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不貞腐れたり


できるだけポップな人生でいたいと思っている。いたいと思うというか、そういうものにただ憧れているだけというか、できるとかできないでなくそういうものを理想に掲げて、置いている。それはほかでもなく私がひとつひとつのものごとをいつだって、この世の終わりみたいに哀しく捉える性格だからだ。一番離れたところから、そこを目指しているというだけだ。

最近東京ラブストーリーを見ている。映像をずっと目で追い続けると必ず気分が悪くなる体質なので、毎日、少しずつ見る。90年代ドラマを生きる彼や彼女たちは、スカーフを使ったファッションを着こなし、平日の仕事終わりに日付を越すまで遊び歩き、寝不足になりながらスキップで出社し、明るくおはようございまーすと笑い、仕事中に個人的な電話を相手の会社にかけて、取り次いでもらう。そして夜中に電話をかけ、かけられ、起こされて布団からずり落ちながら手を伸ばし固定電話を抱えて、文句を言い合う。これが本当なら眩しすぎるのではないか?私も好きな人の会社に電話をかけて取り次がれてみたい。眠いことに憂鬱にならないで、充実した日々のしるしみたいに仕事したい。

まだ7話までしかみていないので、そのあとのことは言わないでほしいのだけど、ヒロインのリカ、彼女はいつも明るくて、例えば自分の気に入らないできごとが起こったとき、パチンと心を入れ替えて(すごく分かりやすく)、にこっと笑う。必ず相手に分かるように、見せつけるように笑って、一旦すべてを許すのだ。でも、ひどくされたことを、絶対に泣き寝入りしたりしない。彼女は明るいまま、彼女と関わった人はあとから必ず彼女にごめんと言うことになる。それは彼女がふざけたように本音を伝えたり、拗ねたようにみせてかわいく指摘したり、何も言わなかったとしても彼女が常に相手を信じた行動を取り続けたことが、ほかの誰かから間接的に伝わったりするからだ。Twitterで「リカ派 さとみ派」と調べると、私の感覚的には圧倒的にリカ派が多い気がする。さっぱりとしているのだ。現代的に言うとリカはメンヘラ気質ではない。ここぞと言うときだけ、切実に想いを伝えるだけだ。いつもひらひらと軽い足取りの彼女に真剣な顔をされて、いつものことか、なんて風になれる男なんていないと思う。  

一方でもう一人のヒロインであるさとみは静かで一歩引いた性格。優しくて、弱くて、自分がだめなとき、(無意識に)甘えるのが得意だ。うじうじしていて、笑顔をリカに勧められたとき、「できない」と困った顔で下を向く。主人公や恋人と気まずい雰囲気のときは、「気にしないで」と言いながら、常に困ったような、つまらないような顔でいて、たまに、愛想笑いをするのだ。そして、怒っているわけではない彼女を見て、周りは彼女が悲しんでいるのではないかと気を遣い、彼女に注目するのだ。同様に検索をかけると、「さとみはあざといのでリカ派」という言葉を見つけた。確かに彼女は、自分で一歩後ろで何もしていないようにみえて、知ってか知らずか、周りを自分に気が向くようにコントロールしているのだ。そして、自由にふるまっているように見えてほかの人を優先しがちなリカとは違って、恋人(リカ)がいる主人公(かつて自分のことを好きだった)に辛いことがあったと、平気で電話をかけたりすることができる。甘え上手なのだ。でも性格が悪いように描写はされない。彼女は彼女なりに一生懸命に、考え、傷つき、泣いて、一番だと思うことをしたうえで、知らぬ間にほかの人を振り回しているのだ。

たくさん悪いように書いたが、私は彼女のことがすごく気に入っている。彼女のことが羨ましいというよりは、弱くて、すごく人間らしくて。他人のことを考えているように(彼女としてもそう思いながら)ふるまい、でも自分の好きなようにしてしまうというのが、私にとっては共感するところなのだ。そして、あの下がった眉のつまらなそうな顔が、自分自身をコントロールできないところが、とても私を苦しくさせる。彼女はいろんなことを思い通りにしているが、自分のそんな性格を好きではない、リカが羨ましい、と思っているような気がするのだ。

ものごとをつまらなそうに、唇をすぼめた顔で眺めるだけの彼女に、すごく親近感を覚えた。まあいっか、とにっこりして、楽しく生きる目線を忘れず、相手に罪悪感を覚えさせるほどに真っ直ぐで、最後まで人の好いリカを、私たちはずっと羨ましいと思い続ける。そしてたまに、大丈夫だよ気にしないで、なんて言ってみるけど、結局最後までその態度を貫き通すことができなかったりする。そしてこれは正直なところだが、(結果的に)自分を譲れないさとみのような人は得をするのだ。それも知っている。でもたまに、得をするわがままな人よりも、損をするお人好しになれたらと思う。満場一致で天国に行っていいよと言われたような、清潔な魂だねと言われたような気がするのかもしれない。そちら側に行けるときがくるかもしれない、と思っているのだ。ああでも、いい人であり続けたのに上手くいかない私を美しいと思ってほしいだなんて、結局そんなことを考えつく私は、きっとリカにはなれないのだろう。



今日のうた
「ラブ・ストーリーは突然に」だと、なんだか分かりきっていると思ったので違う歌を考えました。かわいくて好きなうた。


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