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よかっ

日記

気が早くてツボミでいられずに、ひらいてしまったユリの花粉を取り除く。ここではだれもおしべなんて言わない。つまむと、簡単にぷちっととれる。真ん中にめしべがある。白と透明の間みたいな色をした、真っ直ぐなめしべ。ユリのめしべはほかの花のその部分よりも分かりやすく性的だ。より殖えていくのだという意志をもった見た目をしてる。嫌いじゃない。正直なのだ。暖かい気温を感じると開放的になってしまうのは、花も同じだ。

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孫が可愛いのねと言われて、かわいいに決まってんじゃん、と思う。あたしがどれだけおばあちゃんの前でかわいく振る舞ってきたと思ってんの。おばあちゃんがいないと行かない、絶対におばあちゃんと一緒に寝る。おばあちゃんと喧嘩して、そんな子は嫌いと言われて、何時間も布団の中で泣く。帰省するときは必ずお土産を買っていく。大人になっても、病院のベッドみたいな、介護用のそれに、無理矢理身体をねじ込んで隣に寝そべる。頭を並べると、大きくなってしまったみたい。昔みたいでしょ。いい大人がとか、言わないで、おばあちゃんの前でだけやることってあるから。あたしと姉のお土産で真っ赤になったおばあちゃんの持ち物。これ以上つけられないくらいの赤いキーホルダー。これであたしがかわいい存在でなかったら、もうかわいいのなり方なんて分からないくらい、後ろをついてまわったの。

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イヤ嫌。全て分かっているのに、納得がいかないこともある。目と目の間のちょっと上のとこがずっと変で、つつかれたら困るからずっと太ももに隠している。でもじっとしていられないから芋虫みたいな身体を真っ直ぐにする、起きる、寝る、目をつぶる、こんなふうにいられない。いつも悲しくなるのが先な感情には珍しく、今日は首のまわりがいらいらとして、深呼吸する。世界が思い通りだった頃のことを思い出す。9月はあっという間。だれがなんと言おうとあっという間だ。私はどの季節にもいたくないから、いつもすべての季節の次を見ているのかもしれないなんて。

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あたしに興味があったら嬉しい。仕方ないなと思って、あたしのいいようにあたしに嘘をついてくれたら嬉しい。
枕元に本を置いて眠るから、
悪い夢でも出てきてくれたら嬉しい。
できるだけまとわりつかせてくれると嬉しい。
ぎゅうとしたらぎゅうと返してくれると嬉しい。
鼻と鼻がくっつきそうなくらいの距離で、目を見て、見るだけ、それだけの時間が一生続いたら嬉しい。

頭を胸に押しつけながら、帰るまでの時間をのばす。頭の上で私を脇にはさみながら、たぶん、スマホでも見ているのかな。眠る。起きる。寝れた?少し。時間だいじょぶ?うん。目をつぶる。時間だいじょぶじゃない。

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8月に書いたらしい日記

8月が後半戦。今月も8月早かったな〜と言った、まだ終わってないのに。台風がくると思ってたくさんの引きこもりのためのお菓子や食品を買い込んだけど結局思ったようにはこなくて、ちらちらとコンビニにものを買いたしに行ったりする。なんか意外とだいじょぶ。 怖い映画を見る。怖がる。雨が降ってきたり、止んだりする。雨が降ってくると雨が降ってきたねと言う。雨が止むと雨が止んだねと言う。繰り返す。自分に自信があるかと問われたら、ないと答える。努力不足とあたしはできないふりをして、ほんとにできないことを、認めたくないんだなあと思う、でも自分のこと好きだ。死にたいと思ったことはある?今のとこ、ない。でも、台風が来て、全部だめになってしまえば、あたしがだめなことだって全部隠されて、それどころじゃないことの、どうでもいいことの一部になってしまうのかなくらいは思う。仮面の告白みたい。あたしは現代で現代なりに、小さいスケールで不幸を願っている。そんなこと言うもんじゃない?そんなこと言うもんじゃない…ごめんなさい。頬を撫でられている時間だけが続けばいいと思う。

涙がでたあとはすっきりするというのは嘘で、その日は一日中落ちこんでしまうことがよくある。どうしたらあたまを切り替えられるかというと、一番は睡眠で、あとは人と喋ること。寝てる間に、原因と悲しい気持ちがそれぞれの棚にしまわれることで、起きたときにびっくりするくらい切り替えられていることがある。脳ってすごい。起きてるときのあたしの脳は修行が足りてない。素直でいいと思うんだけど、もう26歳だし、そういうこと言ってらんない。



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