読書感想文(54)江國香織『つめたいよるに』(1)「つめたいよるに」

はじめに

この本を読んだきっかけはTwitterで友人がオススメしていたからです。クリスマスから年の瀬近くの夜に読みたい本として紹介していました。それを見たのが23日の夜。そして24日の帰り道、ふらっと本屋に寄った時にふと思い出して買ってみました。明日はちょうどクリスマスだし読もうかなぁと思いつつ、読み始めたのは28日。まだ読み終えてはいません。

この本は短編集で21作も収録されています。流石に一つのnoteにはまとまらないかなーと思います。今回読んでいるのは新潮文庫ですが、どうやら『つめたいよるに』と『温かなお皿』という2冊の単行本を一つにまとめたようなので、それに合わせて二つに分けようかなーと思っています。

デューク

10ページに満たない超短編ですが、すごく不思議で温かい雰囲気の物語でした。短いので内容については触れない方がいい気がします。不思議な温かい物語です。

この作品を読んで、「もしかしたら自分は江國香織の文章が好きかもしれない」と思いました。江國香織の作品は『東京タワー』しか読んだ事がなかったのですが、これも綺麗な文章がとても好きでした。私が文章が好きな作家といえば坂口安吾なのですが、全くタイプが異なります。坂口安吾は文章がバンバン殴りかかってくる感じ(これは作品によりますが)、文章に魂が宿っている感じがします。一方江國香織の文章は静かで繊細で儚い美しさを感じます(これも作品によるのかもしれませんが)。『東京タワー』を読んだ時は雨が降っている静かな夜のような感じがしました。この作品は冬の夕暮れに灯火がそっと消えるような感じでした。いやこれはそのままか、でも本当にそんな感じで、こう、不思議で温かい感じで、年の終わり、時が流れていく寂しさのようなものを感じました。

夏の少し前

これまた不思議なお話でした。そしてやっぱり文章が、良い。初めは学校の場面から始まりますが、放課後の雰囲気が懐かしいなぁと思いました。あの感じ、もう二度と経験できないんだろうなぁ。私は放課後の教室に一人で残ることがよくありましたが、朝も早く来て一人でいるのが好きでした。朝日と静かな教室、夕日と静かな教室、二つの静かはちょっと違っていて、でもどっちとも好きだったなぁとか。そんな事を思いながら読み進めると、物語は急展開、でも優しい。そして一周回って、また日常に戻っていく。とても短いけれど、とても好きでした。

僕はジャングルに住みたい

ああ、これも良かった。もうすぐ卒業する小学生の物語。自分の小学生の頃も、色々あったなぁ、なんて。わかるよ、と思うこともあれば、自分は違ったなぁと思うこともあって、懐かしかったです。でも確かに小学生の頃って何もわからなかったよなぁと思います。中学に入ったらどんな生活になるのか、今過去を振り返ればなるようになっていたけど、なんとなーく入学したなぁ。これは今もそうなんだろうなぁ、大学を卒業して、来年度どうなるのか、私にはまだわからないけど、なるようになるんだろうなぁ、と思ってしまうのはちょっと甘いのかなぁ。少なくとも人間関係は変わるし、人間も変わるだろうなぁと思います。この作品から一節を抜き出すとすれば、「僕だって今の僕ではなくなってしまうかもしれない」。そして「俺たちに明日はない」。そう、でも、なるようになるんだろうな、多分。

桃子

これは、どう考えたらいいのだろう。ちょっと、一読では内容を捉えかねました。んー、天隆の様子がおかしくなっていく一方で桃子が生き生きとしてきたというのが印象的でした。そしてより一層青く美しく咲く花と痩せ衰えてゆく天隆と白い小鳥。青い花と白い鳥はもしかすると何かのモチーフなのでしょうか。

この作品は文体がちょっと異なりましたが読みやすかったです。今までと全然違う語り口調だけど、やっぱり同じように綺麗な文章だなぁと思いました。

草之丞の話

これも不思議な話でした。今の私は、予感した別れを感じました。今の自分もそうだけれど、きっと未来の自分も同じように別れを予感するのだろうと思います。最初に思ったのは子供の親離れです。この作品は子供の視点から描かれるけれど、同時に父親も別れを予感していたはずです。もっと言えば、別れるべき時を待っていたのでしょう。人は出会って、そして別れます。このありきたりな言葉を私はもう少し深く考えています。出会いも別れも色々あるけれど、最後の別れは死です。自分が死ぬ場合も、相手が死ぬ場合も。それは逃れられない運命だとしても、そこまで一緒にいられるのが夫婦なのだと私は思っています。でもこの作品を読んだ感想としては不適当なのかもしれません。この作品は残される側から描かれますが、自分が残す側になった時のことを考えたいなと思います。自分が残される側になれたなら、それは相手にとって幸せなことなんじゃないかと思います。

鬼ばばあ

はあ、なんというか、切ない。でも今読み終えてから振り返ってみると、この寂しさは子どもだからこその寂しさなのかもしれないなと思いました。やっぱり私はまだ子ども側の人間です。小学生の頃からそれを目指してきたはずなのに、それなのに何故か最近ひどく大人になりたいと思うようになりました。そんな事もあるさと、割り切って考えられた方が苦しまずに済むからかもしれません。でも、そういう心を失ってしまっていいんだろうか、とも思います。

この作品を読んでふと湯本香樹実『夏の庭』を思い出しました。これを読んだのは確か中学生の頃で、多分私のことが好きだったクラスメイトがおすすめしてくれた小説です。内容はもう全く覚えていません。この本を思い出したのは多分、小学生と老人の物語だからかなと思います。せっかくなので近いうちにまた読みたいなぁと思いました。

夜の子どもたち

これを読んで、自分はこれを小学生の頃に居酒屋で学んだなぁと思いました笑(お酒は勿論飲んでいません)。書くとネタバレになっちゃうから書かないけれど、でも子どもは早くこれを知っておいた方が良いと思います。子どもに読んでほしいなぁと思いました。というか、この本は全体的に子ども向けなのかもしれません。まあターゲットはともかく、私は楽しめているので良いのですが。

でも実際周りを見てみると、みんな大人になっていくなぁとよく思います。大人になるっていうのは、子ども心を隠すというのが大きいんじゃないかと私は思っています。みんなどんどん言い訳が上手くなっていきます。それになんとなく不満を持ってしまう私は、やっぱりまだ子どもなのだろうなと思います。

いつか、ずっと昔

最初読み始めたところは、やっぱり文章が綺麗だと思いました。なんだろう、こうしつこくないんですよね。私は上手い言い回しをしてやろうって感じのナルシストっぽい文章が苦手です。そうじゃなくて、わかりやすくてかつ綺麗な、機能美っていうと違うんだけれど、うーん……。

しかし読み進めていくとこれまた不思議な展開。そして最後の場面がとても印象的です。その人がどんな人であるかは、その時にしかわからないのだと思いました。そしてまた、好きになった者となら幸せになれるのだろう、と。うーん、ちょっとメルヘン過ぎるかな?でも情景も幻のような美しさでした。白波の粒が桜に変わるところが素敵だなと思いました。

スイート・ラバーズ

この作品を読んで、最初にあれ?となりました。というのも、一人称視点の文体から主人公が子どもだと感じていたのに、実際は結婚直前の大人だったからです。なんとなく文体が児童向けという感じがして、作品から遠ざけられているような、寂しい気分になりました。内容は思っていたより甘いというか、メルヘンというか。子どもに向かって「夫婦っていいものだよ〜」と言っているような感じがしました。

おわりに

江國香織の文章、いいなぁと思いました。シンプルで読みやすいです。でもなんとなく、「君のために書いたんじゃないよ」と言われているような感じがしました。もっと年下向け、小学生か中学生向けに書かれているような気がしました。でも表現が好きだなぁと思いました。

江國香織の作品が好きな人はどんな本が好きなのかなーと思って「江國香織 好き」で検索してみたのですが、なんと思ったより評判がよろしくない(知恵袋)。欲しかった情報よりもそっちの方が印象的でした。そのうちの一つに江國香織が好きな人は軽い読み物が好きなんだなぁという印象がある、というものがあって、ちょっと納得しました。確かに、重くない気がします。これが好みの分かれ目なのかなぁと思いました。読書好きの人って読み応えのある作品が好きなのかもしれません。でも私はこのふわっとした感じがとても好きです。研究書を読んだ後に軽く一作品読みたい、みたいな感じです。

この本の前編「つめたいよるに」はこれで終わりです。後編「温かなお皿」は明日中に読み切りたいなぁと思います。

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