アイドルになりたかった

物心ついた時から、かわいい女の子が好きだ。
初めて抱いた将来の夢は「アイドルになること」だった。
家中のぬいぐるみを並べて、ベットの上でワンマンライブを毎日行う、幼少期をすごした。
しかし、そんな賞味期限はあっという間だった。

私は嫉妬した。
小学生の頃、TVに映る、ぶりっ子キャラのあの子をクラスの皆と一緒になって「嫌い」と言った。
本当は羨ましくて羨ましくてたまらなかった。
クラスの男子と話しただけで「男好き」だと陰口を言われる。
男子と話すことを辞める。
玉城ティナちゃんがモデルとして着ていたプチプラブランドのスエットを買った。
そこで初めてミスiDを知った。
私も玉城ティナちゃんのように着こなせるのかなと少しばかり期待した。
しかし、鏡に映るスエットは玉城ティナちゃんが着ていたものとは全くの別物に見えた。プチプラっぽさが余計に目立って苦しかった。
私はそのペラペラの服で卒業写真に写った。
玉城ティナちゃんになれなかった、不細工な私。

中学校に上がるとさらにかわいい女の子が周りに増えた。息苦しくなった。
それでも私はかわいい女の子が大好きだったのでとあるアイドルグループのおかっぱ少女に恋をした。ライブも劇場公演も、握手会も通った。
似ても似つかないけれどお揃いの髪型にした。
泣き虫だったあの子は、さっぱりとした笑顔で卒業発表をしてアイドルの世界から消えた。

高校に上がると大好きな女の子に出会った。
私とあの子は学校が大嫌いだった。
私はすぐ学校を休むし、保健室へ行き、早退していた。あの子もそうで、卒業までの数ヶ月間2人して学校サボってラーメン食べに行ったっけ。
大森靖子ちゃんを教えてくれた。
最初は何となく聞いていただけだったのに気づいたらどハマりしていた。
そして必然的に、玉城ティナちゃん以来のミスiDの存在を知った。
私の記憶の中のミスiDではなかった。
衝撃だった。カメラに向かって涙を流し、何かを訴える女の子、詩を朗読する女の子、1人劇をする女の子、絵を描き始める女の子、ギター片手に歌い出す女の子....
中にはコメント欄が荒らされている子もいた。

私は今まで色んなことを隠して生きてきた。
まるでモグラ叩きのように私がなにか発言すると、 いじめる人、同情する人、冷たい視線を向ける人....そんなほんのちょっとしたことに傷つき、私は自分を表現することから逃げた。
昔から作文を書けば先生から、保護者から沢山褒められていた。その流れでいじめられた経験を作文にした時、賞をいただいた。それでも私は弱虫なので直接話すことは出来なかった。消しゴムで何度も何度も擦り、シャー芯を何度も折った。
ほんの少しだけ自分の考えが認められたと思った。それでも私はカメラに向かって訴えかける勇気なんてあるわけない。
しかし、カメラに映る彼女たちはひたすらに美しかった。

私は何度、彼女達に助けられてきただろうか。

それと同時に私には無理だと思った。


高校の時、このもがいてももがいても堪らない日常から抜け出したくて、東京のアイドルオーディションに何個か応募したことがある。書類が通ってしまい、焦った。そうして直ぐに辞退の連絡を入れる。大変な迷惑な行為である。
しかし、最後まで残る自身もないのでこれが妥当だと思っていた。

美大に全部落ちた。
今まで頑張ってきた、デッサンや面接練習。全部が無駄になったのではないかと家族にも美術予備校の先生方にも申し訳なかった。いや、それ以上に自分が許せなかった。

家族に頭を下げて、学費の高い地元の映像専門学校に入った。
自分が何をするかで全てが決まると思った。やれることは全てやろうと誓った。
アルバイトを始めた。私は仕事が出来ないタイプだと気づいた。
クレーマーに「日本語喋れないのか」と馬鹿にされた。悔しかった。声が震えて上手く喋れなかった。目の前がぼやけた。バックヤードで1時間ほど泣いてしまった。情けない。

帰宅して、何となくTwitterを見る。
「ミスiDエントリー期間」
ああ、今年もエントリー期間がやってきたのか、今年はどんな女の子たちが見れるのかな、

リンク先をタップしてみる。
スクロールする。
気づいたらエントリーシートが埋まっていた。
迷わず、全て消そうとした

「私、このままで終わるのかな」

ふと、そう思った。

思えば思うほど悔しくなった。

30秒映像を無い素材で適当に組み合わせて作った。
しかし、さすがに映像学生なのに最悪のクオリティだった。

それでも今日中にエントリーしないと明日になったらこの気持ちは消えてしまうと思った。

「どうせ書類落ちだろうし、誰も見ないだろう」

そう思ってエントリーした。

私は誰かのアイドルになれただろうか

私は私のアイドルになれたと心の底から思える

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?