第1回 読書「走る道化、浮かぶ日常」(九月)


どうも。自家焙煎珈琲パイデイアです。

前回は「コンテンツ紹介って紹介するコンテンツではなく、コンテンツを紹介する人に本質があるよね」なんて話から、ちょっとだけ私の趣味守備範囲の話をしました。
が、どんなに私の話をしても、やっぱり本質的に私に魅力というか、知名度のようなものがなければ、どんなに面白いものを紹介しても企画倒れなのです。
しかし、ここに私が勝手に書くだけならば、元手がいるわけでもないですし、時間と気力があれば続けられます。
私の備忘録的なものでもあるわけですし、誰に何を言われるでもありませんが、勝手に続けていきますので、どうぞそのおつもりで。

さて、今日はピン芸人、九月さんのエッセイ集「走る道化、浮かぶ日常」の記憶を留めておきます。

私はね、これが面白いと誰かに言いたかったんですよ!

九月さんをご存知ですか?
おそらくコント芸人という肩書きなのでしょうが、はっきり答えろ、と言われると困ってしまいます。おそらく、当人もそうではないでしょうか。
芸人というだけで、ちょっと人と違ってどこか変わったところがありそうなものですが、九月さんはそんな芸人の中でも異質です。

私が九月さんを知ったそもそものきっかけは、九月さんが運営する旧Twitter(現X)「九月の『読む』ラジオ」が面白くて、YouTubeでもコントをみるようになったことでした。
何が面白かったかって、何よりも言語化が的確なことです。
そして、その的確さから伺える九月さんの言葉に対する真面目さ(芸人さんに一番使ってはいけない形容詞かもしれませんが)が彼の相談に対する説得力を持たせるのです。

そんな九月さんがエッセイ集を出したいうので、見つけたら買おうくらいに思っていました。しかし、実際は見つけたら、なんて生優しい偶然は待てず、時間があれば本屋、隙を見ては本屋と、彼の本を探していました。
さて、ようやく手に入ったこの本。まず、読後感として第一声は

この手のタイプの人間で生きづらさを感じさせない人間は初めてだな

というものです。

世間に違和感を抱いたり、違った角度でものを見る人はままいます。
どこか愚痴めいていたり、ぼやいてるようなエッセイで、その角度だったり、同じものを見ているはずなのに、全く違う景色に見えている感覚が、それはそれで面白かったりします。

九月さんはこのエッセイ集でそんな違和感を吐露する一方で、それだけで終わらないとこに面白さがあります。
このエッセイ集の面白いところは、その違和感の理由をとことんまで言語化していくところです。とにかく、他人の感覚と自分の感覚の違いを言葉にし尽くしていきます。
捉え所のないモヤモヤに言葉を与えることで、みるみるうちに輪郭を持った「理由」になっていく。
ああ、言葉に出来るということはなんと気持ちいいのことなのだろう。

そして、もう一つ、九月さんのネーミングセンスがピカイチなのです。的確に言語化された違和感や現象に九月さんが名前をつけているのですが、それまた、うなだれるてしまうほど、明快。
中で私が一番好きだったのは、「太宰治ループ」です。

「あらゆることに自虐的になり、自傷的になる。その自虐的であり自傷的であることに対してさらに自虐的になり、自傷的になる」というループである。

太宰作品によく見られるパターンを生活の中に見つけ出し、それをうまく言語化して、「太宰治ループ」と名づけるまでの一連の文章に、引き込まれるわ引き込まれるわ。読んでいて、時々「この人、面白いな」と本当に声に出してしまいました。

九月さんの文章が信頼できる点は言葉の選び方に丁寧さとこだわりを感じさせるのです。
先述の太宰治が登場した際の太宰の紹介に「極端な選択による死」という言葉遣いを2回ほど使っています。
太宰の最期の言えば、言わずと知れた山﨑富栄との玉川上水での入水自殺ですが、九月さんはこのことを2回説明するのに、2度ともはっきりとは明言しません。
この「何を言語化して、何をあえて伏せるか」のバランスにおそらく、九月さんは相当こだわっていらっしゃると思うのです。
そのこだわりを感じるたびに、この人の文章は信頼出来るな、と思うのです。

言語化するというのは、思考を深めるということです。
類義語がたくさんあり、言い換えがいくらでも出来る日本語において、どの言葉を使うかという選択は、自分の思考に対してそれだけ深く考えたか、というひたむきな姿勢でもあります。
九月さんのとことんまで言語化させる姿勢と選択する言葉へのこだわり、それだけの熱量が紡ぐ文章が最高に良かったです。

なんて貧弱な言語化なんだ。
あーあんなにうまいこと言葉にできないよ。

ということで、今回は、九月さんの「走る道化、浮かぶ日常」でした。

HPでも毎週金曜日、「焙きながらするほどでもない話」というエッセイを更新しています。こちらもぜひ、ご一読ください。

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