ぱる

書評を主に、考えたことを書いています。

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最近の記事

『夜と霧』読書会を開きました

今年立ち上げた職場での読書会で、ヴィクトール・フランクルの『夜と霧』をとりあげました。 今までは、何度も読んでようやく著者の意図するところを読み取ることができるような本については、一人で問いを繰り返すだけでした。 それがこうして他の人の意見や感想を直接聞くことができ、得難い機会だったな、本当に読書部を作ってよかったなと思いました。 本について話し合うなかで印象的だったのが、 「自分は、もともと生きることに特別な意味はない、自分が存在することはただの偶然だと思っているので

    • 日本は貧しくなったのか

      よく、日本は貧しくなったと言われます。 増えない収入、円安、GDPの低下、その他いろいろ・・・。 最近も、PS5が多くの人には手が届かない価格に大幅値上げされ、ソニーはもう日本市場を見捨てたなどと話題になりました。 確かに、貧しくなった気がするニュースをよく目にします。 でも私は、必ずしもそうは思っていません。 別に私は、精神論を述べるのではありません。 所得やGDPの数値は、豊かさのごく一部を数字にするに過ぎないというだけです。 ロバート・F・ケネディが大変心を打つ言葉

      • 裁判制度の欠陥〜事実認定能力の低さ

        世間の裁判に対するイメージって、どんなでしょうか。 裁判所が、事実に基づいて、公平な観点から判断をしてくれる、そんな漠然としたイメージでしょうか。 日々裁判をやっている実感は違います。 裁判は、真実を述べる側が負けるなんて、ざらです。 一番問題なのは、裁判所は、何が事実かを判断する能力が低いということです。 結果、必然的に誤審が多いということになります。 これは、裁判官の能力が低いという意味ではありません。 仕組みの問題です。 裁判で一番争われるのは、事実です。 つ

        • スピッツ『ときめきPart1』

          アルバム「ひみつスタジオ」の11曲目。このアルバムで一番好きな曲です。 弦のシンプルで短く、優しいイントロで始まります。 サビの歌詞が なのですが・・・ 私たちは本当に、あきらめながら、小さな夢を塗りつぶしながら日々暮らしているなあと感じます。 気がつくと、もう塗りつぶすものも残っていない。 この歌、若いアーティストが歌っていたら、曲の付属品としての歌詞でしかないと感じたかもしれません。 でも50代も後半に入ったスピッツが歌うと、そうだな、私にもまだ白いページが残っ

        『夜と霧』読書会を開きました

          新版『夜と霧』(ヴィクトール・E・フランクル著、池田佳代子訳)~人生から問われるということ

          アウシュヴィッツから生還した精神科医の著した記録として、大変有名な本です。今回、初めて読みました。 単行本で本文157ページの短い本ですが、生涯持っていようと思った本でした。 読む前に勝手に抱いていたイメージとは異なり、この本は、アウシュヴィッツの悲惨さを告発した本ではありませんでした。 そして、だからこそ、世界的なベストセラーになったのだと思います。 なお原題は『EIN PSYCHOLOGE ERLEBT DAS KONZENTRATIONSLAGER in ...tr

          新版『夜と霧』(ヴィクトール・E・フランクル著、池田佳代子訳)~人生から問われるということ

          スピッツ『ありがとさん』~「ありがとう」と言われる曲

          スピッツの一番新しいアルバム「みっけ」に収録されています。 私はこの曲が大好きで大好きで・・・。 「みっけ」の中では断トツで好きです。 YouTubeにフルバージョンが公開されています。 曲ももちろんですが、歌詞がやっぱり素晴らしい。 草野さんの歌詞には「まあまあ普通の恋愛」系、「ストーカー」系、「自分だけの道」系、「人とのつながり」系など、いくつか系統があって(独自分類)、ひとつの曲の中でそれが組み合わせてある場合が多く、幅広い解釈が可能です。 でも『ありがとさん

          スピッツ『ありがとさん』~「ありがとう」と言われる曲

          『水たまりで息をする』(高瀬隼子 著)

          先日『犬のかたちをしているもの』を読んで好きになった作家、高瀬隼子さんの新しい中編『水たまりで息をする』を読みました。 すばる2021年3月号で発表された作品です。 単行本になる前に、文芸誌で作品を読んだのは生まれてはじめてでした。 読み始めたちょうどその頃、本作が芥川賞候補になったことが報道されました。 そして読み終わって、確かに、非凡な作品だと思いました。 主人公の衣津実は夫と二人ぐらしの36歳の女性で、子どもはなく、共働きです。 ある日、夫が、風呂に入るのを止めたと

          『水たまりで息をする』(高瀬隼子 著)

          『いい子のあくび』(高瀬隼子 著)

          『犬のかたちをしているもの』で好きになった作家、高瀬隼子氏のすばる文学賞受賞後の最初の作品とのことです(「すばる」2020年5月号掲載)。 以下は集英社の紹介文。 実家で、学校で、職場で、恋人の家で。公私ともに、直子は「いい子」。でも、悔しい。ぶつかってくる男をよけるのは、コーヒーフィルターを補充するのは、なぜいつも私でなければいけないのか? 女だから? 「割に合わなさ」を叫ぶ、すばる文学賞受賞第一作。 著者と高橋源一郎氏との対談では、以下のようなやりとりがあります。

          『いい子のあくび』(高瀬隼子 著)

          『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子 著)

          著者と高橋源一郎氏の対談が興味深くて、それをきっかけに読みました。第43回すばる文学賞の受賞作とのことです。 ちょうどこの作品を読み終わったころに、著者の『水たまりで息をする』が芥川賞候補になりました。それで著者を知った方も多いかもしれません。 私は小説にアンテナがないので普段は滅多に読まず、しかも新人の方の本となると、ほとんど触れる機会がありません。 でもこの本はすごくいい作品だと思いました。 いくつも要素があるので感じるところは人によって違うと思います。 私自身

          『犬のかたちをしているもの』(高瀬隼子 著)