見出し画像

28.視界【ショートショート】

「やあ。ようこそ死後の世界へ。
 あ、自分が死んだことは自覚出来てる?理解しやすいように色々小細工してみたんだけど」
 明るい口調で話しかけてくる彼?彼女?中世的で性別不明なそいつは、浮かぶ天使の輪に蝙蝠のような羽に和服の死に装束に謎の大鎌と、節操のない格好をしていた。
 死んだ自覚はあると告げる。病死だと思う。急な心臓の痛みに襲われたのをはっきりと覚えていた。
「それで、俺はこれからどうなるんだ?お前が天国に案内するのか?」
 性別年齢不詳のそいつがせっかくいっぱい用意したのになどとぼやきながら装飾品を何もない虚空に放りつつ、説明し始める。
「まあまあ。
 そうだね、君は輪廻転生って知ってるかい?死んだ魂が死後の世界を回って浄化されて、また現世に生まれ変わるってやつ。
 魂はその穢れ具合によって六道の世界、地獄界・餓鬼界・畜生界・阿修羅界・人間界・天界のいずれかに振り分けられるわけだけど」
「なんとなく聞いたことはあるな。
 それで?選ばれた人間の俺は天界に行けばいいのか?」
 優等人種の中でも優れた才能を持った俺なのだから、当然だろう。さっさと案内しろと急かすが、まだ話が続く。
「なんだけど。君みたいな選民思想を持った人間が凄く増えてきたから、仏様が新たな七道目を創られたんだ。その名も“視界”。
 君は今から、那由多の数――とにかくいっぱいの数だけ、色んなモノの目に映る世界を体験してもらうよ。様々な物を見て、感じて、魂を磨きなさいって仏様の思し召しだよ。
 じゃ、お勤めしっかりね」
 何もわからない説明が終わると、自分がどこかに引っ張られるのを感じた。

 あれからどれだけ経っただろう。選ばれた人間などととんでもなかった。人間など二度と御免だ、生まれ変わるなら貝になりたい。
 那由多の数に辿り着くのはまだまだ先だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?