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星と血に代わる分析術


体がぐったりと重い。
連休直前に体調を崩してから、楽しみにしていた予定全てに穴を開け、家でぼうっとテレビ画面を見ている。
体調が悪いときは何かに集中することが苦痛で、テレビから目を逸らしてはスマホの画面を見、本を数ページぱらぱらと捲り…と何をしているでもない時間が過ぎていくだけだ。

ピコピコ、というアホっぽい音と同時に、上司からメッセージが届く。
「体調は大丈夫ですか?土曜のシフトは変わってもらったので、気にせずゆっくり休んでください。」
良かった。もちろん誰も代わりがいないなんてことは無いと分かっていたけれど、本当に代わりが見つかったという連絡が来るまでは、なんとなくソワソワしている自分がいた。

どうせなら連休まで駆け抜けてから熱を出せばいいのに、何故かいつも連休の1歩手前で潰れるな、勘弁してくれ、と思いながら、冷凍庫から取り出した甘いアイスを口に突っ込む。
たぶん上司の方がそう思っているが、私は私なりに頑張ってこれのため、特に自分を責めるようなことはしないと決めている。

少しでも思考する瞬間を与えてしまうとやるせない気持ちに襲われるので、スマホ上で指を絶えず動かしていると、韓国アイドルの「MBTI」を羅列した呟きが流れてきた。目が薄まる。

私は「コレ」が苦手であった。なんとなく「何かに基づいた性格診断のツールで、英字4文字で自分を表すことができ、韓国アイドルのプロフィールに載りがち」ということは知っていた。そして、「あの人絶対にESTPだろ〜!」とかいう風に使う。

なんだMBTIって。こんなもので全てわかった気になっている若者たちが眩しい。

2Lのお茶を冷蔵庫から取り出し、ブルーのグラスに入れてテーブルまで運ぶ。「MBTI」に埋め尽くされた韓国アイドルファンのタイムラインを見ながら、片手でテーブルの鏡をどかそうとしたときに手を滑らせ、金具の緩い鏡がパタンと閉まる。

テーブルに勢い良く伏した勢いで、グラスに鏡の縁が当たり、テーブルにいっぱいと絨毯に少し、お茶が広がった。

MBTI?なにそれ。さっきから。INTPあるある。なにそれ?


うるさいな。頼むから、MBTIなに?って私に一生聞かんでくれ。へー!A型なんだね。だから几帳面なんだあ。ていうやり取りならなんだか小さい頃からの積み重ねで受け入れられるけど。
診断をもとに性格毎に振り分けされて、その性格に名前をつけて引っ提げて、周りからいろんなこと決めつけられるなんて嫌。AのときもあればBのときもあるってば。
私のMBTIとやらを知ってどうするつもり?
私と相性ぴったりなのはこの人です!って紹介してくれるの?
MBTIの結果を皆が見えるところに書いてる人は、そのMBTIに私は大体当てはまってるから、これを参考にして(何かしらを)判断してください。てことでいい?
私のMBTIが何だったとて、誰にも教えたくはない。
自分は元気なときと体調が悪いときで性格が変わると思うから。
何より、「MBTI:元気なときは『○◯』/体調が悪いときは『◯◯』」などと書きたくない。

アイスを乱暴に齧りながら横になり、スマホでXに”MBTI どうでもいい”と打ち、検索をかける。
『どうでもいいと思うんですが、私のMBTIはINTPです』という呟きが目に入ったところで閉じた。


あぁ、今週は何も、良いことないや。

体調が悪い日はアイスとか、ファストフードとか、ケーキとかフルーツが食べたくなる。そしてカフェラテを飲みたくなる。
大体そんなときは自分に甘くしたら気分くらい晴れるかと思って好きなように食べるが、体調が悪いためそれを上手く消化できるとは限らず、その後胃がムカムカした時間を過ごすことになる。

こんな風に理論的にいかない私の気持ちを、私というものを、その4文字で表してくれるというなら是非教えてくれよ。正直、全ての人類を4つに分けてしまうような血液型占いの方がまだ、阿呆で可愛い。でも、そのたった4文字が、私を飼い慣らすヒントになるのならば、教えてくれよ。



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