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コスタリカの病院事情

 海外で暮らすことの不安要素の一つが病気にかかったときの対処です。
ちょっとした体調不良や風邪薬はもちろん持ってきていますが、問題はそれでよくならなかったとき。今朝まさにその状態になり、病院へ行ってきたので自分の記録も兼ねてここに綴ります。

症状
6月27日の夜 喉に違和感を感じる。透明な痰が出る。手持ちの風邪薬を飲む。
6月28日 風邪薬のせいかひたすら眠い、食事以外の時間は寝て過ごす。
6月29日 よくなってる兆しが全く感じられないので病院へ行くことにする

 私の風邪はいつも喉から始まります。喉全体が痛くなり、鼻が詰まったり出たり。熱はまず出ません。今回は喉の奥の方がうっすらと痛いだけなのです。しかし声が出にくいので恐らく炎症が起こっている。ただこんな状態が初めてで不安は不安です。これ以上悪化しても困るので診察してもらうことにしました。

 コスタリカでは現在「皆保険制度」を取っています。国民は毎月の収入に基づいた金額を収め、診察が必要になった際は無料で治療を受けられるというもの。日本と異なるのは診察代、薬代が「完全に無料」というところです。一見よさそうに聞こえますが実際にはなかなか診察の予約が取れず、お金がある人、もしくは待てない人は民間の病院で診てもらっているのが現状です。

 例えば私の知り合いのSさんのケースでは、フルタイムで働いていたときは収入があったので持病の高血圧の薬を民間の薬局で購入していた。なぜ自腹で購入していたかと言えば、「そちらの方が効く」と言われたからとのこと。しかしパンデミックで仕事が減り、収入も減ってしまったので薬を買う余裕がなくなり、現在は仕方なく国保(ここではコスタリカの保険制度Seguro Socialを国保と呼ぶことにする)の病院で処方してもらっているのだそう。「実際に飲んでみて薬の違いを実感していますか」と尋ねたところ「全く」だそうです。そこまで成分に違いはないのではないでしょうか。

 私は以前、歯の治療でも国保にお世話になりました。引っ越しを終えた1月末に国保の手続きに行き、ついでに歯科検診の予約をしたいと言ったら「2月から専用のアプリが始まるから、そこから予約して」とあっさり帰されてしまったのです。とりあえずアプリをダウンロードして探り探り進めてみたところ予約完了。ちょろい!と機嫌よく検診へ。そこで虫歯が見つかります。けれどその日その場では治療してもらえず、もう一度予約を取るように言われます。そして翌日からアプリでの予約を試みるも…全くアクセスできません。毎朝6時に更新されるという診察枠を目指し、5時59分を過ぎたあたりからアクセスが集中、6時1分には予約はいっぱいになってしまうのです。最初の検診の予約がとれたのはアプリが始まったどさくさというか、慣れてない人も多かっただろうからたまたま取れただけだったのでしょう。何人かに相談したけれど、結局は「キャンセル枠を待つ」しかないことが判明。今日こそ行くぞ!と決意した日に直接病院へ行き、3時間後には虫歯を治療してもらうことができました。現地の人に相談すると、「民間の歯医者に行く」という選択肢も耳にします。しかし私はビザの関係で7万円近い金額を毎月払っているので意地でも民間の病院には行きたくないのです。これが毎月5千円くらいならまだしも。私はこの7万円に悩まされているのが現実だから使える限り国保を使いたいのが本音です。

 さて、今日の流れとしてはまずEBAIS(エバイス)と呼ばれる事務所へ行き、「アプリで予約ができなかったので空きが出るのを待ちたい」旨を伝えます。大家さんの説明ではそこの事務所で何らかの指示を出してくれるはずでした。しかし受付(というより門番のおじさん)に「アプリで予約しない場合は朝6時にここに来て列に並ぶしかない。それか直接病院へ行くんだ」と言われてしまいます。やっかいなことに事務所と病院は別の場所にあるのです。明日の朝まで待つ気はないのでその足で病院へ。何人もの人に聞きながらそれらしき受付窓口にたどり着き、「空きが出るのを待ちたい」と伝えると窓口の女性「それはここじゃなくてEBAISの事務所で順番を指示されるのを待たないといけないのよ!」と言われてしまいます。「でも私だって事務所のおじさんに言われたから来たまでで、どうしたらいいって言うの!?もう今から事務所なんて行けない」と食い下がったところ「ちょうどキャンセルが一件出たから今日は診察受けられるわよ!」とのこと。ラッキー、ラッキーです。

 ロビーで待つこと7分、名前を呼ばれます。血圧、体温、体重を計られ(2キロくらい増えてた)、身長を聞かれ、症状を説明して終わり。さらにロビーで待つと20分、今度は別の個室で詳しく聞かれます。子供の有無や最後に生理が来たのはいつか、癌の家計か(いいえと答えたらすかさずGracias a Diosと返ってきた。う、うんそうね、Graciasね)、薬品のアレルギーの有無、大きな手術の有無等に答えていきます。この後喉のチェックと聴診器で肺の音を聞いて、抗炎症薬と咳止め、鼻水の薬が処方されると説明を受けます。注射と錠剤で選べたのですが、注射の薬剤が効きすぎても怖いので錠剤を選びました。ここで医師は時間をかけて聞いてくれ、他にも何か聞いておきたいことはあるか、などととても丁寧でした。

 診察を終えてほっと一息。後は薬をもらって帰るだけ~と、この時の私は思っていました。日本のように診察の支払いや処方箋をもらう必要はありません。てっきり同じ施設内に薬局があるかと思っていたらこれまた別の場所だったのが予想外でしたが、どのみち家の方向だったので問題はありません。正午に近づきキツイ日差しが照り付ける中、国保専用の薬局まで歩き、列に並んで身分証を見せながらその場で受け取れることを微塵も疑わず「薬の受け取りです」と、言う私。「えーと、診察は今日??何時頃??」と戸惑う表情の薬剤師さん。「きょ、今日です。10時頃」時間を聞かれることに戸惑う私。「薬の受け渡しは通常診察から2~3時間後なんだ。午後また来てみて」だそうです。どうもコスタリカ人は翌日受け取りに行くらしいのです。気の短い私にはとても信じられません。病院へ行くのは医者に会うことが目的ではなく、薬を手に入れることが目的なのに。具合が悪くなる前に予期なんてできなのに。呆然と薬局を後にし、しばし公園のWi-Fiにスマホをつないでぼうっと過ごします。薬局から家は近いけれど、坂道を上り下りする元気が今は湧いてこない。お腹も空いた。ドリンクボトルの中身は空。迷った末、以前入ったカフェでサンドイッチを頼み、時間が過ぎるのを待ちます。私は日本にいたときからエスニック料理が好きでした。コスタリカの料理も基本的には何でも食べます。ただ、エスニック料理を「エキゾチックないい香り」と感じるか「うわっ臭い」と感じるかはその時の体調や気持ちの状態によるところが大きいと思うのです。具合が悪いときは消化に優しく、喉通りのいい、薄味のものが食べたくなるものです。しかもできれば和風の味付けの…。幸いなことに、今回の私の症状では食欲はいつも通りあったのでサンドイッチを完食。もうさすがに調剤も終わっているだろうと先ほどの薬局へ戻り、また列に並び、今度は無事に薬を受け取ることができました。半日がかりです。なんだかすごいミッションをこなした気分です。歩きなれてる街の道とはいえ、ぼんやりした頭と痛む喉とともに、炎天下を7千歩も歩きました。

最後に
 コスタリカの国保制度について、コスタリカ国民は好意的に評価しているように見えます。なぜなら大掛かりな手術を伴う事故や大病を患っても無料で治療を受けられるからです。現に私の知り合いは転んで足の骨を折ったり、乳がんを克服したり、膝の手術を受けたり、自己負担が必要だったら家計を直撃するような病気を全て国保で受けています。これはその時の経済負担にならないだけでなく、「いつか必要になるかもしれない医療費のための貯金」という心配事から解放されていることが大きいと感じました。
 ただ、先に述べたSさんと話していた際、「国保や予約が取りづらい。急ぎのときは民間の病院に行ってしまう」と言っていたので「政府はそのことを把握して改善しようとしているのか?」と尋ねたら「今のところ改善しようとしていない」とのこと。「それなら、政府にとっては都合がいい。国保の病院の維持管理費やリスクが減って、民間の病院が増えてそこから税金が入れば政府にはいいことしかないもんね」と言ったら「あなた頭いいわねぇ!」と心底驚いた顔をされました。「~し放題」のようなシステムは少しずつ質が下がっても気づかれにくいです。一部の稼げる人が民間の綺麗で速い病院に通えることがステータスにでもなっていったら、ますます国保の制度や病院は廃れていってしまうでしょう。私はやむを得ず多額の保険料を払っているので、どんなささいな症状でもスムーズに国保で診察を受けられるよう制度を整え改善してほしいと思います。でも所詮はよそ者なので、コスタリカ国民から声をあげてもらえたらなと思っています。国民全員が同じレベルの、質の高い医療を受けられることは、長い目で見たら治安の維持に大いに関わると考えてるからです。

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