工房に到着してさっそく見せていただいたのは、木製の大きな織機です。
須浪家オリジナルの手織り機で、修理をしながら大切に使い続けています。
須浪さんがいかご作りを習ったのは、おばあさまから。
家業で花ござや畳表を作っていたそうですが、辞めてからは生活の足しにと、おばあさまがいかごをつくっていました。
当時30〜40年前から、いかご屋さんは一軒のみ。おばあさまは今でも須浪さんのカゴ作りを手伝っています。
時々覚醒したように(!)すごい勢いで作るという、頼もしいメンバーです。
いぐさの織り機
ばったんばったんと縄を織っていきます。一段ずつ縄が積み上がり、反物がすこしずつ長くなっていきます。織りながら縄数のパターンを変えていて、模様が入っているのは、闇かご時代から地域に伝わる、伝統的な織り方だそうです。
織った反物をカットして編んでいきます。
編み、仕上げ、と全てが手作業で丁寧に作られています。
こうして出来上がったかごに、持ち手に革を使ったり、巾着をつけたり、須浪さんと相談しながらアレンジを加えました。
スイカかご
この夏パラスパレスに登場したのは、手提げとスイカかごタイプ。
スイカかごは、七宝模様で編まれています。連続して花がつながる縁起の良い模様です。赤い革の持ち手がアクセント。
スイカかごは、長い数本の縄を編んでいきます。通常より長くて丈夫な良い材料を選別して使う必要があり、たくさん生産ができません。
そのため数に限りがあり、ありがたいことに、あっというまに品薄状態となりました。
新しいたたみの香り
和室に入ったときのあの香り。い草の独特の香りが楽しめるバッグです。
香りの秘密
実は、たたみのあの香りは、い草そのものの香りではないということ。
刈った草を泥のプールに通し、かさを均一にするための「泥染」という工程によるものなのだそうです。
泥といぐさが反応することによってあの香りが生まれているんですね。
香りは時間が経つごとに薄れていく、期間限定のお楽しみです。
縄の束をポンポン叩くと、泥の粉が舞っていました。カゴは、かたちにしたあとにコンプレッサーで粉を吹き飛ばしています。泥染のなごりと思うと面白いですね。
須浪さんと話して
お仕事していて楽しいことはなんですか?
「……(じっくり考えて)全然…楽しくありません、疲弊しています。笑」
「だけどめちゃくちゃ苦しいとか、大変すぎることもありません。隙あらば仕事をして、真面目に取り組んでいるんですよ。」
「かごを編みながらサッカーを観るのが楽しみです。」とぽつり。
そう言いながら手元を見ずに、スイスイとカゴの端を編んでいました。
「僕がかご作りを始めたきっかけは、おばあさんの影響です。前は別の仕事をしながら、夜に作ったりもしていました。それがだんだん専業になって。最初はやりたくて始めたわけでもないんです。」
ものづくりにおいて、新しいアイデアはどこから?
「集めた骨董や、地元の古いかごを参考にして作ったり、ほかの地域のかごを参考にして作ることもありますね。」
「いぐさの癖と、織機を使う制約、ふたつの折り合いをつけると参考にしたものから離れて新しいかたちになるんです。」
「今回のバッグのようなアレンジも全く嫌ではないし、変化にこだわりはありませんよ。」
淡々と、自然体に。背伸びをしない。かごを作ることは生活の一部という印象を受けました。
お部屋が骨董や民藝品、ポケモンのコレクションで溢れ、暮らしを楽しんでいるのが伝わってきます。
いかごの特長
畳と同じように、いかごは色が経年変化します。数ヶ月で青みが薄らぎ、数年で干草色に。
使い込むほどに手の脂で艶が出て、形もどこか丸みを帯び、風合いもしなやかになります。
肌あたり、衣服へのあたりも優しいかごです。
いかごは一生モノではありません。人間と同じように変化があり寿命があり、変化を楽しみながら、使う人に寄り添うバッグです。
そんなかごバッグを、お店で実際に手に取って、感じて頂けると嬉しいです。ぜひ、さわやかな香りも吸い込んでみてくださいね。
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