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13.自由がいい

 昨年4月、夫の転職に伴い岩手県へ移住した。それまで住んでいた秋田の家は駅や病院から遠く、車を運転しないわたしにはとても不便だった。だから引越し先の家は駅、病院、スーパーへ徒歩圏内が絶対条件。そこに間取りや家賃等も関わってくるので、探し始めた時点で、すでに理想が高すぎる!状態であった。

 ところが夫がさらなる条件を加えた。「ペット可」である。

 このエッセイは、自分が毎日何を思い考えているかを自分で知るため、そして友人・知人への近況報告も兼ねて書いている。
 日々の過ぎていってしまう小さなことをすくって、自分という棚にはなにが収まっているのか、棚おろしの意味をこめて綴りたい。

 我々夫婦は2020年に結婚した。お互い宮城県出身で、出会いは職場だ。思えば共通点はそれくらいである。同じ県出身、同じ職場。

 そのような二人がなぜ結婚するに至ったかといえば、タイミングに他ならない。わたしが体調をくずし、心身共に健康に生きていく方法として、結婚しか思いつかなかったのだ。当時付き合っていた夫に、頼み込んで結婚していただいた。感謝している。

 さて、共通点が少ないということは価値観が違うことでもある。共に生活するようになり、様々なことで擦り合わせが必要だった。起床就寝時間、家事全般のやり方・頻度、食事の献立等々、あらゆることが違ったのだ。

 しかし、あきらめた。初めこそ自分に合わせてほしいとお互い願ったが、日を追うごとにそれは無理だと気づいた。合わせられる部分は合わせ、無理な部分はお互い放っておくという方法でなんとかなっている。

 そのような折、ペットを飼うという選択肢が舞い降りた。

 引っ越す前から、夫はSNSで犬の動画を見ては「犬をいつか飼いたい」と何度もつぶやいていた。だが、どのような犬を飼いたいのと問えば、ハスキーかサモエドを10頭、と非現実的だった。猫でもいいなぁと夢見心地だ。

 しかし引っ越しというチャンスに合わせ、とうとうペットが飼える環境を整えるという。これは現実味を帯びてきた。わたしは動物を飼ったことがないので不安だったが、お互い干渉しすぎないようにしている我々にとって、ペットを迎えることはなんかいいかも、と小さな期待が生まれた。

 その後、奇跡的に条件の合う物件にめぐり合ってしまった。これはなにかのご縁、引っ越しが落ち着いたら、犬もしくは猫を飼うぞー!と夫婦で盛り上がった。

 そして2022年3月現在、未だペットはいない。

 あんなに盛り上がったのにどうしたのかと言えば、結局わたしたちはまだまだ自分の時間が大切なのだった。

 引っ越し後、ペットショップへ行き、犬や猫を抱き、店員さんから話を聞いた。飼い方の本を読み、気を付けるべきことを確認した。動物の保護団体のブログやSNSをチェックしまくった。

 それでも。休日にふらっと出かけられなくなるんだなぁ、泊りがけの旅行がしづらくなるんだなぁ、天気が悪くても散歩にいかなければならないんだなぁ、エアコンはつけっぱなしにしなくてはならないんだなぁ、お気に入りの家具がボロボロになるんだなぁ。

 なにより、口には出さないが「(生き物を飼うということは)夫婦でお互い今より踏み込まなければいけないんだろうなぁ」。

 そのような自分勝手な都合の悪さが押し寄せ、結局家族に迎えられないのだった。

 無責任にペットを飼わない方がいいから、自分のライフスタイルに合わせて迎えていない、と言えば聞こえはいいが、要は自分が一番大切で、自分の世界を何者にも侵されたくないと夫婦そろって考えているのだ。せっかくの共通点だが、子供じみていて非常に恥ずかしい。

 とはいえ、まぁそれもありだよねと開き直ろうとした矢先、SNSで「犬のいない自由より、犬と一緒にいる不自由のほうがいい」という、糸井重里さんが愛犬について語った記事タイトルが、ガツーンと目に入る。

 いつだって自由がいいわたしたちは、その域に達することが当分できそうにない。


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