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③なんとかなるよ【ナンちゃんのはなし】


前回の投稿で、ナンちゃんは高校時代はもの静かで、いつも聞き役だったと話した。私もナンちゃんと付き合ってすぐはそうなのだろうと勝手に思っていたのだが、実はナンちゃんは頭の中で勝手に楽しんでいるから寡黙なだけで、心の中はいつも陽気であるし、酔っ払うと、結構喋る人だったと分かってくる。今日はそんな話をしたいと思う。

ちなみに表題であるが、ナンちゃんは基本的に人を励ますようなことは言わない人なので、なんとかなるよなんて言われたことは実は全くない。でも、ナンちゃんの暮らしぶりを見て、私もそこに一緒にいると、そう言われているような感覚に陥るから不思議であった。

もの静かな陽気

ナンちゃんは低くて小さい声で、静かに喋る人だ。でもここでナンちゃんの好きなものを挙げてみよう。サッカー観戦(たぶん一番はこれ)。登山、キャンプ、フットサル。付き合って最後の方は、ずっとロードバイクが欲しいと言っていた。あとはお笑い。そして、お酒だ。

もの静かなら、読書とか音楽とかカフェとか、古着とか言うんじゃないの?と思った人もいるかもしれない。そう、ナンちゃんは実はかなりアクティブボーイであり、サブカルチャーなんて全く分からないような男なのである。なんならカフェインは苦手だし。


彼を表すとき、考えるより動く派、というよりは、動いているのが好きだしあまり物事を深く考えようとも思わない、が正しいように感じる。遠距離をしていたときは、あちらから私の方に会いに来るときに新幹線を使うことはほぼなく、高速道路に乗って片道7時間かけて車で1人、ごとごとと帰ってくるような人だった。

ナンちゃんは普段お酒を飲まない時間は寡黙であったが機嫌は良く、お酒を飲むと体の中に隠れていた「ご機嫌」がでてきて、少しずつ饒舌に話し始めるのだった。ナンちゃんは、かなりの楽天家であった。心配症の私とは反対に。

キャンプに付いて行き、自然を楽しんだ
ナンちゃんはひとりで全部やる


そんなに泣くなら、辞めてこっちに来ればいい

以前の投稿に少し書いたが、私は新卒で関東に本社のある会社に就職し、ある検査センターに配属となっていた。ナンちゃんは北陸の大学に通っていたが、私は大学卒業後も遠距離恋愛を続けるのは絶対に無理!と思っていたため、ナンちゃんには関東の会社を受けてほしい思いでいっぱいで、結局ナンちゃんも私たちの地元に本社を持つ会社に就職となった。


社会人1年目からはふたりとも関東で暮らすことになり、長かった遠距離恋愛は終わりを告げた。私はとても嬉しかったが、ナンちゃんの配属先は思ったよりも関東の端っこだった。気軽に会えるという感じでもなかったため、毎週のように一緒に過ごすことはできなかった。

ナンちゃんは特に寂しさを覚えることもなく、仕事をしただけお給料が入る生活を満喫していた。彼はいつも機嫌が良かったし、ひとりで楽しむ趣味もたくさん持ち合わせていた。

一方の私はナンちゃんとたまに会えることだけが心の頼りで、仕事の方はあまりうまく行かず、不安定な感情の日々を過ごすことになる。
会社の先輩は優しいし、サポートもしてくれる。でも言われたことを時間内に終わらせられない私はほかの人より劣っているんだ…今思えば極端な思考であるが、このときはもうこの思考から抜け出せなくなっていた。
できる限り早くやらなければいけないが、絶対に間違ってはいけないという検査の仕事は、焦りやすく不安感に駆られやすい性格の私にはあまり合っておらず、顕微鏡の前に座ると、何とも言えぬ不安感と焦燥感に襲われ、思考が停止してしまうことが何度もあった。
私は週末になるとナンちゃんに会い、帰らなきゃいけない時間になるたび心細くなり、めそめそと泣きだすのであった。それを毎回みていたナンちゃんは、あるときぼそっと私に言った。


そんなに泣くなら、辞めてこっちに来ればいい。


仕方のない人だなあというニュアンスを含んだ言い方であったが、その言葉が今でも忘れられない。この言葉は、私を取り巻くすべての緊張感から解き放ち、ずっしりと安心感をもたらしたのだ。
ナンちゃんからしたら私はいつも不安定で、そんなに不安にならなくていいんだよ、と思ったかもしれない。
ナンちゃんはいつも穏やかで、それはほんとのことを全て知っているからなのかな、なんて。ナンちゃんだって本当は嫌なこともたくさんあるし、余裕のない日もあったに違いないけど、持ち前の明るい考え方が彼を支えていたのかもしれない。私はいつも、それにあやかっている幸せな彼女だったように思う。


その後の考え方

私はその後ほどなくして仕事を辞め、ナンちゃんと同棲を始めることになるが、その話はまた別のときに書ければ書きたいと思う。

ナンちゃんは私の隣にいて、いつも楽天的だった。今では、私もできるだけポジティブに、そして自分を責めるような考え方から離れることができているように思う。

ナンちゃんは別れる間際までほとんど会社の悪口を言わなかったが、なんで会社の話をしないの?と聞いたとき、「したくないから」と言ったことがある。なんだ、嫌なときもあったのか、と思った。彼は嫌なことはもう考えず、帰ったら自分の好きなことだけをやる手法を取っているようだった。
自分の機嫌は自分で取るなんていうが、ナンちゃんは嫌なことより、楽しいことに目を向けて生きていたいようだった。

私は心を健康に保つための現実逃避も、程よく必要なのだと学ぶことになった。家に帰ってその日にやった検査を全て書き出し、ポイントをまとめ、次同じものが来たらすぐできますようにと願ってすぐ寝てしまっていた私に伝えたいと思うのである。

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