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「パチ、いくらか用立てしてもらえねえかな?」

あることをきっかけに、おれの金へのスタンスに決定的な影響を与えた、2つの出来事を思い出した。
共に、20代前半の極貧バンドマン時代のことで、はっきり言って、あまり誰かの役に立つような話じゃない。でもせっかく鮮明に蘇った記憶だ。文字に残すことで、せめておれ本人くらいは見つめ直して供養してあげようじゃないか。

御多分に洩れず、売れないバンドマンで貧乏していたおれは、一緒に暮らしている彼女の貯金を切り崩しながら、そしてお互いの実家に甘えながらどうにか暮らしていた。
そんな中で、なぜかおれを気にかけてくれて、いろいろ世話してくれる10歳くらい上の男性がいた。バイトの後、飲みに連れてってくれたり、アパートに招待してくれたり、映画の招待券をくれたり…。

そんな感じで世話になり始めてから半年くらい経ったころ、「今晩遊びにこいよ」と呼ばれ、アパートに遊びにいった。いつものように美しい彼女さんが、いつもよりも豪華なツマミを用意してくれていた。
「まあ飲めよ。ほら、遠慮せずにもっと食え。」そんなふうにしばらく時間が過ぎて、突然言われた。
「ほんとに悪いんだけどよ、ちょっとしくじっちまってさ、どうしても100万用意しなきゃならないんだ。パチ、いくらか用立てしてもらえねえかな?」

結局、次に手にしたバイト先の給料を丸ごと渡した。10万円くらいだったと思う。それがおれの精一杯だった。
おれの彼女は当然お怒りモードだ。でも「パチさんがそれほど言う相手ならしょうがないね。きっと、ゆっくりでも返してくれるでしょう」って、渋々ながら納得はしてくれた。

それから次に会ったのは、半年後くらいだったろうか。ようやく居所を見つけると、「今、家の前にいるから」と電話して有無を言わさず会いに行った。
「今日はこれで勘弁してくれ!」1万円だったか2万円だったかを渡された。その目は怯えているようにも嘲っているようにも、おれを見ているようでなにも見ていないような目だった。
それが最後だ。


なんだか、書き始めたら思ったより長くなった。そして今、いろんな想いが交差している。
もう1つの話は、また気が向いたら…にしよう。

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