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9.資金洗浄【ショートショート】
「日帰り出張扱いにするから、週末私と一緒に来てほしい」
秘書室に現れた社長に告げられる。実質社長命令だ、断れるものでもない。
「わかりました、お供いたします」
しかし、秘書室長でもなければ社長随行秘書でもない自分が何故。もしかしたら何か社長に目をかけてもらえる何かがあっただろうか。そうであればチャンスかもしれない。
「切符は取ってもらっておくから。じゃあ頼んだよ」
ポジティブな考えに浮かれ気味な僕の肩を軽く叩き、社長は秘書室を出て行った。
後日。室長から渡されたチケットは鎌倉駅が目的地だった。チケットを渡す室長の顔が何時になく神妙に見えた。きっと何か重要な仕事を言い渡されるのだろう。
約束の時間通りに、運転手付きの社長の車が現れる。促され乗り込むと、車が走り出した。
「あの、本日はどちらへ」
「なに、私が毎年行っている資金洗浄だよ」
耳を疑った。犯罪ではないか。軽く告げて良いことではないだろう。ていうか何故そんなことに僕が同行する必要が?
「はっはっ。そう身構えずに。着けば解るよ」
僕がビクビクしていると車が止まった。神社だ。とても資金洗浄に関係すると思えない。
「ここは?」
僕が怪訝な顔をすると、社長はいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ここは銭洗弁財天だよ。聞いたことないかね。お金をザルで洗って金運を上げるってやつだ。私は毎年ここに願掛けに来ているんだがね、もう家族も一緒に来てくれないから社員に付いてきてもらってるんだ」
ああ、なんだ。それならそうと最初から言ってくれればいいのに。社長も室長も人が悪い。
安心した僕は、社長と共に銭洗の水場へ進み財布の中の現金を洗う。
社長がにこやかに僕の方を振り向いた。
「ところでここはキャッシュカードにも効果があるそうだよ。さあ君も」
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