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パイナップルみかん短編&詩集(R4/11)

「紳士なゾンビ」
私は今日も母の墓の前で夜を明かすつもりだ。 毎日毎日ここに来る。 他に居場所なんてない。 もう何回も泣いたはずなのに、涙は枯れることがない。 「おやおや、どうなさいました?」 振り向くと片目のゾンビがいた。 吐息に腐臭が混じる彼は、今では私の数少ない友達だ。

「浮かび上がれず底でたゆたう」
まっくら。。。 なーーんにも見えない。 明かりも流れもない海底は、私に安寧をもたらした。 ここには確かに得るものは、なんにもない無い。 でも私を傷つけるものも無い。 水面を眺めれば、沢山の影が忙しなく泳いでいる。 みんなファイト。

「千切れゆく記憶のページ掻き集め」
わからない。 わからない。 わからない。 気がつくと頭の上から砂がサーっと落ちてくる。 砂が目に入って痛い。 私は大きな砂時計の中で叫んだ。 コツンと頭に痛みが走った。 小石だった。 その小石で思い切りガラスを破り、 私は世界へ飛び出した。

「水槽でヒソヒソ話す熱帯魚」
なぜか急に目が覚めた。 いつも朝までぐっすりなのに。 おかしいな。 お父さんもお母さんも目を閉じてぐっすりだ。 なんとなく水槽のガラスに顔を近づけたて、驚いた。 ガラスの外では、見たことのない人間が、灯りもつけずに私たちを凝視していた。

「雨音に泣く本に埋もれて」
ポタポタと屋根から落ちる雨粒が
古書の背表紙伝ってく
泣き濡れた本に埋もれて宿にする
野良が三匹スヤスヤと
猫の手も借りぬ古書店いつの日か
帰る主人を待ち侘びている

「今まさに砂になるなり手のひらで」
さっきまで私の手の上で羽ばたいていた小鳥ちゃんが、鐘の音とともにサーっと砂に変わっちゃった。周りを見渡すとさっきまであった景色は全て砂漠に変わっていた。これから一年間、私はまた砂の上でひとりぼっち。二、三日で慣れるけど、この瞬間はいつもツライ。

「パフェの沼」
早くここから出ないと。ようやく目の前の岩のようなイチゴを乗り越えたら次はドロドロの生クリームに足を取られた。抜けない。近くにあったポッキーをつかみ必死に抜け出した。途端に足が凍るように冷たい。今度はアイスクリームが私を文字通り足止めする。 ダイエット中の私の脳内。

「焚き火ジェンガ」
ゆらゆらゆら 燃える炎がまたひとつ
夜空に向けて積み上がっていく
チリチリと舞う火の粉は まるでお星様に憧れているよう
薄い煙の向こうには天の川
燃える焚き火を積み上げて
天をも焦がす炎の祭り
ゆらゆらと ただゆらゆらと ゆらゆらと

「じぶんもどき」
初めは人に褒められたかった だから痩せた だから勉強した だから頑張って働いた 自分の欲しい物、やりたいことは押し殺した するとだんだん身体が勝手に動くようになった とても楽だった でも、もうやめたい 自分のために生きたい だけどもう無理 そう 私は「じぶんもどき」になっていた

「無題」
あなたにハンカチを拾ってもらったときから ため息ばかりの毎日です
遠くから眺めるだけの毎日です
何にも出来ない毎日です
自分には
自分なんか
自分なんて
胸の苦しい毎日です
でも今日は少し楽になりました
自分を責める呟きを 風が流してくれたから

「無題」
失恋も涙と共に流したい
この街は君との思い出が多すぎて
何処に居たって息が苦しい
景色を見ないように 僕は足早に歩いた
はやくはやく 遠くへ行きたい
歩いても歩いても 君との記憶が鎖のように 胸に絡んで苦しくて
僕は鎖を引きちぎるように 全力で走った
君がいない街まで。

「無題」
あんなにも愛した君がいない街
夕暮れも寂しいだけの河川敷
宝石の入っていない箱なんて
ゴミ箱に早く捨てればいいのにさ
いつまでも留まっているバカみたい
あなたとの記憶を映す水面には
嫌いにはなりたくはない街映る
だけどもう二度と好きにはなれるわけない

「無題」
トロトロと流れる時間ゆるゆると
眠気混じりの雲に乗り
降り注ぐ涙の雨を覗き込む
晴れよりは曇りが好きな昼下がり
明けては暮れる空のうつろい

「無題」
好きだよと伝えたことも忘れられ
君と歩いた河川敷
振り向いた君は僕には眩しくて
嬉しさよりも苦しさに
包まれた夕陽の空に涙した
君と出会った秋の夕暮れ

「無題」
白けむるまどろみの中おはようと
重ねた指にこもりいた
ぬくもりと香りにしばし酔いしれて
今日も今日とて二度寝する
起きたならはたと気づいた夢見ごち
もう彼の人は温もり残し

本日もお読みいただきありがとうございました(^^♪

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