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15.冥途の土産【ショートショート】

 空に浮いている。見下ろすと、自分が倒れている。
「そうか。俺死んだのか」
 妙に冷静だった。助かりそうもない自分の体を見て、諦めが付いたのだろうか。
 これからどうすればいいかはなぜか感覚で解った。魂にも本能的なものがあるんだなぁ、と初めて知った。
 導かれるように飛んでいると、天界の入り口と思しき雲を抜けた。そこにはおよそ似つかわしくない建物が建っているではないか。看板には”土産物屋”と書かれている。
 訝しげにその建物に入ると、店主が「いらっしゃい」と、軽快に出迎えてくる。
「ここは何の店なの?っていうか、天界に店?」
「見ての通り、土産物屋ですよ。まあ、贈る相手は閻魔様や裁判員達といった大王様方が主ですがね」
 疑問を投げかける俺に店主はいかにもな営業スマイルで答える。なるほど、要は判決を下す連中への心証を良くするための袖の下みたいなもんか。しかし、死んでるのに支払いはどうするんだ?
「お客さんが生前稼いだ金があるでしょう?その金額に応じて徳として換算して、支払いに充てるってわけです。地獄の沙汰ならぬ、冥途の沙汰も金次第ってね」
 思ったことを質問すると、冗談っぽく教えてくれた。しかし、世知辛い話だ。
 だが、贈り物で機嫌を取るのは、確かに印象を良くする常套手段だ。向こうで少しでもポイントを上げておきたい俺は、使わせてもらうことにした。
「じゃあ、高級石鹸と良質な着物を貰おうかな」
「石鹸と着物、ですか?大王様方は良い暮らしされてるので、喜ばれますかね?」
 怪訝な顔の店主の言葉に、にぃ、と笑い俺は答えた。
「いいんだよ。俺が贈る相手は極卒どもなんだから」

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