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46.イヤホン【ショートショート】

 昼休み。僕はイヤホンで耳を塞ぎ、独り漫画を読んでいた。
 流れる曲は、学生の間で徐々に人気が上がってきている女性ボーカルのロックバンド。澄んだ綺麗な声とは裏腹に激しい曲調のハードロックを歌い上げる、新進気鋭のミュージシャンだ。
 誰かに話し掛けられても判るように、音量は小さめにしてある。
 開いた漫画単行本は、実写映画が最近放映され、原作改変で酷評されていた作品を読んでいる。改変で酷評されるということは、それだけ原作が面白いのだろうと読んでみることにしたのだ。
「なにお一人様モードかましてんの。その漫画、映画が盛大にコケてるやつじゃん。面白いの?」
 友達がいたずら気味にイヤホンを片方奪い、話しかけてきた。僕はそれに、うざったそうにする振りだけして答える。
「最初はちょっと作者の思想の押し付けを感じたけど、面白いよ。構成が読み易くてスイスイ読み進むし、主人公のちょいウザキャラも案外ハマる」
 友達は「ふーん」と生返事。興味があるのは漫画ではなく別のことのようだ。
「てかスマホあるんだから電子でよくない? 別にいいけど。
 それより、なんで今時有線イヤホンなの? もうワイヤレスも殆ど金額変わんないじゃん」
 僕はよくぞ訊いてくれたと言わんばかりに、熱弁を奮う。
「ちょっと古い漫画とかで、何聞いてんの? って有線イヤホンの片方取って一緒に聞くみたいなシーンあるじゃん。あれ、コードで二人がつながってる感じがしてすごく良いんだよね。あれがやりたい。
 僕は、あれが、やりたい。
 ……相手はいないけど」
 友達がちょっと引いてるように見えるのは気のせいだろう。
「そ、そう。
 でもさ、あそこの女子たちこそっと言ってたよ」
 ニヤニヤ顔で聞きたくないことを言い放つ。
「『有線イヤホンwキモッw』だって! ダッサw」
 そう笑いながら、奪った片方のイヤホンを耳に入れた。

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